第1話 【仙道 莉来】は縛られたくない

「莉来っち!おはよ!」(クラス女子A)


「おっはー!」


「仙道さんおはよー!」(クラス男子A)


「...お、おはよー...」


 そうして、相変わらず勝ち組であり、勝ちヒロインの彼女は朝からクラスに笑顔を振り撒く。


 その隣には3年生であり、イケメンかつ頭の良い春川大樹が1年の教室にも関わらず、当たり前のように入ってきて、朝からイチャつく。


 側から見てもイケメンの春川と妹感万歳で天真爛漫な仙道は、バランスの取れた幸せカップルであった。


 そして、そんな二人を恨めしそうに見ている関野峰想和という、春川の幼馴染であり負けヒロイン。


 これが現在1年A組で起こっている日常であり、地獄なのである。



 ◇8月30日

とあるファミレスのバックヤードにて


「って、先輩!私の話ちゃんと聞いてます!?」


「あー...ごめん。ちょっとぼーっとしてた。なんだっけ?」


「だから、私の彼氏が超束縛強いんですよ!クラスの男子に『おはよ!』って返しただけで、その男子のこと睨んだり、『他の男子とはあんまり話すな』とか言うんですよ!やばくないですか!」


「あー、やばいな。それはすごーくやばい。イマスグワカレタホウガイイナー」


「真剣に話を聞いてくれないなら、今ここで先輩のあそこ切り落としますよ」


「いや、やめろよ。なんだ?切り落とした俺の逸物をメニューに入れ込んで、『先輩の逸物:500円』とかで売る気か?」


「入れませんよ!入れる相手もいない悲しき逸物が500円で売れると思わないでください!」


 俺の逸物は500円でも売れないのか...。


「んで!どう思います?」


「いや、俺に言われても知らないけど...。付き合ったことないし。てか、そのこと本人には言ったのか?束縛がーって話」


「まぁ、それとなくやんわりとは伝えましたけど...。無意識っていうか少なくても悪いことだと思ってやってないんですよねー。普通に先輩のことは好きだし、長く付き合いたいと思ってるので直して欲しいんですけど...。それに教室でいちゃつくのも嫌なんですよ...。あの子にも睨まれてるし」


 さぁ、ここまでの流れでなんとなく分かったと思うが、まず俺と仙道の関係は同じ高校の先輩後輩であり、バイト先でも同じ関係なのである。


 3ヶ月ほど前に入ってきて、彼女の恋愛相談を受けつつ、今もこうして幸せをつかんだ後の恋愛相談を受けているのだ。


 それと、彼女の天真爛漫さや天然ぷりは全て計算によって図られているものである。


「バイトの時間以外は即レス10分以内ルールがあるし、たまにバイト先にも顔出してきたり...。はぁ...」と、疲れたため息をつく。


「まぁ、長く付き合いたいならあっちを変えるしかないんだろうな。てか、仙道はあの彼氏のどこが好きなんだ?」


「え?顔」


 まっすぐな女子だった。


「まぁ、顔は大事だわな」


「そういう先輩はどういう女の子好きなんです?てか、片思い経験はどれぐらいあるんですか?」


「いや、恋愛経験でいいだろ。その片思いであることが前提の聞き方をやめろ」


「んじゃ、片思い以外あるんですか?逆に」


「...ねーよ」


「ねーじゃん」


「急にタメ口やめろ」


「すみませんw」


「...まぁ、俺にだって初恋の経験くらいはある。俺の場合はそうだな...。なんとなく一緒にいて楽しい女の子...とか好きになるかもな。顔とかスタイルとかは...ほら、慣れるっていうか...ファーストインプレッション的には大きな割合を占めるけど、長く居るとあんまりどうでも良くなる気がするんだよな」


「おー、童貞さんがベラベラ喋り出した」


「...ねぇ、殴っていい?」


「いいですよ?どうせ童貞の先輩は殴るとかいう名目で私の胸触ろうとしてくるんでしょうけどwあーキモキモーw」


「...もう相談乗ってやんねーぞ」


「ひどい!私は先輩が好きだったのに!」


「はいはい...」


「それじゃあ、お仕事はじめましょっか!先輩w」



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093083404214977


 なんだかんだ惚気話だと聞き流していた話が、まさかあんなことになるなんてこの頃の俺は知る由もなかった。

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