序章第8話 命の境界線を越えて
相対するコアルインズとソラ、もはや逃げる機会は逸している。勝てるかどうかはソラ自身にもわからない。
「
最悪の状況を考慮し、指示を飛ばす。
コアルインズの身体がソラの方を向き、大きな金属音のような叫び声を上げる。
ソラはコアルインズの出方を伺う。
コアルインズの上方に小さな石が生成される。それが弾丸と見紛うスピードで射出される。
危険を察したソラは刀でそれを弾き落とす。腕が強く押される感覚と同時に次の石が生成されるのを見た彼はダッシュでその場を離れる。後方に石が突き刺さる。次から次へと襲い掛かる石。足を止めれば身体がズタズタに引き裂かれるだろう。ソラは遮蔽物を求めてエレベーターの裏へと飛び込んだ。石が刺さり、金属が裂ける音が耳に入る。しばらくしてその音が止まった。
猛烈に嫌な予感する。
ソラは直感を信じてエレベーターの影から飛び出した。次の瞬間、エレベーターは巨大な岩の杭によってドーナツ上の鉄塊へと変貌した。もし飛び出ていなければソラの身体は上と下の2つに別れていただろう。そんな、もしもに身を震わせる暇もなく、2発目の杭が放たれる。
ソラは回避ではなく、それに向かって行く。杭が彼に突き刺さる寸前に跳躍、杭を足場にコアルインズに急接近する。飛び交う小さい石を刀で弾きながらコアルインズ目掛けて走る。怪物の胸部を目掛けて刀を振り下ろす。しかし、その刃は分厚い外皮によって跳ね返された。手には雷のように痺れが走る。刀が手からこぼれ落ちないように握り直しながら着地する。あの外皮を正面から抜くのは容易いことではない。
「硬すぎ……っ!」
一瞬、目を離した隙にコアルインズの腕が接近していた。咄嗟に刀で防御するも、衝撃に身体が耐えきれずに吹き飛ばされる。地面との接点を失った身体は駐車場の端、落下防止のフェンスにぶつかってから止まった。フェンスは衝撃で大きく歪んでいる。さらに杭が食い破ったであろう穴が真横に空いていた。少しでもズレていればソラは落下していただろう。ソラがフラフラと立ち上がると、怪物から放たれる多くの石の弾丸が目に映った。咄嗟に体を捻り、腕と刀を利用して頭と心臓を防御する。
肩に弾丸が刺さる。肉の裂ける感覚と共に鋭い痛みが駆け抜ける。激痛に視界が一瞬白くなる。続けて太ももと腹の側部を弾丸が削り取っていった。熱い血が溢れ出し、身体から力が抜けていくような感覚が彼を襲った。さらに続く無数の弾丸によって、赤い飛沫と共に身体中が傷だらけとなった。呼吸のたびに身体全体が痛む。傷口から血が流れ出し、服が赤く染まる。キーンと耳鳴りがして周囲の音が聞こえづらくなり、視界がぼやけ始める。その中でソラは必死にコアルインズの方を睨む。先ほどソラを吹き飛ばしたものと同じサイズの石杭が発射されようとしていた。トドメの一撃に相応しい大きさの杭だ。
全身から抜けていく力を留められないソラの瞼は大仏が上に乗っかっているかのように重たく開けておくのも困難だ。
『ソラ、大丈夫? バイタルがっ!』
ウミの声が遠くの方で鳴り響く。いつもの明るい声とは違い緊迫感、切迫感が滲んでいた。彼女の顔がふっと浮かんだ。茶色の髪を後ろで束ね、緑の瞳でこちらを真っ直ぐに見つめるその姿。
普段は穏やかな彼女だが、今はどれだけ心配しているのか、声だけからでもひしひしと伝わってきた。
まだ倒れるわけにはいかない。
ソラの心に闘志が戻る。身体はボロボロで動く体力なんてほとんど残っていない。だが、気力が身体を突き動かす。
「ここで終わるわけにはいかない!」
ソラの魂の叫びと共に左手に宿る眩耀。放たれた石杭と眩耀が交わると光が炸裂、石を木っ端微塵に砕いた。
彼は連続で
コアルインズが跳躍、拳で彼を叩き潰そうとする。
「
ソラは覚悟の声と共に迷いなく空中にいるコアルインズと地面の間をスライディングで通り抜ける。
地面に擦れる感覚と共に、ソラの体はスムーズに滑り込んでいく。空気を裂くような轟音とともに、コアルインズが彼の背後に着地し、地面が大きく揺れた。だが、ソラはすでにその場に留まることなく、滑り抜けた勢いを使って距離をとりながら素早く体を起こし、素早く身を翻して怪物に向き直った。
短期決戦で行かなければ身体が持たないのは分かりきっている。そして、決めるための仕掛けもすでに終わっている。
二つ目の眩耀の槍がソラの元いた場所から迸った。強烈な爆発音と共にコアルインズがよろめく。顔はないが怒り狂った様子でソラの方を向き直した。強烈な爆発によってヒビを起点に外皮が破損、コアがわずかに露出している。そこを叩けばいかに強力なコアルインズと言えども倒れる。同時にソラも攻撃を貰えば2度と立ち上がれない。互いに次の一撃が致命傷となることが理解できていた。
怪物の腕が振り下ろされる。
ソラの足元が突如、爆発し跳躍する。
彼はクリスタで空中に足場を生成、上方向に動いていた自身の身体の動きを急激にコアへ向けて変更する。
怪物の腕はまだ地面に着いたままだ。
ソラは勢いのまま、コアへ刀を突き立てる。
「いっけぇぇぇ!」
コアへ入った刃はそれを貫通し、破壊した。その破片が四方へ散らばる。膨大なエネルギーが噴水のように放出されていく。崩れ落ちたコアルインズの身体がボロボロと灰となり朽ちていく。灰の身体は風に流されていくかのように崩れていく。しばらくして、まるで最初からそこにいなかったかのように消えていった。そして、放出されたエネルギーが集まり、中核結晶となるルイン結晶だけが残されていた。それを見届けた瞬間、ソラの緊張の糸が切れ、力無く地面へ座り込んだ。呼吸のたびに全身の傷が痛み止めを乗り越え、焼けるように痛む。
『コアルインズ消失を確認!
ウミが歓喜の声を上げる。その声はわずかに鼻声となっていた。ソラに返事するほどの元気はなかった。
『あれ?
彼女の声が少し泣きそうになる。何か答えてやらないと泣き出してしまいそうだ。
「生きてるよ、ただ話すと全身が痛むんだ」
ソラは苦痛に顔を歪めながら掠れた声でそう返した。
『よかった、本当によかった』
彼女の声からも本当に安心していることが伝わってきた。
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