8.

『ぼくのせいで、ごめんなさい⋯⋯』

『別に伶介さまは悪くないんですよ。ほら、大河さま、何も口ではなく、他にも手段はありますよ。紙に書いてとか、それからこんな遠くにいないで近くに行ったらどうです?』


小口がそう言うや否や、大河はこちらに背中を向けて、今度は広げていたハニワのおもちゃで遊び出していた。

完全に不貞腐れてしまったとその場にいる誰もがそう思っていた。


『やれやれですねぇ』

『あの、ぼくたいがくんのところにいってもいいですか?』


まさかそう言ってくるとは思わなかった上に、食い気味で言ってくる伶介に、珍しく目を丸くしていた小口がやがて、「まぁ、いいんじゃないでしょうか」と自身の後ろをチラ見しつつ承諾した。


『ぱぱ、いってくるね。おしごとがんばってね』

『うん、うん、がんばるよ⋯⋯っ』


今にも引き止めたいというように涙ぐむ松下をよそに伶介はとっとと、大河の元へ行き、「なにしてるの? あ、ぼくもそのハニワすきだよ!」と一生懸命話しかけてくれているが、大河は振り向きもせずおもちゃで遊んでいた。

あれで仲良くしてくれるのか、伶介のことを考えるとちょっと可哀想にも思えてくると不安な気持ちが加速していった。


『愛賀、どうした』


不意に声を掛けられ、ぱっと振り返る。

いつの間にか姫宮の隣には、御月堂が立っていた。


『慶様、お仕事は⋯⋯?』


元々多忙な彼は今はより一層多忙なはずだ。

それもやはり自分のせいで⋯⋯。


『少し余裕ができてな。大河が口を利けるきっかけができればと愛賀達の様子が気になったのもあって来た』

『そう、なのですね』

『それで、愛賀は何か浮かないような顔をしているようだが』


そういう顔はすぐに出てしまうのかと、「そんな顔をしているのですね」と自嘲にも苦笑にも似た顔を見せた。

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