LOVERS&WEATHER(3)『ペガサスの微笑~Thunder~』

陽溜まりの6匹猫~T子&佳代~

第1話 【私の文章】

「この感覚は何!?

何かさ、10年くらい後の健斗がこんな顔かも。

ていうかさ、こんなイケメンが担任なわけ・・・!!」


その瞬間、世界が停止した後に先生だけがゆ っくりと煌めきを放ちながら動いていた。



剰りにも眩しい白銀の世界に瞬きすらも閉ざ されながら、クリスタルの結晶を纏ったよう な爽やかな笑顔に見入られて、不可思議な力 に押さえ付けられたように鼓動が高揚しなが ら、氷山になったような錯覚を覚えたのだっ た。



先生と出逢ったのは、制服姿で桜の散開の讃 歌を聴くことが叶うのも今年限りという4月 だった。


「あ~、今年は受験勉強しなきゃなあ。

マジで怠いわぁ…。」



乾 時音(いぬい ときね)は、雑踏に紛れた容姿の何処にでも居る高校3年生だ。



現在の趣味は、目の色を淡いハートに、とき めきの躍動と明日(あす)への息吹きを微笑に変化させてくれる、EMERALD MOON(エメラルド ムーン)のメンバー神村 健斗 (かみむら けんと)に枯渇するまで声援を飛翔させることなのだ。


2年前に、音楽番組『Twinkle☆Everyone!!』で、『DESTINED SOUL MATE~運命の人~』を颯爽とした銀色の呼吸を弾ませながら流れ出た雫が眩しいパフォーマンスと、 真珠を彷彿とさせた佇まいの中に、綺麗な煌めく瞳に魅了されてから、 我を忘れる人達の世界に居ることの愉しさを知ったことがきっかけだった。



健斗のファンになるまでは、身近な男性や芸能人にハートの眼差しで歓喜を注ぎながら、 自分を忘れている人達に冷却水を浴びた視線 を向けながら、嘲笑していた。



地味な容姿も相乗し、頭脳を唯一の取り柄に 磨く決意を秘めて、中高一貫教育の私立に通 学する夢を叶える為に、小学校時代から塾や 家庭教師と勉学の烈火を燃やし続けていた。



受験番号を発見した時は、開口したくす玉の 紙吹雪が周囲で踊ってくれた幻想に目を潤ま せたのだった。



体育館で高校生活も残り1年という開始を告げる式に参 加する為に、鉛のように歩く。



「どうせさ、今年も髭メガネの話の長~いあのオジサンが担任なんでしょ!!

それでさ、どうせそういう3年間で終わりでしょ!!

あ~あ、マジで有り得ないわあ。」


友人の稲垣 美有紀(いながき みゆき)と溜め 息を吐きながら、髪を人差し指で丸めて気だ るさの早期終了を願っていた。



最前列から2番目だというのに、壇上の音声 をBGMに、瞑ったまま夢の世界が手招きをしかけたその時だった。



「3年2組の担任は、北野 勉(きたの べん) 先生です!!」



「はあ!?

あの髭メガネじゃないの・・・?

ていうかさ、北野勉って誰?

まあ、またどうせ髭メガネみたいな先生でしょ。」



眠気覚ましのつもりで、未知の名前の人物に 視線を移した、その瞬間を現在も絵葉書のように脳裏から呼び覚ませられる。



マイクを握って挨拶する、穏和な雰囲気と感じの良さを携えた笑顔を捉えたまま、稲光に射抜かれて床と一体化していた。



この時は未だ、地味な自分が雷鳴の豪雨に打たれながら、慟哭する程の愛しさを体感する ことを全く予想もしていなかったのだった。


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