49.かなり危ない戦いだった。

 エドワルドの自爆戦法を回避するため、僕は距離を取りつつ出の早い攻撃魔術で削る戦法に切り替えていた。

 しかしそれは織り込み済みなのだろう、砂の盾で僕の攻撃魔術を防ぎつつ、突進してくる。


 ゴーレム操縦の技量が高い。

 接近するためにかなり練習してきているな、これは。


「〈ウォータースピア〉」


 水属性の初歩的な攻撃魔術を連打しながら、僕はゴーレムに距離を取らせようとする。

 砂の盾で水の槍を防ぎつつ、エドワルドのゴーレムが接近を狙う。


 〈ダークボム〉は別に接触せずとも、魔力を込めれば爆炎はその分だけ広がるはずだ。

 距離が詰まれば、一気に決めに来るだろう。


 常に互いのゴーレムを走らせながら、距離を奪い合う。


 ……駄目だ、小出しにした攻撃魔術じゃ砂の盾を削りきれない。


 接近のリスクを許容して一発、大きいのを撃たねば戦況をひっくり返すことはできないと判断した。

 賭けになるが、やらなければジリ貧だ。


 疾駆するエドワルドのゴーレムに対して、足を止めて魔術を練る。


「〈ダイヤモンドダスト〉」


 僕のゴーレムの前方が放射状に白く輝く空気で満たされる。

 エドワルドのゴーレムの動きが急にぎこちなくなる。

 〈ダイヤモンドダスト〉は相手に凍結を強いる攻撃魔術だから、このように動きを鈍らせる効果が期待できるのだ。


 もっともこれは一時的なものになるだろうけど。


「〈ダークボム〉」


 凍結しつつあったエドワルドのゴーレムが爆炎に包まれる。

 エドワルドのゴーレムはギフトで傷ひとつないが、爆炎の熱で凍結状態が解除された。

 当然、そう来るよね。

 ならこちらも予定通り進めよう。


「〈アイスセイバー〉」


 巨大な氷の剣がエドワルドのゴーレムを薙ぎ払う。

 砂の盾で防ごうとするが、残念ながらそこは〈ダイヤモンドダスト〉で氷属性の魔術が強化される領域だ。

 〈アイスセイバー〉が砂の盾を真っ二つにする。

 盾を保持していた右腕が斬れ飛んだ。


 不利を悟ったエドワルドは素早くゴーレムを〈ダイヤモンドダスト〉の領域から脱出させようと試みるが、継続している領域が再びゴーレムを凍結状態にする。


「〈アイスセイバー〉」


 その隙を見逃す僕ではなかった。

 氷の巨剣がエドワルドのゴーレムを両断した。


「決着!! 試合終了です!!」


 かなり危ない戦いだった。

 これ僕のゴーレムの魔術抵抗力が高いから一発目を耐えられたけど、そうでなければ最初の自爆でゴーレムを破壊できていただろう。

 これは後でクレイグに小言を貰うパターンだな。

 ただの幸運で勝ちを拾ったに過ぎないのだから。




 試合場から出ると、ルーバットが待機していた。


「よう、勝ったみたいだな」


「はい、ちょっと危なかったですけど」


「ふうん? 勝って当たり前みたいな言い方だな」


「……それは」


「いや。目標は高く持っている方がいいだろう」


 ルーバットは試合場へと入っていく。

 僕は控え室へと戻ろうとしたけど、腕章を付けた生徒に止められた。

 というのも次は準決勝戦、2試合しかない。

 つまり次の試合は僕の出番というわけだ。


 僕は〈リペアゴーレム〉で写し身ゴーレムのダメージを完治させた。


 そのまましばらく待つ。

 しかしさっきは図星を当てられて狼狽えてしまった。

 勝って当たり前、か。

 確かにそう思っていた。

 特に相手が一年生だったから、首席の僕の方が魔術師として優れていると思っていた。

 しかし実際には僕が戦った侯爵家の3人は予想を超える速度で成長していたのだ。


 侯爵家に生まれた者の意地とでもいうのだろうか、貴族として常に優雅たらんとしているように感じられる。

 実際には泥臭い努力を隠れてしているんだもんなあ。


 追いかけられる首席としては、ライバルたちが手強いことに嬉しさを感じてしまう。

 それでも僕の優位は揺るがないと思っているし、僕の牙城を崩せるものなら崩してみろ、とは思うのだけどね。


 廊下の壁にもたれてそんなことを考えていると、遮音結界越しに観客の歓声が鳴り響くのが聞こえてきた。

 どうやら試合が決着したかな?


 試合場への扉が開かれる。

 果たしてルーバットは、ゴーレムを連れて戻って来た。


「決勝進出、おめでとうございます。ルーバット先輩」


「ありがとうさん。次の試合、マシューが勝ったら俺とだな」


「そうなりたいと思います」


「いいね。じゃあ一足先に決勝戦で待っているぜ」


 僕はゴーレムを連れて試合場へと向かう。

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