第15話 ある種の解答

ウィローグローブ村の地下都市を歩きながら、主人公の健一は深い思考に沈んでいた。かつて彼は経済学を専攻し、金銭は人々を幸せにするための道具だと信じて疑わなかった。しかし、異世界での体験を通じて、その信念が揺らぎ始めていた。


「なぜだろう?」健一は自問する。目の前には、自由に労働をし、自由に食べ、自由にくつろぐモンスターたちがいる。彼らは幸福そうに見え、社会は過不足なく機能している。金銭という概念が存在しないこの場所で、なぜこんなにも平和で豊かな生活が実現できるのか。


「経済学の教科書にはこんなことは書いてなかったな...」健一はぼんやりと呟いた。


モンスターたちの生活が成り立っている理由は明白だった。彼らの生活の原動力は人間に対する怒り、恐れ、そして対抗心だった。人間という存在が、彼らを抑圧し、苦しめてきた過去が、モンスターたちを団結させ、共通の目的を持たせていた。それが、自由と幸福を追求するための強力な動機となっていたのだ。


「人間とは、モンスターを蔑む悪であり、必要悪でもあるのか...」


健一は自分の考えを整理しようと、近くにいたゴブリンのリーダー、ゴルフに話しかけた。「ゴルフ、ちょっと話があるんだ。君たちの社会がどうしてこんなに上手くいっているのか、ずっと考えていたんだ。」


ゴルフは健一の真剣な表情に気づき、耳を傾けた。「どうしたんだい、ケンイチ?」


「君たちの社会は、自由で豊かだ。でも、どうしてそれが実現できているのか、本当にわからないんだ。お金もないし、厳しいルールもないのに、みんなが幸せそうに暮らしている。」


ゴルフは少し考えてから答えた。「ケンイチ、俺たちはただ、自由に生きたいだけなんだ。人間から逃げるために、協力し合っているだけだよ。」


健一はその言葉に戸惑いを覚えた。「でも、なぜこんなにうまくいっているんだ?人間の社会では、こんなことはあり得ないんだ。」


ゴルフは笑顔を浮かべて答えた。「俺にはわからないよ。でも、今が幸せだってことだけはわかる。ケンイチ、君もそう感じないか?」


健一はしばらく考えた後、静かに頷いた。「そうだな、ゴルフ。確かに、今は幸せだ。」


自分の価値観と異世界での現実の間で揺れ動く健一は、これからもこの新しい世界での生活を模索し続けることになるだろう。しかし、ゴルフの言葉が示すように、幸せの形は一つではないということを少しずつ理解し始めていた。

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