第二十一話 幽闇ノ艦隊VS聯合艦隊(3)

戦闘機隊指揮官機「紫電改二型」の操縦士天翠航空隊隊長下田 陽斗しもだ はるとは、無線で航空母艦の場所を後方に控えている攻撃隊、水急爆撃隊に知らせた後、機体を翻しながら急降下する。

鳥の群れのように他の戦闘機も次々と機体を翻し急降下する。


まずは戦闘機隊が、空母上空に居る敵戦闘機を攻撃する。

上空から紫電、烈風、零戦、全戦闘機が上空から狙いを定めた。

まず先陣を切って指揮官機が敵戦闘機に発砲した。

白く黄色い紫電の20ミリ機銃の弾丸が、敵戦闘機を襲う。

敵戦闘機の主翼に命中し、弾が当たった主翼の方向へ傾く。

それが高速で両翼4回づつ繰り返され、不意を突かれた敵戦闘機は炎を吐きながら墜ちた。


敵戦闘機に気づいた他の戦闘機や空母は、高角砲や機銃を撃ち始める。敵戦闘機は、攻撃隊めがけて突進し、機銃を掃射する。

すると、一機の九七式艦上攻撃機に被弾炎上する。


陽斗は無線機のボタンをつける。

「指揮官機より九七艦攻11番機含む全攻撃隊へ。炎上またはエンジン不調を確認した場合は直ぐに母艦へ帰投せよ。今現状、航空機を失うわけにはいかない」

そう言い、操縦桿を左に倒した。


被弾し炎上した九七艦攻は翼をバタつかせ、消火に入りながら帰投する。

この行為には、航空機と乗員を守る他、弾薬の弾数を保つ事もできたので、結果的に良かったと言える。


九七艦攻、天山、流星がそれぞれ2機づつ集まり編隊を組む。

最初の編隊は4つ組まれ、それぞれ1隻の空母にめがけて体当たりせんばかりの勢いで突っ込んでいく。

三◯サンマル二五フタゴ二◯フタマルと距離をつめ、いよいよ迫った一◯ヒトマル

広範囲に広がるように魚雷を投下した。

その魚雷はきれいな扇形に広がる。

そして第一次攻撃編隊は敵からの砲撃を分散させるため、散り散りに分かれながら反転し高度を上げる。

空母の高角砲は去っていく攻撃隊と第二次攻撃隊に向けられた。

しかし、魚雷が右舷に四発命中。

敵空母は右舷に傾き、高角砲の最高高角度が制限される。


必死に攻撃隊を攻撃する敵空母は、何も・・見えていなかった。


空母の上空。

ほとんど90度と言っていい角度で、ものすごい速度で突っ込んでくる。


そう、急降下爆撃機だ。


彗星、九九艦爆が、エンジン音を高鳴らせながら翼で風を切る。

熟練した操縦士達は、全神経を集中させ、ぶつかるギリギリで爆弾を投下していく。

1隻の空母に6か4機で攻撃を行い、5から2発命中した。

空母は爆発し、もう既に空母としての機能がなくなっていた。

しかし、まだ終わりではない。


橘花、九七艦攻による水平爆撃が残っている。

九七艦攻と流星が250キロ爆弾を投下する。

しかし、この250キロ爆弾による攻撃は、半数以上命中したものの、今一つの効果であった。

そこで、橘花による800キロ爆弾でとどめを刺しに、噴進発動機を最大出力に上げ高速水平爆撃を行った。

800キロ爆弾は流石に効果があり、綺麗に平べったかった飛行甲板は、クレーターのように凹凸おうとつしている。



空母四隻に、急降下爆撃、水平爆撃、雷撃、射撃で攻撃を実施する。数多の対空砲火をくぐり抜け、無被弾で爆弾や魚雷を投下出来た攻撃機は199機。

その他は被弾炎上し帰投したか、エンジンがやられ、帰投したかだ。その中でも、炎上したが魚雷などを投下した後、帰投する機もいた。


空母は被弾炎上、魚雷により傾斜が激しくなり、四隻轟沈判定となった。

信濃を含めた空母に、彼等は帰投する。



大和、伊勢、日向、金剛、霧島は、それぞれ敵艦隊に主砲副砲へ狙いを定める。

伊勢、日向、金剛、霧島は、最大射撃距離が大和より短いため命中弾は少ないが、戦艦大和にとってはとても近い。

更に交互撃ち方による射撃精度の向上により、命中弾は毎回5発以上である。

しかし、敵駆逐艦巡洋艦は依然少なくなく、現在の戦艦隊の戦果は、駆逐艦15隻、重巡3隻、軽巡8隻、戦艦1隻轟沈という、潜水艦により確認できた見事な戦果であるが、敵は残り空母をはずして、駆逐艦2隻、重巡3隻、軽巡2隻、戦艦2隻、合計9隻居る。


大和の交互撃ち方の精度は着々と上がっていき、現在は9弾中、4から7弾は命中している。


しかし、敵艦がどれほど負傷を負っているか、濃霧のせいで分からない。

そのため、どれほど撃てばいいのか、どれほど撃たなくてもいいのか分からない。

弾数が限られている此方にとっては、とても困ったことである。

しかし、そこで敵艦隊に異変が起きた。


「……?霧が、晴れていく……」

一人の兵が言葉をこぼした。


そう、敵が撤退していったのだ。


弾数の消費を減らしたかった第一艦隊にとって、これは望んでもなかった事態だが、ここで逃がしてしまおうものなら、いつどこで会えるか分からない。

全員、長官の言葉を待っていた。


「今は、彼等と対峙する道理がないという訳か」


「長官。ここで逃がすと、いつ何処で会えるかも分かりません。追いましょう」


成斗が、自分の意思を必死に伝える。

成斗の考えも一理あるのだ。

山本五十六は目をつむり必死に考える。

そして……。


「今の彼等幽闇ノ艦隊は本気ではない。もし全勢力をかけて聯合艦隊を打とうものなら、敵も大和を出してきた筈だ。それを出してこないということは、今の我々には彼等と対峙する意味がないということだろう。敵の情か、それとも偶然か分からんが、今は第二艦隊と合流し、当初の目的を遂行する」


「そうですか。分かりました」



第一艦隊は、まだ薄く残っている霧を切り進みながら、第二艦隊と合流を図った。



しかし、見えてきた第二艦隊は、決して芳しいものではなかった。

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