第22話 開会式
最近僕には、三人の友達ができました。
それが二葉さんと有栖さん、それから彼方さん。
皆さんほんっとうに、顔が整ってて、二葉さん曰く、洗顔はするけれどあれでノーメイクらしいです。
信じられませんでしたが、この前リレーの練習終わりに、二葉さんが顔を洗って汗を落としていたのを見て、本当にメイクしてないんだなって思いました。
二葉さんから声をかけられたあの日から、変に弄られることも無くなり、楽しく学校生活が遅れているのでとても感謝しています。
そうして二葉さんと話していくうちに、今まで思っていたよりもずっと気さくな人だなって思いました。
いままでは授業以外で見かけることもなかったので、色々と変な噂が出回っていましたが、噂なんて当てにならないものです。
それと、二葉さんが時々見せる男らしさも相まって、普段はすっごく可愛らしい人なのに、かっこよく見えるんです。
その記憶を思い出しては絵に描いてみたり。
でも、本物の方がよっぽど、かっこよくて可愛くて……
周りに流されず自分というものを持っていて、まさに天衣無縫という言葉が似合う人です。
少し奇異な行動をすることもありますが……
それでも、僕が一番尊敬してる人なんです。
今日は体育祭。
張り切っていつもよりも早い時間に来ると、もうすでに二葉さんがいました。
「おはよ、今日は頑張ろうぜ」
「おはようございます」
二葉さんは青いハチマキをつけて、後ろの髪を結んでいて、いつもとは違う格好だけれど、やっぱり可愛くてかっこいいです。
「翡翠のハチマキ、付けてあげよっか?」
「あ、え……」
突然そう聞いてくる二葉さん。
遠慮するのも悪いと思ったので、おどおどとしながらも“はい”と返事をすると、二葉さんは僕に席に座るよう促して、されるがままです。
「髪が長いから、とりあえず結ぶね」
「は、はい」
その瞬間……
柔らかい手が頭に触れて、目が隠れるほどに伸びきった長い前髪をかきあげていって……
「痛くない?」
「はい! 大丈夫です!」
二葉さんは手慣れた手つきで、きゅっと髪を後ろに束ねていきます。
「いつも有栖の髪を結んでるから、慣れてるんだよ」
その声はとても弾んでいました。
「よしっ終わったよ」
「あ、ありがとうございます」
二葉さんは相変わらず、距離が近くてしてしまいます。
もちろん嫌というわけではなく、すっごく嬉しいんですけど、なんだか心臓に悪いです。
「それにしても……こうして見ると翡翠って凄い顔が整ってるね。美少年って感じがする」
そう言って顔を近づけてくる双葉さん。
前髪がなくなったことで、より一層視界が開けて、二葉さんの顔がいつもりよりも鮮明に見えたんです。
まつ毛がとても長くて、淡く青色に揺れる漆黒の大きな瞳を持っていて……
輪郭は無駄な部分が無くすっきりしていて、透き通るように綺麗な肌で……
改めて……今まで見てきた、どんな人よりも綺麗な人だなって思ったんです。
「翡翠の瞳って、名前と同じ翡翠色で綺麗だね。すごい珍しいな」
「メラニン色素が青色よりは多くて、茶色より少ない中間だとこういう色になるらしいです」
ただ目が焼けやすいので、いつもは前髪で隠してるけれど……
前髪が無くなったおかげで、二葉さんの色々な表情が伺えるようになったので、これからは髪を結ぼうかなって思ったりも。
何より、こんな素顔を二葉さんに褒めてもらえたことが、とても嬉しいです。
「もしかしてハーフかクォーターだったりする?」
「そうですね、クォーターです。僕の祖父がウクライナ人で隔世遺伝でこうなったそうです」
「なるほど先祖返り」
なんとか平然を装って説明しますが、二葉さんの顔が近くてドキドキします……
「あ、ごめんごめん。自分、観察癖があるんだよ」
そう言って離れていく二葉さん。
ドクドクと響く心臓の音と、カチカチと鳴る時計の秒針が進む音が、鮮明に聞こえてきて……
そんな中、教室に続々と人が入ってきました。
「おはよう二葉さん、それと、もしかして梔君!?」
「あ、えっと……おはようございます」
「めっちゃ美少年……」
「女子の私より何十倍も可愛いんだけど……」
可愛い……?
あ、二葉さんのことでしょうか?
なんて思っていたのですが、視線が明らかに僕の方がを向いて喋っているのは一体……
「梔君の目、それコンタクト?」
「あ、いえ……僕、ウクライナのクォーターなんです」
「そうなの!?」
「ですです」
二葉さんと有栖さん意外のクラスメイトとは殆ど関わりが無いので、どうしてもたどたどしく話してしまいます。
会話のレパートリーが圧倒的に少なくて、不甲斐ないです……
「結と翡翠君おはよー!」
「あ、おはようございます有栖さん」
「おはよ有栖」
有栖さんは弾むような足取りで二葉さんに近づきました。
「もうすぐ時間だから有栖は体操服に着替えな」
「結と翡翠君はもうばっちしだね。じゃあ私は更衣室にいってくるよ」
「いってらっしゃい」
◆◇
開会式が始まった。
「では暑い中ですので話は短めに、生徒の皆さん体調にはしっかり気をつけて、正々堂々高めあいましょう」
校長の
朝会や何かの集会以外では普段は見かけないレアキャラである。
その容姿は俗に言うイケおじで、密かに女子生徒の人気を集めていた。
そんな校長先生の隣には菅原先生と、その影に隠れるように縮こまっている檍先生がいる。
「毎回思うんだけど、うちの学校って先生も生徒も美形が多くね?」
「雪宗先生はかっこいい系の美人だし、新しく来た檍先生は……可愛いロリだな」
「巫校長って俳優にいそうだよね」
「他にも、柊先輩とか一年生の二葉ちゃん、柳瀬ちゃんとか転校生の有栖ちゃん。同級生だと桐谷さんか」
そんなことを生徒達が喋っていると開会式がちょうど終わって、各色の団長が務めるオープニングが始まる。
「やあ紳士淑女の皆さん。三年一組赤組団長、柊 蒼葉だよ」
その言葉が紡がれた瞬間、黄色い声が響き渡る。
その状況で男子女子問わず人気が高いことが伺えるが、正体を知っているサッカー部のメンバーは苦笑した。
「……相変わらず人気だな」
普段通りにしていればいいけれど、目についた可愛い子をナンパする悪癖は治してほしいとサッカー部の主将をしている
この前はあろうことか、檍先生をナンパしたり……
中身があまりにも残念すぎる。
とはいえ……
「さて、トップバッターを勤めさせてもらったけれど、次の団長たちに圧力をかけるために一芸用意してきたよ」
蒼葉は重厚なシルクハットを頭から外し、そこから白いハトが現れた。
しかし、布をかけると白い花に移り変わってハトは消えていた。
その花は蒼葉が手をかざすことで赤く色づき、花びらが散っていく。
刹那……
優勝旗が、青葉の手に握られていた。
大衆を騙す完璧な視線誘導。
プロのマジシャンと遜色ないほどに、流麗に展開は移り変わって……
「去年赤組は優勝をした。今年も連覇を狙わせて貰うよ」
シルクハットを右手で持ちながら、ゆっくりとその手を胸の方に持っていき、もう片方の手を背中に、左足を一歩下げ深く頭を落とし一礼する。
レヴェランスとも呼ばれるその礼は、先生や生徒、観客問わず魅了した。
そうして赤組団長、柊 蒼葉の挨拶が終わり、口笛と拍手が鳴り響いた。
「二年二組青組団長、
「置き土産とは酷い言い様だねー、みんなのハードルをあげる為だよ」
そう言ってけらけらと笑う蒼葉。
「タチわっる……」
「蒼葉だからしゃあない」
「君たち? ボクをそんないじめないでくれるかな?」
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「蓮華先輩がんばれー!」
俺の隣にいる有栖が手を振りながら、我らが団長の蓮華先輩に応援をする。
オープニング最終章。
各色の団長で、200mの徒競走が行われる。
「可愛い後輩のため、頑張りますわ!」
「ずるいなぁ、後輩ちゃんボクのことも応援してよ」
「お前は赤組だろ……早く位置につけ」
「はいはーい」
そうしてそれぞれレーンに入り辺りは静かになっていって……
空砲の劈く音と共に、一斉にスタートした。
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