「狡猾な暴君」

控え室に戻るとマシュロが穏やかな笑顔で待っていた。


「お疲れ様でした。アーケオ様」


「ただいま。マシュロさん」

 アーケオは誇らしげに首に下げた金メダルをマシュロに見せた。


「これもアーケオ様の絶え止まない努力の結果です」


「僕だけじゃない」

 マシュロはもちろんの事。ここにはいない旅路で出会った人々のおかけだ。


「剣術なら僕よりも強い人は多くいる。ディーノさんや黒瀬さん。そして兄さんも」

 アーケオの名前を出した人物の顔が浮かんだ。ブレド自身も人間性に難ありだが、剣の腕は間違いなく一流だった。


「だからもっと強くなりたい」


「ご立派です」

 マシュロが優しい目を向けてきた。


「さっ! 街に行こう!」

 アーケオはマシュロとともに向かうことにした。どうしても行きたい場所があるのだ。


「御帰りになりますか?」

 控え室の扉を開けると職員の男性に声をかけられた。



「はい」


「でしたら裏口から退場をお願いします。表の方は多くの観客で賑わっていますので。優勝が通るとなると混乱が予想されるので」


「確かに。分かりました」

 アーケオとマシュロは職員の言うことを従って、裏口の方に案内された。


「こちらです」


「ありがとうございます」

 アーケオは裏口の扉を開けた。開けた場所とそこに一人の男が立っていた。ルーベルト・ローゼン。彼の父だった。

 

「久しいな。アーケオ」


「お久しぶりです。陛下」

 既に嫌な予感がした。おそらく職員もグルだったのだと察した。


「まさかブレドを破り、世界最強の座を手にするとはな。驚いたぞ」


「ええ。努力の賜物です」

 アーケオは嘘偽りなく答えた。


「そこでだ。お前の努力を認め、我がローゼン王国の王子として再び、迎え入れよう! 地位は将軍だ。その力は戦場でこそ発揮される。どうだ! お前は王子としての身分に返り咲き、将軍の地位を手に入れる。これ以上ない待遇だろう?」

 頭が真っ白になった。父の言葉を理解できなかったのだ。ふと隣から寒気を感じて、横目で見るとマシュロが冷ややかな目をルーベルトに向けていた。


 無理もない。散々自分の主人をコケにしてきた存在が手首をねじ切る勢いで対応をかけてきたのだ。


「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。そして何より勘当する際、母を冒涜しました。そのような方の元にいたくありません」


「そうか。そうか。ならやる事は一つだな」

 ルーベルトの周囲の空気が変わった。アーケオは感じ取っていた。心臓が締まるような殺気を。


「勇者ローゼン亡き後、我々がなぜ、ここまで繁栄したか知っているか?」

 父が指を鳴らすと、辺りの物陰から無数の武装したローゼンの兵士達が姿を見せた。


「略奪と殺戮だ」

 父が鋭い目を作った。

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