第7話 武闘派ヘーゼル
「天下の大将軍を見下ろす日が来るとはな」
ヘーゼルは蹲るミゲイルを嘲るように言う。補佐官と言われているから誤解されやすいがヘーゼルは軍師ではない。補佐官になるまでは重装歩兵として前線で活躍していたのだ。
「いかんな、久々の実戦で勘が鈍っておるようだ……」
ミゲイルはゆっくりと立ち上がりながら苦笑する。ボロボロに見えるがまだ
「何だ? 負けた時の言い訳か?」
ヘーゼルはふんっと鼻で笑う。
「いや、負けるつもりはない」
ミゲイルは即答する。しかし、まだ息が荒い。
「よかろう、貴様の心が折れるまで拳を叩き込んでやるぞ!」
ヘーゼルはミゲイルに飛びかかった。次々に拳を振るうが先ほどと違い、全くミゲイルには当たらない。いつの間にか剣を納めたミゲイルはヘーゼルの攻撃を両手で捌いている。
「忘れたか、ヘーゼル! お前に格闘術を仕込んだのは私だぞ!」
ミゲイルはヘーゼルの懐に飛び込み、顎に拳を叩き込む。
「ふん、まだそんな元気が残っていたか! だが鎧越しではちっとも効かんぞ!」
ヘーゼルはそう言い放ち、反撃に移ろうとした。しかし、突然目の前に巨大な壁が立ち塞がる。「なんだ? 邪魔な壁だな」
「それは床だ」
ミゲイルの声がヘーゼルの背後から聞こえる。すぐ横にミゲイルの物らしき足が見え、ようやくヘーゼルは自分が倒れている事に気付いた。
「!? ば、馬鹿な……」
ヘーゼルは慌てて立ち上がる。しかし、足に力が入らない。
「どうした? まさか一発で降参じゃあるまいな?」
たった一発で形勢逆転したミゲイルは再び身構える。
「いいぞ、ミゲイル! そのままやっちまえ!」
エリザが声援を送る。
「凄いわ、ミゲイルさん! 頑張って!」
デリルもエリザの横で声援を送る。
「ふん、腐っても大将軍か……」
ヘーゼルは悪態を
「勝手に腐らせるな、私は今が最盛期だ!」
今度はミゲイルの方から仕掛ける。的確に急所に拳を叩き込むが鎧の上からではどの程度ダメージを与えているのか分からない。金属音が一定のリズムで辺りに鳴り響く。
「ねぇ、あれって効いてるの?」
デリルはエリザに尋ねる。全身鎧を装着しているのでヘーゼルの表情が遠目にはよく見えないのだ。
「普通ならほとんど効かないだろうな」
エリザが答える。あの手の全身鎧は衝撃に強く、
「アル! 今のを見ていたか?」
突然、ミゲイルがアルに声を掛ける。
「えっ? は、はい」
アルは真剣な眼差しで答える。
「これだけ的確に攻撃しても全く効かん」
ミゲイルは肩で息をしながら言う。
「えっ?」
エリザとデリルが顔を見合わす。どうやら無駄な攻撃をしていたようだ。
「ふんっ、こんなもの蚊ほどにも効かんわ」
ヘーゼルも平気そうだ。
「さぁ、どうする?」
ミゲイルはアルに尋ねる。
「えっ……、剣も受け止められ、打撃も効かない? わ、分かりません、お手上げです」
「どうやら私の出番のようね」
デリルがしゃしゃり出る。物理攻撃がダメなら魔法の出番だ。
「まぁそれも手段の一つだが……」
ミゲイルは困ったようにデリルを見る。「私はアルに指導をしているのです」
「何をごちゃごちゃ言っている!」
ヘーゼルが痺れを切らしてミゲイルに襲いかかる。掴み掛かるヘーゼルを紙一重で躱すと、ミゲイルはさらにアルに叫ぶ。
「闘気にはこういう使い方もあるのだ!」
ミゲイルはヘーゼルの脇腹に拳を叩き込む。これまでと違い、拳が赤く光を帯びている。
「ぐはぁっ!」
ヘーゼルが呻き声を上げて体をくの時に曲げる。さっきあれほど殴ってもびくともしなかったヘーゼルが一撃で崩れたのだ。
「連打するにはある程度コツがいる。ベヒモスを真っ二つにするほどの闘気を込めたのではすぐにへばってしまうぞ」
ミゲイルはアルを冷やかすように笑った。
「ぐぅ……、余裕綽々だな、ミゲイル」
ヘーゼルは起き上がりながらミゲイルを睨み付ける。「まさかこんなもんだと思ってないだろうな?」
「ほう、まだやる気か。魔王の手先になっても帝都魂は残っているらしい」
「誰が魔王の手先だ! 俺が魔王を利用しているんだ!」
ヘーゼルはカッとなってミゲイルに飛び掛かる。
「ふっ、この程度の挑発に乗るとはな」
ミゲイルは鼻で笑ってヘーゼルの攻撃を躱す。怒りで単調になった攻撃を躱すことなどミゲイルにとっては造作もないことだった。
「掛かったな、ミゲイル」
躱されたヘーゼルが不敵に笑う。「ブレイド!」
ヘーゼルの掛け声でヘーゼルの全身鎧から無数の刃が飛び出す。紙一重で躱していたミゲイルの身体を鋭い刃が切り刻む。
「ぐはぁっ!」
ミゲイルは身体中から鮮血を吹き出して床に倒れた。
「ミゲイル!」
思わずエリザがミゲイルに駆け寄る。「しっかりしろ! 死ぬんじゃないぞ!」
「エリザ……、これは私の……た……たたた」
ミゲイルはエリザの助けを拒もうとするが喋ることもおぼつかない。
「あんたの戦いはあたしの戦いだ! このまま黙って見ていられるか!」
エリザはデリルに目配せをし、ミゲイルを庇うようにしてヘーゼルの前に立ちふさがった。
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