第51話 母
えっと、どういうこと?
雪?
今のこのおじさんの奥さんか何かだよな?
なんか聞き覚えのある声だったけど、何かの間違いだよな?
「久しぶりね、紘一。元気そうでよかったわ」
きっと聞き間違いだよな。
なんか俺に話しかけて来てるけど、違うよな? なぁ?
「悲しいわ……無視なんてするようになったのね……」
「うがががががが」
ショックを隠し切れずに現実逃避していたら、それすら許されずにヘッドロックされたのはさすがに酷くないか!?
「いたい……」
「あら、泣いているの? 何か溜めてたんでしょ? ダメよ、適度に発散させないと」
「どう考えてもあんたにヘッドロックされたからだろ!?」
「あんた……母親に向かってあんた……紘一、いつからそんなに反抗的な態度を取るようになったの? 反抗期なの?」
「そもそもなんでここに? 死んだはずじゃ? 死んだと思っていたのにここにいて、しかも父親が魔神の『パパァ♡』だなんていう衝撃的な事実を知ったんだから、ちょっと思考が追い付いてないくらいでヘッドロックはないだろ!?」
一気に文句を言いきった。
もちろん母さんが死んだのは悲しかったし、もう一度話したい、会いたいと思っていたんだが……。
「それもそうね。ごめんなさいね。あんなところで死んでしまって」
「あっ……あぁ……」
そんなに素直に謝られると、それはそれで感覚狂うけども……。
「でも、こうして意識が蘇ったのは最近なのよ」
「えっ?」
まだ俺にとっての衝撃的な展開は終わらないらしい。
「ちょっと、沖田! 僕は『パパァ♡』なんて可愛らしい言い方してないんだからな!?」
母さんの後ろで何か言ってる魔神なんてもうどうでもよく思えて来た。
「酷いな!?」
「仕方ないだろう。生物にとって母親は大切だ。その再開を邪魔するんじゃないぞ、エルディータ」
なぜか真っ当なことを言ってる魔神の『パパァ♡』もなんかもうどうでもいい。
「「酷いな!?」」
そもそも2人して人の心を読むなと言いたい。
「紘一、私が意識を取り戻したのはあなたのおかげなのよ。ありがとうね」
「えっ?」
俺何かしたっけ???
「高位ダンジョン……100層以上があるダンジョンの100層を攻略したのはお前だろう? それによってダンジョンは次のステージに入った。もうすでに魔神の手も離れた。人の死に戻りも作ってくれたんだな。それでかつて死んだ者の中で転生していなかったものたちが漂い始めたんだ。その中で虚ろっている雪の魂に出会ったから話しかけて、ここに招いた」
なるほど……なんて全く思えないくらい理解の外の話しなんだが。
「ということは僕のおかげでもあるということだね」
「はじめまして、エグルスの息子? 娘? さん。乱雪よ」
「はじめまして。特に性別はないけど、沖田が喜ぶなら女に……」
「ない。俺には遥がいるからそこは間に合ってる」
「そっか……」
なんで落ち込んでるんだよ。
それに、俺が攻略を薦めたおかげで母さんとこうして話せたというのなら、少しは頑張ったかいもあったのだろうか。
「あら。やっぱり遥ちゃん? 久しぶりね」
「はっ、はい。お久しぶりです」
久しぶりに地元で再開しました、みたいな雰囲気だけど、片方は死人でここは意味不明空間だ……。
そして、そもそも母さんに対して、疑問がある。
「母さんは転生しなかったのか?」
「しなかったわね」
あっけらかんとした回答だ。うん。母さんはこんな感じでさばさばした性格だったな。
「何か理由があったのか?」
「あなたが気にすることじゃないのよ」
そしてあまり自分のことは語らない。昔からそうだ。どんなに辛くても。どんなに大変でも。決して弱音は吐かない。いつも俺や茜、遥の心配をしてくれていたな。
「人間は本来次の生を生きるべきだと思う。でもあのスタンピードは私の制御を外れてしまったことで起こった特異なものだったんだ。申し訳なくてな。まだ転生しないのならそばにいてくれと頼んだんだ」
「もちろんと答えたわ」
「雪……」
「はいはい、子供の前ではやめてね」
何が悲しくて両親のイチャコラを見なければならないのか……。
「……すまん」
だから心を読むなって!!!
「エグルスのことはもともと人間じゃないとは思っていたのよ。どちらかというと精霊っぽくて。だけどカッコよかったから交わったら子供ができて焦ったわ」
「母さん……」
自由奔放すぎるだろ!?
魔神の『パパァ♡』ですらびっくりしてるだろ!?
「それ、引っ張るね……」
魔神のことは無視だ無視。
「そういうわけで……」
「いや、母さんが今ここにいる理由じゃなくて、転生せずに虚ろっていた理由が聞きたかったんだけど」
「はぐらかして終わらせるつもりだったのに……しつこい男は嫌われるわよ、紘一」
「えぇ!?」
なんでだよ。一番大事なとこだろ?
「雪……話してやればいいだろ? せっかく会えたんだ」
「……」
「ごめんなさい、勝手に喋ってごめんなさい」
どうやらこの夫婦はどう考えても父さんの方が凄そうなのに、母さんが支配者のようだ。
魔神の……睨まれたからもうやめておこうか。
「子供はそんなこと気にしなくてもいいのよ」
「そもそも何も話してあげないとわからないだろう?」
父さんは母さんに何かを喋らせたいらしい。俺に対して。
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