第109話 スローライフⅡ

一馬は、壁に立てかけてあったカレンダーを見つめながら、深いため息をつき、「もう4年か」と静かに呟きました。彼が女神からこの世界で農業をしてみないかと頼まれたのは、まるで昨日のことのように思い出されます。しかし、気づけばもう4年という歳月が経ち、彼の人生は大きく変わっていました。


最初は、山の上にある小さな農場の経営者として静かに暮らしていました。彼にとって、その生活は日常の喜びであり、地に足をつけたスローライフでした。毎日、自然と共に過ごし、作物を育てることに喜びを感じていた一馬は、田園風景に囲まれているだけで満足していました。自然のリズムに従い、土を耕し、種をまき、収穫を待つ日々。彼にとって、それが何よりも幸せな時間だったのです。


しかし、運命は思いもよらない方向へと一馬を導きました。農作業中に日射病で命を落とし、この世界に転生した彼は、いつの間にかクレストンの町長という立場になっていました。町長としての責務は決して軽くはなく、彼の肩には大きな重責がのしかかりました。それでも、一馬はその全てを受け入れ、町の発展に尽力してきました。彼が抱くスローライフの精神は、クレストンの発展にも色濃く反映されており、町民たちもその姿勢に共感し、町全体が一つの家族のように温かくまとまっていったのです。


ふと、これまでの道のりを振り返る一馬。彼は、自分が農作業に励んでいた頃を懐かしく思い出しながらも、今の生活が紛れもなく自分にとっての幸せであると感じています。彼が農場で過ごしたあの静かな日々も、今の町長としての忙しい日々も、どちらも彼にとってかけがえのない人生の一部であり、女神に頼まれてこの世界に来たことを心から感謝していました。


「これからも、この町をもっと良い場所にしていこう。」一馬はそう決意を新たにし、再びカレンダーを壁に戻しました。彼の心には、過去への懐かしさと、これからの未来への希望が共存していました。

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