28 私の女神様(2)
朝、疲労したまま目を覚ます。
……起き上がれない。
学校に行かなくちゃ。
学校に行かなくちゃ。
解ってるのに。
むくんだ目を無理矢理開けると、剣様の写真が見えた。
そうだ。昨日は剣様の写真を目の前に飾っておいたんだ。壁に飾ってあった、あの入学案内を引き伸ばした写真だ。
……ひとり、ベッドに居るのが辛くて。
剣様の笑顔が見える。
ああ、あの笑顔が見れるなら、こんな事、些細な事だ。
写真に手を伸ばした。
剣様剣様剣様。
剣様の写真が歪む。
ああ、私、泣いてるんだ。
ボロボロと、涙はとめどなく溢れた。
大丈夫。
剣様が居てくれるなら頑張れる。
剣様の為なら頑張れる。
大丈夫。
入学案内から切り取った小さな写真を写真用紙にコピーした小さな写真を、私は御守り代わりに手に握って登校したんだ。
剣様。
唱えながら、電車に乗った。
剣様。
唱えながら、校門をくぐった。
剣様。
唱えながら、席に着いた。
大丈夫。
何かあっても、たいした事ない。たいした事じゃない。
いじめてくるのはクラスの中でも、たった3、4人。あとはむしろ好意的だ。
大丈夫。
それは、移動教室の時間だった。
理科室へ向かう為、靴に履き替える。
持っているのは教科書と、それにノート、ペンケース。
中等部の校舎が後ろに見える頃、後ろから声が聞こえた。
「アイツに硫酸かけようぜ」
いつもの、男の子達の声だ。
冗談に決まってる。
けど、看過できない冗談ではあった。
「…………」
黙って足を速くする。
こんなところから、居なくなっちゃいたい。居なくなっちゃいたい。
「逃げるぞ」
リーダー格の男の子が、一言そう言った。
冷静な声だった。
無表情の子供が、何も思わずに蟻を踏み潰す時の様な声だった。
その声を皮切りに、一緒に居たあとの2人が、私を走って追い詰めて来た。
背中まで伸びたロングヘアーを掴まれ、引っ張られる。
「やだっ!」
目の前が真っ白になる。
なんで?
今まで、手は出して来なかったのに。
「逃げてんじゃねーよ!」
咄嗟に、髪を引っ張られながらも、身を守る為にしゃがみ込み、身体を丸くする。
リーダー格の男の子が、ゆっくりと奈子の目の前に立った。
興奮も何もない冷めた瞳で、足をブンブンと振る。
蹴られる……!
「やめて!!」
剣様剣様剣様剣様。
手に、剣様の写真を祈る様に握りしめた。
「たす……け……」
声に出た。
その時、校舎の陰から、誰かが覗く気配がしたのだ。
「何してるの」
「………………!!!!」
力強い声が、男の子達4人と私に降りかかった。
私は、ほとんど半泣きで小刻みに震えていた。
この……声……。
男の子達は、私の髪を手から離し、蹴るのも辞めたみたいだった。
慌てて逃げようとしたけれど、後ろから来た先生に、3人とも捕えられた。
◇◇◇◇◇
まだ過去話続きます。
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