「刺客」
闘技場の中、アーケオは勇者の剣を掲げた。目の前では相手選手が白眼を剥いて倒れていた。
「勝者! アーケオ選手だ!」
司会者の声とともに会場の空気が震えんばかりの歓声が湧き上がった。
「すげええ」
「強いな。まだ十歳とかだろ?」
「もしかしたら本物の勇者なんじゃないのか?」
観客達がアーケオの話を和気藹々と話していた。エムバクとの戦いの後、アーケオはその後も順調に勝利して、決勝までの駒を進めていたのだ。そして、その光景を快く思わない人間が会場の上から見ていた。
「出来損ないがいい気になりおって。おい。分かっているな」
「ええ。父上。既に手を打ってあります。二人とも」
ルーベルトの言葉に応えるようにブレドが指を鳴らすと物陰から二人の男が出て来た。一人は緑色の長髪をした細身の男である。もう一人は糸目の小太りの男。
「ほう。お前達か。ならどうにかなりそうだな」
「ええ。では二人とも頼んだぞ」
「はっ!」
「御意」
二人がルーベルトの意思を聞くと、一瞬で姿を消した。
「これで反乱分子は消えた」
ルーベルドが口角を上げて、葡萄酒を口にした。
試合が終わったその日の夜。アーケオはマシュロとともに市場で買い物をしていた。
「確か次は果物だよね。マシュロさん」
アーケオは彼女に声をかけると隣に彼女がいなかった。辺りを見渡すと後ろの方にマシュロがいた。露店に並んでいた金色のネックレスを見つめていたのだ。
「マシュロさん?」
「えっ? ああ! アーケオ様! 申し訳ありません。さあ買い物の続きをしましょう」
マシュロが気持ちを切り替えたようにそそくさと果物屋の方に向かった。従者とはいえ、マシュロも一人の女性だ。綺麗なアクセサリーには興味があるのだろう。彼女の珍しい一面が見る事が出来て、アーケオは少し嬉しくなった。
買い物を終えて、アーケオ達は宿舎を向かっていた。
「明日の試合って何時だっけ?」
「次の試合は明日の午後十三時からになります」
「うん。ありがとう」
朝練の事を考えると、今日は早めに寝た方が良いかもしれない。二人は宿舎に戻り、入浴と食事を済まして、早々と眠りについた。
夜。アーケオは体を揺さぶられて目を覚ました。起こしたのはマシュロだった。口元に人差し指を添えて、いつになく真剣な表情でアーケオを見ている。
「何やら不審な気配を感じます。武器を」
マシュロの小さくも真剣な声で眠気が覚めて、剣を取った。部屋の扉の近くに身を寄せて、扉の向こうの脅威に備える。
マシュロとともに息を殺していると、扉がゆっくりと開いた。扉の方から覆面を被った侵入者。腰に短剣を携えており、見るからに怪しげな風貌だ。
そして、侵入者の目がゆっくりとアーケオに向いた瞬間、その目が赤く染まった。マシュロが侵入者の目を斬りつけたからだ。
「ぐえええ!」
「アーケオ様! 廊下の窓を割って外に!」
「うん!」
廊下にいた数人の覆面達を退けて、アーケオとマシュロは窓を割って、外に出た。すると外の建物の屋根に無数の覆面達が立っていたのだ。
「なっ!」
アーケオ達を見た瞬間、覆面達が一斉に飛びかかってきた。手に持った鋭利な短刀を何度も振り回してきた。一人一人の短剣の腕前は非常に高く、素人のそれではない。
「一体誰の差し金ですか」
アーケオは問いかけたが返ってきたのは短剣による連続攻撃だった。しかし、マシュロに比べたらあまりにも遅かった。
「ふん!」
アーケオは襲いかかってきた覆面達を次々と返り討ちにした。その近くでマシュロも覆面達を制圧していた。
「ん? この紋章」
マシュロが奇襲者の手の甲に入っている紋章を見て、眉間にシワを寄せた。手の甲には蛇のような紋章が刻まれていたのだ。
「蛇の紋章。まさかサーペント家の者か?」
奇襲者が首を縦に振った。アーケオはサーペントいう名前に聞き覚えがあった。父であるローゼン国王の正妻であり、異母兄ブレドの実母。ヴァイパの生家だ。
「おや。やっぱり一筋縄ではいかないか」
高らかな声が頭上から聞こえた。そこには緑色の長髪と細身が特徴的な男と糸目で小太りな男がいた。その周りにはもう数人の覆面達がいた。アーケオは二人の男から感じる異様な気配に生唾を呑んだ。
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