映画

「東京でも星が見えるんだね」

 彼女は後ろ手を組みながら、そんなことを言った。夏の終わりごろだった。

 俺は黙って彼女と、彼女が見上げている星を見つめた。彼女の見ている星と俺の見ている星は同じだろうかと、ふと考えてしまった。夏の終わりを知らせるように、肌寒い風が首筋を通っていった。「でもやっぱり、わたしんとこのほうが綺麗だわ」独り言のように、彼女はつぶやいた。俺はなにも言わなかった。

 星っていうのは無限にある。今ここで俺たちが見ているのは、ほんの一部なんだろう。そう考えると、いま見えている星なんて珍しいもんなんだ。

“東京でも星が見えるんだね”と言った彼女の目に、このぼやけた星たちはどう映っているんだろう。鈴虫と、遠くで響く車の音を聞いて、俺たちはただスクリーンに映る星たちを見上げていた。

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