メテオライト
渡里あずま
遭逢
北の森に、ヘルハウンド――赤い目をした、黒い巨大な魔犬の群れが現れたと冒険者ギルドに報告が上がった。
本来、単独で人を襲うことが多いので群れで動くのは珍しい。勿論、一般人には恐怖の対象だが、ギルドの実力者に与えられる称号である『帝』。その中でも最強と称される『全帝』が受ける依頼ではない。
しかし個人的な事情だがこの後、依頼を控えることが決まっていたのでアルバは魔法で北の森へと一瞬で転移した。
七人の『帝』は皆、黒と見紛う深紅のローブを纏ってフードで顔を隠している。
とは言え、魔犬の群れにはその知識はないので突然、現れたアルバを取り囲んで唸り声を上げた。けれど彼は動じず、ただボソリと呟いた。
「
刹那、数十本もの氷の槍が地面から出現し、ヘルハウンドの頭や腹を容赦なく貫く。物理的にだけではなく、火の属性であるヘルハウンドには水、あるいは氷属性の魔法が有効なのだ。
しばらく声を上げ、身を捩っていたが――やがて息絶え、動かなくなったのを見てアルバは来た時同様、転移で戻ろうとした。しかし、そこで不意にハッと顔を上げる。
「
そう唱えて地面を蹴ると、長身のアルバの体が一瞬で周囲の木々を跳び越えた。
その動きでフードが脱げるが、周りには人はいないようなので気にしない。そんな彼の目は近づいてくる落下物を、耳は絶叫を捉えている。
「神様の馬鹿ーっ! 落ちる落ちる落ちるっ……魔法? 魔法か……って、どうやって使うんだよっ、馬鹿馬鹿馬鹿ーっ!!」
「……落ち着いて下さい」
声の主に、そう声をかけながら――アルバは、楽々と両手で受け止めた。それからふわり、とヘルハウンド達の亡骸を避けて地面へと降り立った。
(普通、人は空から落ちてこない……もしかして、魔物? いや、人の言葉を話すってことは魔族か?)
とは言え、髪と同じ黒い瞳を真ん丸くしてアルバを見ている間抜け面からはそうは思えない。
しかし一方で、平凡な外見に反してアルバが気づいたくらいその魔力は強大だ。このチグハグさは一体、何なんだろう?
「た、助かった……って、お姫様抱っこ!? すみませんっ、恩人に対して大変恐縮なんですが、降ろして頂けないでしょうか!」
「何ですって?」
「超絶イケメンに、こんなことさせたなんて……あなたのファンの女の子達に、精神的にも物理的にも殺されますっ」
「……チッ。
フードが脱げた今、受け止めて横抱きにしている相手にはアルバの顔が見えている。
白い、端整な面差しを縁取る肩までの金髪に、同色の長いまつ毛に縁取られた深緑の瞳。
見惚れられる事はあるが、涙目で必死に妙なことを訴えてくる少年に苛立ち――その気持ちのまま舌打ちしたアルバは、少年の言葉を無視して横抱きにしたまま、今度こそ転移でギルドの義母の元へと向かったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます