「開戦」
大会出場の登録を済ませた後、アーケオは街の外でマシュロと木刀を交えていた。
「ふん!」
「はっ!」
数ヶ月前まで全くついていけなかったマシュロの動きに対応できている。ここ数ヶ月の激闘のおかけだろう。
「素晴らしい動きです! アーケオ様!」
「負けないよ!」
アーケオは大振りを当てようとしたが、マシュロにひらりと躱されてしまった。そして、彼女の剣先がアーケオの顎に向けられた。
「勝負ありですね」
「あー! 悔しい! また負けた!」
「強かったですよ。アーケオ様。本当に」
マシュロが額に汗を滲ませて、爽やかな笑みを向けて来た。負けはしたが確実に強くなっている実感を得ていた。
「随分と精が出ているな」
聞き覚えのある声が耳に入った。
「ディーノさん!」
「ディーノ様」
「久しぶりだな。アーケオ。マシュロ」
ディーノが口元に笑みを作った。以前の戦士のような出で立ちではなく、半袖とズボンというラフな格好だった。
「言われた通り。ヤマトで修行もして来ました!」
「そうか。さっきの訓練も見た感じ、前より動きが良くなっていたな」
「ありがとうございます。ディーノさんはなんでここに?」
「世界大会を見に来てな」
「参加しないんですか?」
「いや。俺は用事があって参加できそうにない」
「そうですか」
アーケオは残念に思った。最高の舞台で再び、彼と剣を重ねたかったからだ。そんな彼の心情を察したのか、ディーノがアーケオの頭を撫でた。
「そんな顔をするな。代わりに一本付き合ってやるから」
「良いんですか!」
「ああ」
アーケオは早速、稽古の準備を始めた。数ヶ月前は手も足も出なかった。でも今なら追いつける気がするのだ。
「それでは始め!」
マシュロの声でアーケオはディーノと剣を重ねた。相変わらず凄まじい剣の腕だが以前よりは付いてこられるになった。
「この短期間で腕を上げたな」
「まだまだこんなものじゃないですよ!」
三皇魔の一角とヤマトで巻き起こったテロ。ディーノと別れた後、それらを乗り越えて、アーケオは急激にレベルアップしているのだ。
アーケオは攻撃し続けて、ディーノから攻撃するタイミングを奪っていく。一本取れる。彼は確信した。
するとディーノが振り上げたアーケオの木刀を持ち手に自身の木刀を叩きつけた。
突然の出来事でアーケオの手から木刀が離れた。木刀が宙を舞い、近くの地面に落ちた。アーケオは手を上げて、降参を現した。
「負けました」
「以前とは違って、攻撃にも積極性が出ている。防御も問題ない。あとは数をこなす事だな。活躍。期待しているぞ」
「はい!」
負けてしまったがアーケオは不快感を抱かなかった。むしろどこか爽快感すらあった。その後、アーケオとマシュロはディーノと別れて、宿に向かった。
次の日、アーケオは会場に向かった。会場には既に選手や観客が来ていた。
アーケオは遠くの方に見覚えのある顔がいた事に気付いた。端正な顔立ちと眩い金髪。ブレド・ローゼン。彼の腹違いの兄だ。
「まさか兄さんも」
アーケオは驚きつつも、職員の指示通りに動いた。会場に選手たちと入場した時、その会場の広さに驚いた。闘技場を取り囲むように設置された無数の椅子。
そこに多くの人が腰掛けて、目を輝かせていた。観客を見渡していると会場の下段の方にマシュロがいた。彼女と目が合い、互いに微笑みを交わした。
「ローゼン王国現国王。ルーベルト・ローゼン陛下よりお言葉」
司会者の男がそういうと、会場を一望できる部屋からローゼン国王が顔を見せた。アーケオは目を向けていた。数ヶ月ぶりに見る父は以前と変わらず、顎髭を蓄えて、他者を見下すような目つきをしていた。
「諸君。今日はこのような場に足を運べること。嬉しく思う。参加者全員が己の全力を出し、強者を打ち取り、最強の称号を手に入れる瞬間を心から期待しておる!」
会場から一斉に拍手が湧いた。国王を賞賛する言葉や歓声が巻き起こる。必ず優勝してみせる。アーケオは固く誓った。
豪華さが漂う一室でブレド・ローゼンはソファーに腰掛けて、葡萄酒を堪能していた。目の前には大会の参加者のリストが置かれていて、じっくりと観察していた。
「ふーん。あいつも出場しているのか」
その中に腹違いの弟の名前を見つけた。ゆっくりと口角を上げて、画策を巡らせ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます