急転

「確かに、昨日より攻撃されてるけど……でも、思ったよりは来てないよな?」


 ミーネが無詠唱に成功した後も、二度ほど他の生徒達からの攻撃を受けた。そんな訳で、今は少し遅めの昼食を取っている。そんな中、ふと思いついたように遊星がそう言った。

 ちなみに昼食は、昨夜遊星が多めに作っておいた猪肉と野草のスープと、同時進行で用意していたらしい猪肉(ただ焼くだけではなく、ミーネが持っていた魚醤で煮詰めている)を食べている。正直、パンや麺類が欲しくなるがサバイバルなのでそれは我慢だ。

 何故、昨夜作ったスープや料理が今も、そして温かい状態で食べられるかというと、かつて勇者が生み出して広めた『アイテムボックス』のおかげだ。それぞれ見た目はただの肩掛け鞄だが、見た目よりも遥かに多くの物を入れられるようになっている。最低限とは言え、毛布や鍋を持ち歩けるのはこのアイテムボックスのおかげである。

 反面、アイテムボックスでサバイバルに適さない物(主に食材や嗜好品)を持ち込まないように、サバイバルに来る前に『探査サーチ』という魔法で調べられている。それを見た遊星が「空港の金属探知機みたいだな」とまた不思議なことを呟いていた。


「そうだね。もしかしたら、なんだけど……どうせ負けるなら、喧嘩って言うより目通り狙いで皇女様達のところに行ってる生徒もいるのかも。結局、いつもの三人だけど少数精鋭だしね」

「えっ……『接待ゴルフ』的な?」

「セッタ……ゴルフ?」


 また異世界の言葉を口にした遊星に、フェルスが不思議そうに首を傾げる。


「あぁ、悪い! うちの故郷で、そう……自分より上の身分の相手に負けてみせて、相手を持ち上げることを言うんだよ」

「そうなんだ。ゴルフって何か、道化みたいな意味? まあ、わざとではないだろうけどね。実際、皇女様もお付きの二人も強いし」


 それに慌てて遊星が言い直すと、フェルスは納得したように頷いた。


(……何で、フェルスには僕の時みたいにムキになって訂正しないんだ?)


 自分に『だけ』許されないのか、逆に自分『だから』他の者とは違ってムキになっているのか――そう思い、眉を寄せるアルバに気づいたのか、グレルが「でも、ボク達も油断は禁物だから! 早く食べよう?」と話題を変えるように言ってきた。



 そして昼食を終え、また移動を再開したアルバ達だったが。


「「「あ」」」


 話題にしていたアスセーナ達とバッタリ鉢合せをしたのに遊星とフェルス、そして騎士団長の娘が声を上げる。


「まあ、ごきげんよう……聖なる光の鎧、それは全ての障害を退ける、鎧に傷つけるものは皆無なり……」

聖光防壁シャインガーディアン聖防御光陣シャインバリア

聖光防壁シャインガーディアン!」


 そしてアスセーナが詠唱を始めたのに、アルバもまた最低限の詠唱を放った。前者はランスを振り上げ、突進してくる騎士団長の娘・クリスを守る為のものであり、後者はそんなクリスを迎え討とうと前に出た遊星と、フェルス達を守る為のものだ。


「炎の精霊よ、我が手に炎よ、集い来たれ、敵を貫け……炎射矢ヴァンアロー!」

「させるかっ」


 結い上げた金髪を揺らしながら、槍を一閃させるのと同時に自分達へと放った幾つもの炎の矢を、遊星は同様に魔武器を一閃させて退けた。正確には、刃に迸る水と剣圧によって消し去られた。

「なっ……火属性じゃなかったのか!?」

「魔武器のチャームポイントですっ」


 クリスが驚愕の声を上げるのに、遊星が律儀に返事をする。そして反撃とばかりに、彼女の目の前で暴発エクスプロージョンを使って爆発を起こした。


「っ!」

「クリスっ……風よ、鋭い刃と為せ、彼の者を切り刻め、風刃列覇シャイド!」


 アスセーナの光魔法でも防ぎきれない爆発の衝撃で、強制転移をさせられたクリスに次いで皇室魔法使いの息子であるリブロが、アスセーナが再び光魔法をかける前に遊星へと詠唱を放つ。

 だが遊星へと繰り出された風の刃は、アルバの光魔法により防御されて遊星を傷つけることはなかった。アルバの魔法に負けたことに、リブロが榛色の目を見開く。


「くっ……、虚空より風を起こ」

「聖なる光の鎧、それは全ての」

「言わせない!」


 負けじと先程よりも高度な風魔法を、そして彼を守ろうと光魔法の詠唱を始めたリブロとアスセーナだったが、その前に遊星は刀を一閃させた。昨日同様、直接斬りつけることはないがその剣圧でペンダントに衝撃を与え、リブロも強制転移をさせる。


「せ、せめて一太刀……」

「待って下さい」


 そして一人残ったアスセーナが魔武器であるレイピアを構えるのを、不意に今まで後方で様子を窺っていたアルバが制して顔を上げた。

 刹那、遊星も気づいたらしく同じ方向を――強大な魔力を感じた方向へと目をやり、次いでその黒い瞳を大きく見開いて呟いた。


「……ドラゴン?」


 唐突に現れた、魔力同様に強大な存在の名を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る