第11話 似ている/動揺
殿下と護衛の方は何やら話をしていたので、私は何となく部屋を眺めて待っていたのだけれど。
「あ、そうそう、アレクシア」
突然殿下がアレクシアに話しかけた。
「!?」
あらら、アレクシアの魔力がブレブレだ。
まあ気持ちは分かる。
魔法で姿を消していたのだから。
もちろん殿下には見破られているだろうけれど、話を振られるなんて思ってもいないわけで。
驚いているのは私も同じで。
「で、殿下?」
『アレクシアは――』
「ふふ、ごめんね」
相変わらず殿下はいつも楽しそうだ。
「でもね、ルーはもうとっくに気がついていると思うよ?」
「え?」
思わず、護衛の方のほうを見る。
「……ええ、まあ」
目が合ったと思ったら、すぐに目をそらされてしまった。
そんなこと……! って確かに、これほどの実力者なら可能かもしれないな……。
「……アレクシア、もう出てきて良いと思うわ」
「……はい、ソフィア様」
私に分かる程度だから他の人には分からないかもしれないけれど、アレクシアがかなり落ち込んでいる。
『落ち込むことはないよ、アレクシア。この人はかなり規格外だね』
アレクシアに、念話でフォローをいれておく。
「……ソフィア様?」
「何?」
「今のは……」
アレクシアが驚いた顔をしている。
『どうしたの? 彼は規格外だからそんなに落ち込むことはないって言ったんだけど』
「いえ……」
驚いていた彼女は、優しく微笑んで、私を見つめ、
「ソフィア様はやはり王子殿下に似ておられますね……」
と言った。
「そう思うかいアレクシア!」
殿下は頬を紅潮させて、立上がった。めちゃくちゃ嬉しそうだ。
「ええ? そうかしら?」
殿下と似ていると言われることはちょっと嬉しいけど、自分ではあまりピンと来ない。
「……」
護衛の方は、何とも言えない表情をしている。
「やはりアレクシアとは馬が合うようだね」
うんうんと頷きながら、殿下はソファに腰を下ろす。
「いえ、滅相もございません」
アレクシアは心底面倒くさそうだ。アレクシアがこんなにぞんざいな反応をする相手はそういない。
「そう? 遠慮しなくていいのに」
「もったいないお言葉」
そう言って深々と礼をしている。顔をあげようとしない。もはや拒絶だ。
そしてまた、殿下のことをここまで拒否する人も珍しい。
そんな二人を見て、クスッと笑ってしまった。
「おや、楽しいかい?」
殿下は、優しい目をしてこちらを眺めていた。
ああ、そういうことか。
殿下は、周りの環境を利用して上手く誘導しながら、私の気を和ませようとしてくださったのだ。
「……ええ、おかげさまで」
本当に、お優しいことだ。
「ありがとう、ございます」
「ふふ、僕は何もしていないよ?」
この方の慈愛に満ちた目を見ていると、愛されていると勘違いしてしまいそうなくらいだ。
「おや、赤くなっちゃって、かわいいなぁ」
ふふ、と笑っていらっしゃる。
は、恥ずかしい……。
「……」
顔に集まった熱を逃がすように、軽く手で仰いでいると、護衛の方と目が合ってしまった。彼は真顔で、でも悲しさと絶望がにじんだような、この世の終わりみたいな表情をしていた。
何で?
「殿下、ご歓談中失礼いたしますが、そろそろ本題に」
アレクシア、ナイス!
きっと私が困っているのを見かねて、助けてくれたんだわ!
ありがとう、アレクシア……!
心の中で彼女を拝みながら、殿下に本題に戻ってもらおうと口を開いた。
「そうですよ、殿下。皆さまお忙しいでしょう」
「僕はそうでもないよ?」
殿下は、本当になんでもないというお顔をしている。
な、なんてお方……。いそがしすぎて感覚がおかしくなってしまっているのだろうか。
心配になってきた。
『アレクシア、殿下の体調が心配だわ。手短に終わらせましょう』
アレクシアが少し驚き、わずかに頷いた。
よし。
アレクシアが私の前にティーカップを置き、殿下の前にも置いた。
「殿下、お茶でございます」
「うん、ありがとう、アレクシア」
護衛の方は、その様子を驚いたように見ている。
「で、殿下。それは……」
「毒味は必要ないよ。ありえないね」
「し、しかし……」
殿下は、ふふふ、と笑ってはいるが、目が笑っていない。
「し、失礼いたしました……」
「わかればよろしい」
「護衛の方も、よろしければどうぞ」
アレクシアがティーカップを受け渡そうとする。
「いえ、私は……」
「アレクシアの厚意をむげにするのかい?」
「いただきます」
殿下、圧がすごい。
殿下って、アレクシアのことかなり好きよね。
「うーん、ソフィア、人のことはよく気がつくんだけどなあ……」
「え? 何ですか?」
「ううん、ソフィアが大好きだなって」
「……光栄です」
あまりに真っ直ぐな視線に、否定できなくなってしまう。
「……で、殿下」
何故か泣きそうな顔をしている護衛の方を、殿下は楽しそうに眺める。
「ふふふ、ここまで動揺しているルイは本当に珍しいね。楽しいな」
握りこぶしの手を口の前に持ってきて、クツクツと喉を鳴らす、無邪気な子どものような笑顔。
そんな笑顔を見て、護衛の方は少し目を見開いて、それから悲しげに、でも優しく微笑んだ。
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