第14話 ちくわの再会と、電鼠の奇跡
私は、前世の記憶がある。といっても、大それた人生じゃない。
ごく普通の日本の女子小学生、佐藤 莉奈(さとう りな)としての記憶だ。
学校では勉強はできるほう。クラスではいつも委員長みたいな役割を担って、みんなのために率先して動く、「良い子」を演じていた。先生にも友達にも頼られて、それが嬉しかったから、常に「完璧な私」でいなきゃって、どこか無理してたんだと思う。
だから、ちょっとしたミスでも、人知れず深く落ち込む癖があった。
発表で言い間違えたりしたら、夜中に布団の中で、あの時のセリフを何百回も反芻しちゃったり……。はは、今思うと、笑っちゃうくらい真面目だったよね。
そんな私を、唯一、心から癒してくれたのが、飼っていたハムスターの「ちくわ」だった。
ふわふわで、手のひらに乗せると震えるほど小さくて、でもケージの中をちょこまか走り回る姿は、見てるだけで心がフワッと軽くなった。
ちくわと遊んでいる時だけは、「良い子」の自分を全部脱ぎ捨てて、素の私でいられたんだ。
ひまわりの種を頬張るちくわの真剣な顔とか、回し車で一生懸命走ってる小さな足とか、もう全部が愛おしくて。あの子といる時が、一番気が楽で、私にとっての安らぎの場所だった。
あの日は、いつもの通学路。
見慣れた道の端で、突然、小さな命が飛び出した。まだ幼い子猫だったと思う。車のタイヤが軋む音がして、子猫が道路に飛び出そうとしているのが見えた。次の瞬間、大きなトラックの影が迫る。
考えるより先に、体が動いていた。
「ダメっ!」
私は、ちくわを撫でていた時のあの優しい気持ちと、あの小さな命を守りたい一心で、迷わず子猫の小さな体を突き飛ばした。子猫は無事、道路の反対側へ。
でも、私は――
ドンッ!
全身を襲う、衝撃と痛み。視界が急速に暗転して、私の意識は途切れた。
死んだと思った私は、赤ちゃんになっていた。はやりの転生というやつだ。
転生した先は、緑豊かな山々に囲まれた、活発な小さな村だった。私はライナと名付けられ、新しい両親にそれはもう大切に育てられた。前世の記憶があるせいか、幼い頃から何事にも好奇心旺盛で、特に動物が大好き。まるで前世の「ちくわ」を探しているかのように、いつも森でちょこまかと遊び回っていた。
幼い頃から、時折、私の指先や髪の毛から、パチリと小さな電気が走るような現象を無意識に起こしていた。まるで、私が嬉しかったり興奮したりすると、しっぽを振るみたいに電気が跳ねるのだ。もちろん、誰もそんな私の異常性に気づくはずもなく、私自身も「変な癖」くらいにしか思っていなかった。
ある日のこと。私は、いつものように森の奥深くで夢中になって遊び、気づけば道に迷っていた。心細さと、日が暮れていく不安に襲われ始めたその時、遠くから獣の唸り声が聞こえた。恐る恐る茂みを覗き込むと、そこには凶暴そうなイノシシの群れに追い詰められている、一匹の幼い子ウサギがいた。子ウサギは怯えきって、身動き一つできない。
その瞬間、前世のあの日の光景がフラッシュバックした。トラックに轢かれそうになった子猫。そして、助けられなかった私……!
「やめてっ!」
反射的に飛び出した私は、子ウサギの前に立ちはだかった。イノシシの鋭い牙が迫る。その時、私の全身から、けたたましい雷鳴が響き渡り、視界が真っ白に染まった。
意識が遠のく中、私が立っていたのは、いつもの森とは全く違う、圧倒的な空間だった。空は無限に広がる雷の雲で覆われ、その間を無数の閃光が迸っている。そして、目の前には、私でもひと目でわかる「ハムスター」の姿をした、小さくも威厳に満ちた存在がいた。その体からは、雷光がパチパチと音を立てて弾け、まさに「雷を纏うハムスター」という表現がぴったりだった。
「あなたは、誰……?」
私が震える声で尋ねると、そのハムスターから、驚くほど可愛らしい、しかし力強い声が、直接私の頭の中に響き渡った。
『我は電鼠。そして汝は、我の魂を宿す器。』
「電鼠」という言葉に、私は困惑した。魂を宿す器?どういうこと?まるで、前世で飼っていた「ちくわ」が喋り出したかのような衝撃だ。しかし、その疑問はすぐに消え去る。電鼠は私の心の奥底を見透かすように、まっすぐ私を見つめた。
『その魂に刻まれしは、この世ならざる記憶。異界の存在か、転生者よ。』
心臓がドクンと大きく鳴った。なぜ、この雷を纏うハムスターが、私の秘密を知っているの?思考が全く追いつかない私に、電鼠はさらに言葉を続ける。
『汝の魂は、すでに我と融合している。故に我は汝を知り、汝もまた、我の一部。』
融合?私の魂が、この電鼠と?信じられないけれど、言われてみれば、転生した時や生まれた時から感じていた体内の熱や、魔力とは少し異なる「パチパチ」とした感覚が、この電鼠の存在と結びつくように思えた。そして、確かに感じ取れる。この可愛らしい電鼠が、私の雷属性の力の源そのものだということを。
『今はまだ時ではない、我が器よ。そなたが真に力を御せるようになった時、再び相見えよう。』
電鼠が何かを言い終える間もなく、突然、空間が砕け散るように消え失せ、私の意識は肉体へと引き戻された。
「なんだったんだろう……今の。」
目を覚ますと、子ウサギは無事だった。そして、イノシシの群れは、何かに怯えたように逃げ去っていた。私の手は、微かに雷を帯び、あの「パチパチ」とした感覚が、以前よりもはっきりと感じられた。私は、あの可愛いハムスターが、本当に私の体内にいることを理解し、思わず頬を緩めた。まさか、前世で一番心を許した存在と、こんな形で再会できるなんて。
この奇妙な体験は、幼い私の心を大きく揺さぶりながらも、未来への期待を膨らませる出来事となった。
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