第13話 クズの末路②(茜(=元恋人)視点)

その後は酷かった。


秀明はもう会ってくれない。

次回は自分が探索に行くんだと目を輝かせている。

裏切者……。


私も連れて行ってもらおうと思ってメッセージを打ったけど、当然ながら断られた。

私レベルの探索者なんか必要ない。


紘一もいないし、遥もいない。

独りぼっちになってしまった。


そして秀明たちが挑んだ東京ダンジョン攻略。


どう見てもうまく行っていなかった。


前回と比べて明らかに苦戦している。

というか前回はサクサク進んで行ったので記憶にもないような階層でもモンスターとの戦いが厳しい。

相手は変わっていない。

変わったのは探索者パーティの方だ。


紘一がいなくて、秀明がいる。

2人の差が目に見えて浮かび上がる。


ダンジョン協会の中では上層部を除いて当然だろ?という反応だが、世間は違った。

バッシングした紘一ではなく、ダンジョン協会会長の息子で期待のホープである秀明が率いる。

その言葉に踊らされてマスコミは大々的に探索のアピールをしていた。

番組でもコメンテーターが期待を語る。今回は行けると。


それが全くの嘘だったことが周知の事実となった。

ネットではどこもかしこもマスゴミという表現が散乱し、ダンジョン協会会長は叩かれ、秀明も叩かれ、そして私も叩かれた。


嘘つき、クズ、裏切者。


私には当然の言葉だった。


恋人紘一も、も、浮気相手秀明も失った。


私が纏わりついた人間は全て消えていく。



全部失った今となってはもうどうでもいいと思った。



だからダンジョン協会はやめて、そのまま家からも出た。

辞表は即受理されるくらい私は嫌われていた。




あとから聞くと、これはギリギリの選択だったみたい。

間に合ったというべきか?



あの探索に失敗して琴音と綾香は死んだ。

秀明は2人を見殺しにした上、遥と横田さんを捨てて逃げた。

全て配信に撮られている中でやった最低な行動に信用をすべて失った。

当然、他にもいた彼の恋人たちからは見放されたみたい。

どうでもいいけど。


ダンジョン協会の中も酷いことになった。

特に醜悪だったのが会長である葛野章人で、言い訳に誤魔化し、嘘、脅迫を駆使して乗り切ろうとした。

そこに秀明も加わって、自らのだらしない女性遍歴を暴露されるに至って、2人は仲違いしたらしい。

コントかと思うくらいの酷さね。


葛野会長はさらに横領や賄賂などもやっていたようで、逮捕。

秀明は気に入らない探索者に暴行したりしていたことが密告され、逮捕。


でもそれ以上の状態にはならなかった。


彼が帰ってきたから。


遥は秀明が逃げた後の絶体絶命のピンチの中で彼がくれたお守りに祈ったらしい。

そのお守りは実は彼につながっていて、なんと助けに来た。

まるで創作の中の物語かのような劇的な展開ね。


幸せそうな顔の遥を見て、私は配信を切った。

見ていられなかった。


あれがずっと私が邪魔をしていた2人の姿。

そう思い知らされてしまったから。


いや、私が捨てたものね……。


私がこんなことをしなかったら、彼はもっと理性的に振る舞っていて、こんな事態に陥ることはなかった。

きっかけは全て秀明だ。

でも、応じた私が悪いの。

寂しさに耐えられなかった私が。


大切な人を裏切ったのは私だ。


ようやく振り返れるくらいに気持ちが落ち着いたから振り返ったけど、やっぱりダメ。

涙も出ないわ。


私は一人。

もう紘一と遥の前に出る気はない。

さようなら。



切なくて気分が悪くなってきた。





 







最悪なことに妊娠していた。

時期的に……秀明しかいない。



最悪よ……。











 

私は出所した秀明に会いに行った。

父親と違って軽微な暴行罪のみだったこいつは短期間で出て来た。


「まさか君が来てくれるとは思わなかった」

「えぇ……」

こいつはこんな時でも鈍く、私の表情を見ても気にしない。

本当に私はバカだった。


「お前、やせたか?」

「……」

無言で運転する。


「とりあえずダンジョン協会に行ってくれ。財産は全部残ってるはずだ。それに……」

そこにあなたの居場所はない。

ニュースを見ていないのだろうか?

見てないか。


そもそも見ていたとしても都合が悪いことは聞いていないだろう。


「私は協会はやめたの。入れないわ」

「なんだって?なぜ?」

オ前ガソレヲ言ウノカ……


「おい、はる……茜!だったら、協会の敷地の前で降ろしてくれ。あとは歩くから」

こいつ、私のことを遥と呼びかけたな……?もしくは別の女か?

こんなやつに……。


「私ね……あなたの子を妊娠したの……」

「えっ?なんだと?いや、それは何かの間違いだろう。ずいぶん前の話のはずだ」

ねぇ、誰と勘違いしてるの?

それとも檻の中にいたからわかってない?


「まじか?まじなのか?」

私が黙って見つめていると、焦りだした。


「なぁ、今子供とか無理だ。それに結婚もしてない。堕ろしてくれ」

やっぱりこいつは最低だ。

冷静な顔に戻ったと思ったらこれ。


なんでこいつを選んだろう……私は。


「それか……嘘だな。俺との子じゃない。そうだろ?ただの浮気だったんだ。そんなことで子供なんてできないだろ?」

私はそのまま車を走らせる。

理由なんか関係なく、やったらできる可能性はあるわよ。バカなの?


「おい!なんか言えよ!というか降ろせ!」

もういい。

さようならよ。

 

子どもは既に流れている。

こんな心境では無理だったのよ。

それでも少しくらいは気にしてほしかった。


そんなことを思った私がバカだったんだ。

 


「おい!止めろ!前見ろよ!おい!?」

もう遅い。

私は止まらない。というか、車は止まらない。


秀明が殴りつけてくる拳を左手で防ぐ……。

やめてよ、時計が……。


「おい!やめ……」

私たちを乗せた車はガードレールを突き破った。


衝撃でもう言葉は出ない……。


そのまま崖に突っ込んで落ちていったわ。

























 

……なに?まぶしい……

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