第56話 暴かれた真実

冷たい夜の静寂が、村全体を包み込んでいた。奈緒美と彩はラボで徹夜の作業を続け、山川一郎の家族が関与した過去の事件の真相に迫ろうとしていた。手元にある証拠の断片を繋ぎ合わせ、隠された真実を浮き彫りにするために、彼女たちは一瞬の油断も許さなかった。


「これを見て、奈緒美。」彩はモニターの前でデータを分析しながら呼びかけた。「この手紙に書かれている内容と、山川家に伝わる古い伝承が一致しているわ。」


奈緒美は彩の隣に座り、手紙と古い書物を照らし合わせて読み進めた。「そうね。この村が守ろうとしてきたのは、ただの平穏じゃなかった。山川一郎の家族が過去に犯した罪を隠蔽するために、村全体がそれに協力してきたのよ。」


「でも、それが何を意味するの?」彩は不安げに尋ねた。「村の人たちは、それを知っていて協力しているの?」


「おそらく、ほとんどの村人は知らないまま、ただ言い伝えに従っているだけだわ。」奈緒美は推測した。「でも、少数の者たち—山川一郎のような—が、真実を知りながら、それを隠すために村を支配してきた。」


奈緒美たちは手に入れた証拠をもとに、さらに深く調査を進めた。廃屋で発見した写真には、山川一郎の祖父にあたる人物と、村のかつての有力者たちが写っていた。彼らは、村を守るという名目で外部からの干渉を排除し、内部での異端者を排除してきた歴史を持っていた。


「この写真…」奈緒美は写真を指差しながら言った。「この中の一人が、明美さんの祖父に似ているわ。もしかしたら、彼女の家族もその犠牲になったのかもしれない。」


「そうかもしれない。」彩は頷きながら、「だから明美さんはその真相を知ろうとしたのね。でも、それが彼女の命を奪う原因になった…。」


「全てが繋がったわ。」奈緒美は冷静に結論を出した。「山川一郎は、村の外部との接触を恐れ、自分たちの権力を守るために過去の罪を隠してきた。そして、それを暴こうとした明美さんは、彼にとって脅威だった。」


その時、ラボの外で再び足音が聞こえた。奈緒美たちは警戒を強め、ドアに近づいていった。ドアの向こうには、再び山川一郎が立っていた。だが、今回はその表情にこれまでとは違う陰りが見えた。


「私たちが見つけた真実を隠し通すつもりですか?」奈緒美は問いかけた。


山川一郎は一瞬言葉に詰まり、やがて重い声で答えた。「私たちが守ってきたのは、この村の平穏だ。それを壊すことで、何が起こるか想像もつかないだろう。」


「平穏を守るために、人の命を犠牲にしてきたのですね。」奈緒美は毅然とした態度で続けた。「でも、その平穏は偽りです。過去の罪を隠すことでしか成り立たないものです。」


山川一郎は苦しそうに目を伏せた。「お前には分からないだろう。この村を守るために、どれだけの犠牲を払ってきたか。」


「それでも、真実を隠し続けることはできません。」奈緒美は強く言った。「明美さんが命を懸けて見つけようとした真実を、私たちは公にするべきです。」


山川一郎はしばらく沈黙し、やがて静かに言った。「そうか。だが、お前たちがこの村に何をもたらすのか、その責任はお前たちが取ることになる。」


そう言い残し、山川一郎はラボを去っていった。奈緒美は彼の背中を見送りながら、全てが終わりに近づいていることを感じ取った。


「奈緒美、これからどうするの?」彩が尋ねた。


「私たちは、全てを公にする準備を始めるわ。」奈緒美は決意を込めて答えた。「この村の人々に、そして外部の人々に、真実を知ってもらうの。それが、明美さんの望んだことだから。」


夜が明けるころ、奈緒美たちは次の行動に移る準備を整えた。彼女たちの決意は固く、隠された真実を暴くことで、村に新たな時代をもたらそうとしていた。しかし、その代償が何であるのか、彼女たちはまだ知る由もなかった。

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