2話 意識してしまったらもう戻れない!

「海里くんって一人暮らしなんだね」



 1DKの少し古い賃貸アパート。部屋の中はあまり散らかっておらず、意外と綺麗にしている。こまめに返信をくれる海里らしい。



 ずっと会いたいと想い続け、一年越しに叶った想い。本当は遅刻なんてしていない。海里より先に待ち合わせ場所へ来ていた。

 


 不細工がきたら速攻帰ろうと思い、遠くから様子を窺っていたが、待ち合わせ場所に来たのは、僕の想像より遥かに格好いい人だった。



 今日はなんとか次に繋げる何かを、掴み取りたいと思い『遊びに行こう』から家へ押しかける荒技を決行。ただ、向こうは僕のことは『中学生』『同性の友達』程度にしか思ってなさそうだけど。



「大学生だからね」海里はお茶の入ったコップを2つ持ち、ローテーブルに置き、座った。

「ありがと~~」さりげなく横に座る。



「近くない?」海里が見つめてくる。

「え? そうかなぁ?」何も分からないフリ。海里の腿の上にそっと手を置く。



「な、なに?」頬が赤くなった。こんなことで、赤くなって、可愛いお兄さんだなぁ。

「え? 何もないよー。海里くんは彼女とかいるのー?」



「居ない……」ふぅん。

「キスしたことはある?」訊いた瞬間、海里の顔が真っ赤に染まった。したことないんだ。



「な、な、なんでそんなこと聞くの?!?!」

「別に。僕で試してみない?」海里に顔を近づけた。



「はぁあぁあぁぁあぁあ?!?! 何言ってるの?!?! 出来る訳ないだろ!!!」トン。肩を少し押され、離された。



「そう? でもさ、海里くんハタチでしょ。ハタチでキスの経験もないとか、付き合った時、女の子にドン引きされて別れちゃうかも~~」口に手を当て、嘲笑って見せる。



「え……それは嫌だ……。南ちゃんはあるの……?」訝しげに見てくる。

「ぇえ? ないよぉ~~(めちゃくちゃあるけど)」



 今時の中学生と言われても致し方ないくらい、自分でもマセていると思う。そんなことバレたら、嫌われちゃう。隠し通さないと。



「……そうだよね」安堵の表情だ。

「どうする? 経験してみない?」もう一度海里に顔を近づけ、様子を窺う。



「その前にこれ、1回だけ付き合って!!!」海里はノートパソコンを南の前へ置いた。

「…………」シューティングゲーム。


「それ、昨日も深夜帯まで付き合った……」目がキラキラしている海里に対して、目が淀む。

「お願い!! みたいんだって!!! キスでもなんでもするからさぁ!!!」言ったな。


「いいよ、1回だけね」ノートパソコンを開き、準備を始める。



 中々開かない。画面が開いても中々進まない。



「なんだこのぽんこつスペックわぁあああぁあ!!! こんなパソコンで出来るかぁああぁあ!!! 重っっ!!! 重っっ!!! 負ける!!! こんなんじゃ負ける!!! こんな状況でやってたの?!?! パソコン買い替えて!!! 今すぐ!!!」キーボードを叩き、キャラクターを操作する。


「ひどーーい。いつもこれでやってたのに……」



 2人でひとつの画面を見て、あーだこーだ笑いながら、ゲームする時間は楽しくて、夢中になった。ふと、約束を思い出す。



 キスしてくれるって言ってたな。



「はい、もー終わり!!」ノートパソコンを強引に閉じる。

「えぇ~~」残念そうにしている海里を見つめた。


「約束。僕にキスして」目を閉じて、待つ。

「え? え……したことないのに……ん」優しく唇が触れ合う。


「………ん…」薄目を開けて海里を見る。



 頬を赤らめ、触れてるか触れてないか、分からないぐらい、優しく頭に触れ、ぎこちなく口付けする海里が可愛くて、もっと欲が出る。



「……もういっかいキスしよ?」手首を掴み、海里を引き寄せ、無理やり唇を重ねた。



「ちょーーっん……ん…ん……待っ!! ん…ん…」 



 唇を何度も何度も押し付ける。恥ずかしそうに顔を赤らめているのが堪らなくて、肩を押し、そのまま覆い被さった。



「この際、僕で全部経験しておこうよ」



 海里くんの全てが欲しい。今日、僕が帰っても、僕のこと忘れられなくなるくらい、純情な海里キミを僕へ溺れさせたい。Tシャツの下に手を這わせた。



 *



「ん……っん…ん…はぁっ…どこに手入れっ……あっ」



 胸元まで来た手は胸の先端を指先で弾いた。変な声が出てしまい、恥ずかしくて口元を手で押さえる。



「もっと声聴かせて?」耳元で囁くその声に鼓動が早くなる。

「やめてっ…あっ…キスだけじゃ…ぁっ……んっ……」



 胸元を触られ、出そうになる声を押し殺す。中学生の男相手に、感じる自分が恥ずかしい。ごそ。ズボンの中に手が入って来た。



「何して!!! やめて!!! 俺男だよ?!」

「でも海里くん、その男の中学生相手に顔赤くして感じてるよ? 本当にやめちゃうの?」



 下着の中を手が這う。



 自分の中へめり込む指先に感じたことない快感が全身を包んだ。



 やめてと言っておきながら、身体はその先にある快楽を望む。自分の全てを南に委ねた。



「ぁあっーー」




 ーーーーーーーーーーーー

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 目が覚め、慌てて上半身を起こす。隣を見ると南が寝息を立てて気持ちよさそうに寝ていた。



「あ……あ…ぁああぁあぁあぁあ!!!!」



 つい、気持ち良くてヤッてしまった!!! なんてこと!!! どうしよう!!! こんなよく分からない中学生と!!! こんなのお互いダメだ!!! もうなかったことにしよう!!!



「み、南ちゃん、起きて!!!」寝ている南の体を揺すり起こす。


「うぅん……え? ちょっ!! 何? やめて? わぁっ」目を擦る南を引きずり、玄関の外へ連れて行く。


「帰って!!! もう会わない!!! ごめん!!! 全て忘れて!!!」

「はぁ?! 会わないってーー」




 バタン。




 ドアを閉め、鍵をかける。玄関扉に背をつけ、ずりずりと、その場へしゃがみ込んだ。顔が熱い。心臓がずっとバクバクしている。



 これでいい、これでいいんだ。自分に言い聞かせる。



 身体から少しだけ香る、南ちゃんの甘い匂い。耳に残る『海里くん』と呼ぶ声。脳裏に浮かぶのは気持ち良かったあの瞬間。色っぽく迫る南ちゃん。目に焼きついて忘れられない。



 思い出せば思い出すほど、恥ずかしさで顔が赤く染まった。




 いつもの日常に戻れば、このうるさい心臓も、熱い身体も、頭から離れない南ちゃんの笑顔も、全てが忘れられるはず。




 でも、日常生活を送っても、この感情は何ひとつ変わらなくて。




 ご飯を食べても、掃除をしても、風呂へ入っても、スマホを触っても、頭の中は南、南、南、南、南、南。




 少しの間だったけど、一緒に過ごした時間は楽しかった。




 どうしようもないくらい、キミのことしか考えられない。




 気づけばいつもキミを想う。




 バカだなぁ。あんな別れ方して。




 どうしよう。




 忘れることなんて、出来ないよ。




 何をしても心、ここにあらず。




 南ちゃんのことを考えると、自分の世界が少しだけ、色づく。




 もう一度、南ちゃんに会いたい。





 今日はまだ一度も開いていない、DMをみた。



 

 




 あとがき。

 みみっくさん自主企画、小さな恋用に仕上げた、おにしょた短編です。


 小さな恋というか、恋に落ちたおにの話になってしまいました。


 もう少し、膨らませる膨らませたり、描写したかったなぁ。余裕がある時に加筆と編集をしたい。



 

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南ちゃんは嘘つき! 霜月 @sinrinosaki

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