空虚
暁視点・1
※
話は、少し前に遡る。
ティエーラには神がいる神域があるように、魔王がいる空間・魔領がある。
そしてここには魔王の為の城があり、その玉座には魔王――地球から、ここティエーラに転生した暁がいた。
姿形は同じだが、瞳の色だけは血の赤に変わり。
高校のブレザー姿で現れたが、魔王出現によって現れた魔族によって用意された、漆黒の長衣を纏い。
……玉座に座る暁の前では、二十代後半くらいの精悍な容姿の男性がその白銀色の頭を下げていた。
「勇者を、見つけられましたか」
「……ああ。正確には『全属性がいる』ことが解ったってことなんだけど」
人でも、強い魔力があれば感じることは出来る。
だがそれは普通、ある程度近くにいればこそで――暁は簡単に言っているが、全ての者が魔力を持つこの世界の中から、更にその属性まで瞬時に読み取るのは本来、ありえないのだ。
「ただ、二人いるんだ……全属性持ちは、勇者か魔王って神様から聞いたけど。あと一人は『何』なんだろう?」
「その二人は、別々に?」
「いや、一緒にいる。それも、不思議なんだよな」
「……魔王様」
そこで、暁同様に漆黒の衣装を纏った男が顔を上げ――人とは異なる、縦の虹彩の入った黄金色の瞳を暁へと向けた。
「
「……死ぬ気か?」
魔王や、一部の魔物や魔族しか知らないことがある。
それは、魔王は絶対に勇者に勝てないということで――その魔王より『弱い』男では、本物の勇者相手では万に一つも勝ち目がないのだ。
「我はもう『魔王』の死を見送りたくないのです」
「……そうか。じゃあ、お願いしようか」
「御意」
そう言って再び頭を下げる男に、暁は玉座から立ち上がって近寄った。そして、その額に己の額を当てて赤い瞳を閉じた。
……そうすることで、魔王から男へは全属性持ち達がいる場所が。そして男から魔王へは、男の視界が共有される。
それから男が立ち上がり、窓から外へと飛び出すと――次の瞬間、その輪郭が解けて白銀色の巨体へと姿を変えた。
玉座に戻り男、いや、エンシェントドラゴンが一気に魔領を抜けて人界へ、そして暁が伝えた無人島へと向かうのを共有した視界で眺めている間も、暁の心は虚ろだった。
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