第34話 女の子のための雑貨店
お店の方針は決まった。
伯父一家がこぞって反対したため、冒険者向けのお店は却下され、結局は『女の子のための雑貨店』を営業することに。
「シオンおばあさまの私物やアウトドアグッズ、売れると思ったのに……」
曾祖母の秘密基地部屋の謎の雑貨類や、ストレージバングルやアイテムバッグに収納されたままの魔物素材などをお店で売ろうと考えていたのだ。
中には【鑑定】スキルでも詳細が分からない素材がいくつかあったけれど、そういう当たりかハズレかよく分からない商品があるのも、魔女のお店っぽくて良いのでは? と楽しみにしていたので、残念だ。
『売らないでくれて本当に良かったよ……』
なぜか、ナイトには疲れたようなため息を吐かれてしまった。
ルーファスも呆れたようにリリを見つめてくる。
「どうして?」
「シオンの持ち物だろう。国宝級のお宝もごろごろ転がっているが、中にはヤバい代物も多い。やめておいて正解だな」
「……そうなんですね。残念です」
アウトドア用品はそれなりに売れそうではあるが、客層が冒険者ばかりになると心配だ、と伯父たちと同じことを言われてしまった。
ふたりとも過保護だと思う。
『それで、何を売るのか、もう決めたの?』
「ふふ。考え中です。いくつか、取り寄せているので、楽しみにしていてくださいね」
可愛い物が大好きな伯母と二人で念入りに話し合ったのだ。品物には自信がある。ただ、それが異世界でも受けるかどうかは分からない。
なので、ナイトとルーファスには取り寄せた品物を見てもらって、忌憚なき意見を聞く予定だ。
黒猫とドラゴン相手に、女の子向けの商品を相談する、という微妙な選択にリリは気付いていない。
「品物が届くまでは、お店の内装を整えておきたいですね」
賃貸物件だが、建物が大きく破損しないかぎりは手を入れても問題はないと、商業ギルドの許可は得ている。
『なら、早めに工房に頼んでおいた方がいいね』
頼れる黒猫の助言に従い、内装業者に依頼をした。リリが店主だと名乗ると舐められるかもしれないとルーファスが代わりに交渉してくれた。
依頼料を弾んだからか、その日のうちにやって来てくれ、二日で仕上げてくれることになった。
現場監督はいかついドワーフで、他のスタッフも皆、ガタイがいい。
これはたしかに、子供と見間違われるリリが前面に立つと侮られそうだと納得した。
二日後、店舗はすっかり様変わりしていて、リリは歓声を上げてしまう。
「すごい。こちらの要望通りの出来上がりです。ありがとうございます」
この日ばかりは、リリは店主として現場監督にお礼を言った。前金代わりの依頼料の残り半額の工事代金に色を付けて、支払うことにする。
「こんなに良いのかい、お嬢さん」
「貴方たちの仕事ぶりに敬意を表しての金額です。お世話になりました」
内装工事の間も、リリはお店の手伝いをしている娘のふりをして、お茶やお菓子を振る舞っていた。
「窓を大きくして、店内も明るく。内装も豪華すぎない、レトロでアンティークな雰囲気にしたかったので、とても満足しています」
女の子が気軽に入りやすいお店にしたかったので、彼らの仕事ぶりにリリは大満足だった。
「ワシらも働きやすい現場だったよ。また何かあったら、呼んでくれ」
「おう! いつでも駆け付けてやるからな」
「うまい茶と菓子、ありがたかったよ」
笑顔で見送るリリの背後で、黒猫のナイトとルーファスが「人たらしだ……」『あれはオジ転がしって言うんだよ。ボク知ってる』「さすがシオンの曾孫」とこっそり念話を交わしていた。
◆◇◆
「さて。無事に
こほん、と咳払いをしてリリはテーブルに並べた品をドヤっと二人に紹介する。
まずは、目玉商品。
「伯母さまイチオシのお洋服です」
女の子が可愛いと思う物なら、これでしょう! そう胸を張った伯母から送られてきたのはロリータ風のワンピースだ。
さすがにリリが身に纏っているようなオーダー品は無理なため、すべて
店舗のリフォームと商品が揃うまで、持て余した時間はすべて街歩きに充て、リリは少女たちの生活をじっくりと観察したのだ。
「ジェイドの街はナイト曰く、比較的に裕福な地区。土地が豊かで、近くにダンジョンがあるため、冒険者が大勢いて経済を回しているのですよね?」
『うん、そうだよ。ダンジョンは資源の宝庫。
「高ランクの冒険者なら、貴族なみの屋敷を維持できるほどの財を築けると言うな」
そんな金払いの良い冒険者がジェイドの街に多く滞在しているのだ。
狙いは女性冒険者。または、この街に住む冒険者の家族。
街中の商店を覗いてみたが、服の質はあまり良くなかった。縫製技術は素晴らしかったが、デザインは微妙。そのくせ、価格はやたらと高い。
「ゴワゴワとした布製のワンピースが銀貨八枚で売られていました。由々しき事態だと思います」
ためしにそのワンピースを購入してみたが、とても着たいとは思えない代物だった。
『上流階級向けの店のドレスだと、もっと高価だよね? 一般家庭では古着を着回すって聞いたよ』
「ナイトの言う通りですね。聞き込みをしてみたのですが、姉妹がいる家庭はお下がりで着回すらしいです」
家族や親戚、親しいご近所さんの間で大切に着回すのだという。そのため衣服はかなり頑丈な布で仕立てられており、硬い肌触りなのだ。
「同じ銀貨八枚で、これらの日本製のワンピースを売るつもりです」
アイテムバッグから取り出して並べているのはアンティーク調のワンピースだ。
襟と袖がフリルレースで飾られており、スカートは長め。リボンタイと共布のくるみボタンがチャームポイントで、身に纏った際のシルエットがとても美しい。
「ほぅ。これは柔らかな手触りだな。染色技術もすばらしい。この服が銀貨八枚だと? 金貨八枚でも払う令嬢はいるだろう」
ドラゴンの目にも物の良さは分かったらしい。
「そう思います? 実はこれ日本では二万円……銀貨二枚の服なんですよ」
『これが、銀貨二枚⁉︎』
ソファに横たわっていた黒猫がぴょんと跳ねた。
リリはにこりと上品に笑うと、悪戯っぽく小首を傾げてみせる。
「売れると思いますか」
もちろん!
黒猫とドラゴンが同時に力強く頷いてくれたことで、リリは自信を持ってお店を開くことを決めた。
◆◇◆
辺境の街、ジェイドに新しくオープンした雑貨屋はあっという間に街中の乙女たちの話題をさらった。
通り沿いに大きなガラス窓があり、商品を外から眺めることのできる斬新なディスプレイ。
真っ先に目に入るのは、見たことがないくらいに素敵なワンピースドレスだった。
木製の等身大人形に着せられたレースとフリルがたっぷり使われたピンク色のワンピースはまるでお花のように可愛くて華やかな一着で、目にした少女は皆、うっとりとため息を吐いたものだ。
まるでお姫さまが着るドレスのよう。
だけど、こんな素敵な服なんて平民が買えるわけがない。
そう諦めようと思った少女たちがふと視線を落とした値札には意外とお手軽な金額が記されていて。
何かの間違いかと、店内にそうっと入ってみると、そこにはワンピースだけでなく、心踊る雑貨類がたくさん飾られていたのだ。
魔道ランタンや水晶灯で明るく彩られた店内には、窓辺に飾られていた一着以外にも色やデザインが多彩な衣装があった。
服だけではなく、リボンや帽子、キラキラしたビーズで編み込まれたハンドバッグなど。
「オープン記念のお菓子です。どうぞ」
愛らしいエプロンドレス姿の少女が綺麗にラッピングしてくれた焼き菓子を手渡してくれる。ネコの形をしたクッキーだ。
「かわいい!」
「ふふ。ありがとうございます。うちの看板ネコさんなんですよ」
栗色の髪の綺麗な女の子がそう言うと、カウンターに座っていた黒猫がニャアと鳴く。
店の奥には警備役らしき、赤毛の美丈夫が控えている。
店の品はどれも物珍しく、美しい。
まるで貴族の持ち物のようなのに値段はそれほど高くなく、少女たちでも頑張れば手が届くものばかりだった。
そんな夢みたいなお店なので、瞬く間に少女たちの口コミで人気となったのである。
店の名は『
女の子たちのための雑貨店だ。
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ギフトありがとうございます!
急な冷え込みで風邪をひいておりました。
更新遅くなり、申し訳ないです。
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