第6話 お手伝い
畑の草抜けも概ね片付いた頃、夕食の食材とルナを乗せた台車を押してトムじいさんが帰ってきた。
結局ふたりは市場へは行かず、無駄話をしながら全ての畑の草抜きをして、また無駄話をしながら川から水を運んで風呂の支度をして1日が終わったのだ。
小屋の内装を整えていたヘルメが音に気付いて顔を出した。
「おかえりなさい、お疲れさまでしたね」
「ああヘルメ。どうかの? 少しは住めるようになったかの?」
ルナが台車から飛び降りてヘルメに抱きつく。
その体を軽々と抱き上げて髪を撫でてやると、ルナは頬を染めて首に纏わりついた。
「ええ、片付きましたよ。いただいた藁でベッドを作りました。窓にもカーテンを取り付けましたのでなかなか快適です」
まるで全て手作業で済ませたような顔で答えた。
「ほうほう、それは良かったのう。どれ、風呂の支度でもしようかの」
ルナを降ろしながらヘルメが言う。
「風呂支度ならロビンとクロスがやっていますよ。少し休まれてはいかがです? おじいさんは働きづめだ」
「それほどでもないよ。今日は久しぶりに肉を買ってきたんじゃ。パンもたくさん買えたからのう、美味しいものを作るとしよう」
ニコニコと笑いながら台所に立つトムじいさんを見て、なんとこの人間はよく働くことかとヘルメは思った。
これほど働いても暮らし向きが楽じゃないとは、不効率としか言いようがない。
根本的な問題を探り、抜本的な対策を打つという行動に出ないのはなぜだろうか……ああ、それが人間という種族か。
不公平に慣らされた人間は、自分の不利益に疎くなるのかもしれない。
いや、疎くならねば生きる気力も湧かないのだろうか。
そんなことを考えていたら、いきなり後ろから声を掛けられた。
「ヘルメ、頼みがある」
大きな声に驚いて振り向くヘルメ。
「何事ですか? 急に驚かさないでください」
「ああゴメン。ちょっと頼みがあるんだ。お前、ロビンとルナに読み書きと計算を教えてやってくれ」
ヘルメの眉がぴくっと動く。
「なぜ私が?」
「いいじゃん、友達だろ? 僕が教えるよりお前の方が向いてるし」
クロスの後ろでワクワクしているロビンをチラッと見たヘルメは断れない雰囲気を察知した。
「わかりました、良いですよ。朝と昼は仕事があるでしょうから、夕食が終わった後の時間を勉強に当てましょう。それで良いですか? ロビン」
「うん! ありがとう、ヘルメ」
「それでは私は今日からロビンとルナの先生ということですね。この際ですから敬語も覚えましょうか。その方が大人になった時に便利です」
「う……はい、わかりました。ヘルメ先生」
「良いですねぇ、どこぞのバカよりよっぽどしっかりしています。あなたは絶対に下半身で物事を判断するような大人になってはいけません。私がみっちり仕込んであげましょう」
どこぞのバカと言う単語に、チラッとクロスを見たロビンだったが、当のクロスは何も気付いてない様子だ。
「おじいさんを手伝ってくるよ。クロスは風呂を沸かしといて」
嬉しそうに家に入っていくロビンに手を振りながらヘルメがクロスに聞いた。
「どうしてこんな話になったのですか?」
クロスは風呂場に向かいながらロビンの希望を聞いたことを伝えた。
「なるほど……学校に行けない子供がいるのですか。人間界はなかなかシビアなようです」
大きな釜に水を移して沸かし始めるクロスが声を出す。
「そうだよな、でも僕はロビンと友達になったんだ。できるだけ助けてやりたいと思う」
手際よく火をおこすクロスを見ながらヘルメが言った。
「火なんておこせるんですねぇ。少々見直しました」
「へへへ! 昼間にロビンに習ったんだ。草抜きも終わったし、明日からは街に出てみようかと思っている」
「街にですか?」
「うん、早くハッピーポイントを貯めて神界に帰らないとね」
「なるほど、よい心がけです。街に出て何をするつもりです?」
「仕事を探そうかとも思ったんだが、どうやら仕事というのは拘束時間というものがあるらしいんだ。そうなると人助けをする時間が無いだろ? だからトムじいさんの代わりに店番をしながら、困っている人を探すことにしようかと思っている」
「トムさんから給料を?」
「いやいや、さすがにそんなの貰えないよ。だから僕の収入はハッピーポイントだけってことだ。ちなみに生活費とかはどうなってるの?」
ヘルメが指先を動かすと、空中からぺらっと羊皮紙が一枚現れた。
「最初の経費は私が立て替えています。一応同居ですから、折半という形にしていますよ。今月の家賃と食費などで30,000エレ、生活必需品購入で20,000エレですから合計50,000エレですね。これの半分ですから、今月分のクロスの負担額は25,000エレです」
クロスがごにょごにょと言いながら計算を始めた。
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