第20話 アレ?
「……ねぇ。1年後にプロポーズの返事をするって話じゃなかった?」
「私もそう聞いていたわよ。それなのにどうして1年後に結婚式なの?」
……ここは、ブレドナー公爵家の領都の教会。代々の公爵家の人間はここで式を挙げてきた。その教会で、今日はアルフォンスとレイラの結婚式。あのプロポーズから、まだ約2週間しか経っていない。
友人であるアマンダとハンナにそう突っ込まれ、レイラは苦笑いをするしかなかった。
……レイラだって、本当はとても驚いている。
アルフォンスとレイラは王妃の『呪い』騒動で出会った。その時に彼から告白されたレイラが『1年間様子見』と言った為に、ちょうど1年後である2週間前のあの日に改めてプロポーズをして来たアルフォンス。
レイラは戸惑いつつも将来的な話として了承の返事をした……、だけのつもりだった。
……しかしそこからおかしな話の流れになったのだ。
レイラの返事を聞き喜んだアルフォンスは、「もう準備はほぼ済んでいる」と言い出した。
「は? 準備?」と思ったが、確かにブレドナー公爵家では近い内に何か大きなイベントでもあるのか、ここのところ何かの準備に忙しそうだった。
もうすっかりお馴染みになったブレドナー公爵夫妻に挨拶しながら、「近く何かあるんですか?」と尋ねても微笑まれるばかりだったのだが、まさか自分達の結婚式の準備だったとは。……断っていたらいったいどうなっていたんだろうか。
随分前にアルフォンスがレイラの誕生日の為にドレスをプレゼントしたいと身体の採寸をしたのだが、おそらくあの時にはウェディングドレスの準備を始めていたのだろう。
……レイラ自身、ウェディングドレスに憧れなどなかったので構わないが、こだわりのある女性だったならかなり揉めたのではないだろうか……。などとレイラは要らぬ心配をした。
実際のウェディングドレスはとても素敵なものだったので文句はないけれど。
そしてこの国では平民でも16歳は結婚は可能だ。貴族は政略ならばもっと早い場合もある。
「でもまあなんと言うか、公爵家の対応は素早かったわね。レイラが気にするだろう事をほぼ全てクリアしてたんだから」
ハンナが感心して言った。
「ああ確かに。これからは1週間毎に領都から優秀な『祓い師』が私達の街に派遣されるんでしょう?」
アマンダも納得したように言った。
「そうそう。私達の街が『祓い師』不足にならないようにって。街1番の『祓い師』を連れてくんだから、その配慮は有難いわよねぇ」
2人は本当はレイラがあの小さな街から出て行ってしまう事は寂しい。
けれど母を亡くし一人で苦労してきたレイラが愛し愛され幸せになろうとしているのだから、なんの憂いもなく送り出してあげたかった。
「……それに身分の差をなくす為にレイラは貴族の養女になったのでしょう? ええと、なんて家だったかしら……? ブレドナー家は公爵ですものね」
アマンダが心配そうにそう聞いて来た時、不意に教会の控え室に美しい女性が現れた。
「ほほほ……。レイラは今はトルドー侯爵家の令嬢でしてよ。本当は私の娘としても良かったのですけど、年齢も近いですしね。私の夫の妹、という事になりましたの。ですからレイラは私の可愛い妹ですわ!」
そう言って花嫁の待合室に現れたのは、トルドー侯爵家嫡男の妻であり元王女フェンディだった。
……実は私が本当にフェンディ様の妹だなんて、誰も思わないわよね。
レイラは心の中でそう呟きながら、はにかむように微笑んだ。
するとアマンダはあら、と何かに気付いたように隣のハンナに言った。
「……でもなんだが2人は少し似ている気がしますわ」
「そういえばそうね」
ハンナも続けて言うと、フェンディはパッと表情を明るくした。
「まあ! そうかしら! 私もレイラと目元とか似てるかなと思ってますの。ふふ、姉妹ですものね」
フェンディはそう言って嬉しそうに笑った。
……一応『義理』という事になっているのだが、本当は姉妹だからどこか似ているのだろう。しかし事実であるが故にレイラはヒヤリとした。
レイラはとりあえず笑うしかなかった。
そして本人は内心ヒヤヒヤながらも4人は和やかに過ごすのだった。
コンコン……、パタンッ
「レイラ……! 綺麗だ。……ッ! フェンディ様、お見えになっていたのですね。この度はトルドー侯爵家には大変ご尽力いただきありがとうございます」
そこに花婿アルフォンスが現れ、レイラの側に笑顔で並ぶ。
「いいえ、お礼を言うのはこちらの方ですわ。母の事、色々と感謝しております。そしてその母からもレイラの事を頼まれましたの。勿論トルドー侯爵家としても、レイラを養女に迎える事もブレドナー公爵家と縁続きとなる事もとても喜ばしい事ですわ」
フェンディもそう言ってアルフォンスに礼をする。一応、彼らは従兄弟にあたる。……本当は王妃の娘でない王女とは血は繋がっては居ないのだが。
そして今は王女は侯爵家、アルフォンスは公爵家である為、少し立場が逆転してしまっている。しかし勿論、アルフォンスは元王女への敬意は忘れない。
「トルドー侯爵には式にて花嫁レイラのエスコートもしていただけるとのことで、誠に感謝の念に絶えません。今後も、この良き縁にて末永くお付き合いをお願いいたします」
そう挨拶し合う元王女と未来の夫を見てレイラは思う。
……本当に、大変な事になっちゃった。だけど……ヤじゃない。
そんな新郎を愛しそうに見詰める花嫁レイラを見ながら、友人2人は微笑んだ。
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