「報復者達」
宿に戻ろうとしたアーケオはとある光景に目を惹かれた。多くのsローゼンの兵士達が一斉にアルタリアを去っていくのが見えたのだ。
「一体、何でしょう?」
隣にいたマシュロも小首を傾げる。
「何が起こっているんですか?」
アーケオは町民の一人に尋ねた。
「ローゼン王国が『夜明けの翼』に襲撃されているらしい」
「えっ?」
マシュロと目を合わした。数日前、アルタリアに『夜明けの翼』がいるという目撃談は聞いたが、実際に出て来たのは遠く離れたローゼン王国だったのだ。
「おそらく数日前の情報はブラフだったのでしょう。それこそ『夜明けの翼』の人間が吹聴した」
「そんな」
アーケオはマシュロの考えを聞いて、心臓を撫でられるような感覚を抱いた。同時に彼の脳裏にある考えがよぎった。
「ローゼンを助けに行こう」
「よろしいのですか?」
「僕はローゼンの王室から酷い目にあっただけだ。一般市民の人に何かされたことはないよ」
アーケオはローゼンの市民を助けることをマシュロに告げた。
「それがアーケオ様の御意志なら喜んで」
マシュロもアーケオの意見に賛同した。列をなして、進んでいくローゼンの軍隊を横目にアーケオは別のルートからローゼン王国に向かった。
「でもアルタリアからローゼンってかなり離れているんじゃないかな?」
「いえ、立地的にはかなり近いのです。船で海を渡って、馬を走らせれば着きます。大会がこの国で開かれた理由もこれが理由の一つでしょう」
マシュロが地図を広げて、説明をした。この従者は本当に優秀だ。アーケオは静かに思った。
支度を終えて、アーケオとマシュロはローゼンに向かった。港でローゼン行きの船に乗った。
遠くの方でローゼンの兵士達とおそらく父や兄が乗っている船が進んでいる。
十年前、ローゼン王国を壊滅の危機に追い込んだ組織。それが再び王国に反逆の牙を突き立てたのだ。
「必ず止める」
アーケオは固い決意を胸にまだ見えぬ故郷を見つめた。
レックスは長く伸びた銀色の髪を靡かせながら、燃え盛るローゼン王国の城下町を歩いていた。周囲では彼の仲間達が暴れていて、破壊の限りを尽くしていた。
「十年間、動きがなかった奴らがなんでいきなり!」
「考えるのは後だ! まずは敵を倒す事に専念しろ!」
ローゼンの兵士達が見るからに動揺していた。無理もない。十年以上、動きがなかったテロ組織が突然、襲撃してきたのだ。
「かかれ!」
兵士達がレックスに向かって、武器を振った。レックスは大剣を引き抜いて、一瞬で敵をなぎ払った。彼にとっては並みの兵士がいくら束になろうと、烏合でしかない。
『夜明けの翼』の実力は圧倒的だった。十年という潜伏期間は彼らが力をつけるのには十分な年月だった。
「くそっ! 賊どもがあああ!」
ローゼン兵士達が剣を取り出し、襲いかかってくる。しかし、彼らの実力は国軍である兵士達を遥かに凌駕していた。
街の所々からは爆音と建物の倒壊する轟音が聞こえて、街中で起こっている出来事がいかに非日常的なのかを彼らに示していた。
「全て壊せ!」
「祖国の仇! 討たせてもらうぞ!」
「故郷を滅ぼした報い! 受けてもらうぞ!」
ローゼンの兵士達が応戦してくるが、彼らの勢いは留まることを知らない。銃声と断末魔、罵詈雑言が辺りに響く。
「まだまだ、こんなものじゃすまない! 被害者は加害者の命が消えるまで報復する権利がある! そうだろ!? お前ら!」
「おおっー!」
彼らは喉が張り裂けるような勢いで声を上げる。自分に受けた屈辱に対して徹底的に報復する。そこにいたのは敵国への憎悪を糧に進撃する報復者達であった。
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