第九話 恋愛の使徒

由美の精神的な崩壊は次第に深刻化し、彼女は学校に通うことができなくなった。彼女の不登校は、周囲の生徒たちにとっても話題となり、由美の変化を嘲笑する者や、心配する者が入り混じっていた。


由美が最後に学校に姿を見せた日から、数週間が経過していた。彼女の机はそのまま空っぽで、誰も座ることがなく、教室の中でひっそりと存在していた。クラスメートたちはその机を見ながら、どこか冷たい視線を送り合っていた。


「また由美来てないね。」と、誰かが小さな声で言った。


「どうせ、あの人は自分が困ってるときだけ助けてもらって、後はほったらかしなんでしょ。」別の生徒が冷ややかに答えた。


教室の雰囲気は次第に厳しくなり、由美がいた頃の華やかさは完全に消え失せていた。彼女のいない空間は、静けさと冷淡さで満たされていた。


その頃、貧乏な寧々村 南は、金銭的に困窮し続けていた。彼女は携の富に対して深い渇望を抱きながらも、現実の厳しさに耐えていた。家計は困窮し、日々の生活が苦しい中、彼女の心には次第に狂気が芽生えていった。


ある日の放課後、寧々村は携の家の前で待ち伏せをすることに決めた。彼女の服装は古びており、顔には疲れと焦りが浮かんでいた。携が家から出てくるのを見計らって、彼女は自分の計画を実行に移す決意を固めていた。


「携くん…」寧々村は携が目の前に現れると、声を震わせながら話しかけた。「実は、お願いがあるんです。」


携は驚きと困惑の入り混じった表情で寧々村を見た。「何かな?こんなところで。」


「実は、私の家がとても困っていて…」寧々村は胸の奥で渇望と焦燥感を抱えながら、携に訴えた。「助けていただけませんか?」


携は彼女の様子を見て、しばらく考えた後、少し迷いながらも答えた。「それは大変だね。どういう助けが必要なの?」


「お金が…本当に少しでもいいので。」寧々村は必死に頼んだ。その目には涙が浮かび、彼女の焦りが伝わってきた。


携は彼女の切実な様子を見て、渋々ながらも承諾した。「分かった。少しだけなら協力するよ。」


その後、寧々村は携からお金を受け取ったが、それだけでは満足できなかった。彼女の心の中にはもっと深い欲望があり、それが次第に暴走し始めた。彼女は携に対する執着を深め、さらに多くの援助を求めるようになった。


ある日のこと、寧々村は再び携の家を訪れた。その時、彼女は思い切って自分の感情を押し殺し、携に対して無理矢理にアプローチを試みた。


「携くん…私、実はずっとあなたに会いたかったんです。」寧々村は彼に近づきながら、無理やりに恋愛感情を押し込めていた。


携は彼女の言葉に少し驚きながらも、冷静に答えた。「そうなんだ。どうしてそんなことを突然?」


「私、あなたと一緒にいることで、もっとお金を手に入れられると思って。」寧々村は、自分の本心を隠しながらも、強引に携に迫っていた。


その言葉に携は一瞬戸惑ったが、寧々村の必死さに心を動かされる一方で、彼女の本当の意図を察することはなかった。


「そうか…」携は少し間を置きながら言った。「それなら、どうすればいいか一緒に考えよう。」


この一言が、寧々村の心に火をつけた。彼女は携の助けを得るために、さらなる手段を講じる決意を固めていた。彼女の欲望と焦りは、次第に暴走し、彼女自身を追い込んでいくこととなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る