第361話 待った

 しかしもう一つ問題が。


「クラウス。この荒れ果てた城、どうにかなさい?」


 ギルベルタ様がにっこりと笑って、出発に待ったをかけた。満面の笑みにもかかわらず、額に青筋が浮かんでいる。


 無骨だが堅牢で、凛とした佇まいのデルブリュック城。かつては公国として、また現在も半ば独立して王城としての機能も保つこの城は、軍事拠点として行政拠点として、また文化の中心として領民の心の拠り所となっている。


 ところが開城以来、この城は幾度となく崩壊の危機に身舞われてきた。それは外敵のせいでもなければ財政難のせいでも、民衆による暴動のせいでもない。武勇に沸き立った騎士や領民によるお祭り騒ぎ、荒ぶる血のなせるわざである。てか、それなら民衆の暴動のせいなのか。


「お前が龍気を持ち込んだせいで、このザマですのよ」


 しかし今回は規模が違った。お爺様が龍気を見せ、現公爵がそれに追随。もちろん現役やOBに限らず、デルブリュックの領民には武術スキルに覚えのある者ばかりだ。SPを消費して一撃を重くする強撃、一瞬でリーチを縮める縮地。そしてHPを消費して一時的に防御力を上げる鎧纏がいてん。彼らはSPやHPを使って身体能力を底上げする感覚に慣れ親しんでいる。


 例えて言えば、SPとHPを同時消費する龍気が二重あや跳びだとすると、デルブリュック民はすでに二重跳びかあや跳びの下地が出来ているということ。彼らが龍気を会得するのは時間の問題、そうでなくとも武術大会に沸き立つ脳筋のテンションは爆上がり、みんなやる気に満ちて、日々あちこちで鍛錬という名の破壊活動に勤しんでいるということだ。


 てか、素手で瓦が割れるようになったら割りたいと思う気持ちはわからなくもないよ。そして岩が砕けるなら岩を砕きたくなるだろう。だけど城壁や石床を割るのはどうかな。それどころか、せっかくロックウォールで舗装した道路や民家の石壁にまで被害が及んでいるらしい。てか、生活インフラはやめようよ。




 しかし、龍気を見せられたら誰だって真似したくなる。これは世の摂理、特に男子の摂理だ。だってみんな少年漫画を見て、ナントカ波が撃てるように練習するものなのだから。それが一定の修練とスキルを習得すればできちゃう世界に生まれでもしたら、そりゃあみんな躍起になって覚えるだろう。


 もう知られてしまったものは仕方ない。できると知ったらみんなやる。ならば対症療法しかあるまい。壊されたものは直す。というわけで、俺は城中に魔法陣を仕込むことにした。とはいえ、仕組みは単純。街道を舗装し、道の駅を作った魔法陣がこちらだが、


『ロックウォール(垂直方向、3m×3m)→○ココ』


『ロックウォール(水平方向、3.3m×3.3m)→○ココ』


 これを各々の場所に合わせて縦横高さ、新たに厚みの指定を加え、城のあちこちにばら撒いただけだ。この辺の計算は、片瀬女史とカレスティナのAIに助けてもらった。あとは道路整備で活躍した土属性の魔術師が、一箇所ごとに魔力を注いで直していくだけ。結果、デルブリュック城は壊れたり直ったり忙しいので有名になってしまったが、逆に「どんなに壊れてもしばらくすると直ってしまう脅威の城」と恐れられるようになったらしい。まあ、元から堅固な石造りの城なのに、攻め落とすどころか壊れても直されちゃ、仮想敵国としてはたまったもんじゃないだろうな。


 しかし城の外までは面倒を見切れないので、道は「土壌改良」の魔法陣を配布した。


『土壌改良(泥、水平方向、1m×1m)→土壌改良(日干しレンガ、水平方向、1m×1m)→○ココ』


 一旦泥にしてから日干しレンガにする、ダンジョンを攻略したシステムだ。これは簡易道路整備魔法陣と名付けられた。この辺りは冬には雪が降るから、日干しレンガじゃダメなんだけど、もとは土の道路だったことだ。土属性の魔術師に余裕ができて、定期的な街道整備に着手する日がくるまで頑張ってもらおう。


 ちなみにこの魔法陣はそのうち周辺まで普及して、主要街道や主要都市のみならず小さな村や私有地の小道を整備されるのに使われるようになったという。土壌改良は生活魔法ではなくて土属性レベル1のスキルだし、一回の使用で20MPが必要なので、誰でも使いこなせるわけではないのだが、役に立ったならよかった。


 なお簡易道路整備魔法陣の功績は、セルバンテス筆頭魔導伯ではなくイルマシェ名誉魔導伯に与えられることになった。名誉魔導伯として「塔」に招かれて以来、鳴かず飛ばずだったイアサント様。彼の過去を知る上司や同僚たちにチクチクと当てこすられ、肩身の狭い日々を酒で紛らわせ、今やびっくりするほどの負債を抱えていらっしゃるらしい。こないだフィーレンス魔導伯と一緒に逃亡を図ろうとしたが、代替わり寸前の実家に居場所なんてないだろうし、代替わりしちゃったら平民落ちだそうだし、コルネリウスで頑張るしかないんじゃないかな。少なくともこれで功績は一つ得たのだから(みんな彼の功績ではないと知っているが)、これからもニヨニヨされながら研究を続けていただきたい。




✳︎✳︎✳︎


2025.09.04 追記


皆様、いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

いつも温かいコメントやご指摘を賜り、厚く御礼申し上げます!

相変わらず立て込んでおりまして、少々お時間を頂戴いたしますが、マイペースでコツコツお返事させていただきますね。

この場をお借りして、心から御礼申し上げます!ヾ(*´∀`*)ノ


そして勘のいい読者の皆様は既にお気づきかと思いますが、実は拙作の真に面白いところは読者の皆様からのコメントでして、もし読み飛ばしてるよって方がいらしたら、是非ご覧ください。

秀逸なボケ、鋭いツッコミ、言い逃れのできない先読み、それから作者のポンコツっぷり。

また、公開からお時間が経ってから書き込んでいただいたコメントもございます。

もし読み返される機会がありましたら、本編は斜め読みで結構ですので、是非コメント欄をお楽しみくださいね!ヾ(*´∀`*)ノ




おかげさまで書籍版「スキル生え」発売!

詳細情報は7月25日の近況報告で → https://x.gd/G2RYb


試し読みしていただける書店様、購入者特典のある書店様の情報なども掲載しております。

ご興味がありましたら是非!(ノ´∀`*)

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