「和道照栄」
しばらく進むと大きな城が見えた。あれがこの国の長が住んでいる城だ。アーケオはこのような事態でなければじっくりと観光したいと思った。
「黒瀬鋭心だ。殿に緊急の知らせを伝えに来た」
鋭心がそう告げると門兵が城の扉を開けた。アーケオは緊張感を胸に城の中へと入った。
長い廊下と階段を歩み、将軍がいる部屋の前に着いた。
「黒瀬です」
「入れ」
扉の向こうから重厚感が溢れる声が聞こえた。扉を開けると鮮やかな金色の羽織を着た中年男性が腰掛けていた。
「アーケオと申します」
「その従者。マシュロ・トーンでございます」
「初めてだな。旅のものよ。私がこの国の将軍。
「今日。私が留守にしている間に道場が襲撃されました。その時の現場には彼ら二人がいました」
「なんと」
「そして、現場にこれが」
鋭心がマシュロから受け取った鏃を見せた。
「この鏃。まさか
「ええ」
鋭心と照栄が何かを察したかのような表情を浮かべている。
「厳世?」
「
「十年以上前に死亡したと報告されたはずだ」
二人は驚いていたが、アーケオには一つ疑問があった。
「何故、その鏃でその厳世という人が犯人だと分かったんですか?」
「そこの者。倉からこれと同じものを持って来てくれ」
「かしこまりました」
照栄が使用人に命じるとすぐさま、鏃を持って来た。その鏃は道場を襲撃したものと全く同じものだった。
「大江戸厳世が使用していた鏃と同じものだ」
「そんな。では奴が」
鋭心が明らかに狼狽えた様子だった。その瞬間、凄まじい爆発音が聞こえた。
「何事だ!」
「殿! 城下町の方で爆発が起こりました!」
腰に刀を携えた使用人が膝をつきながら、照栄に告げる。
「現場に兵を向かわせろ。なんとしても民を守れ!」
「はっ!」
照栄が命じると使用人がそそくさをその場を去った。
「僕達も現場に向かいます!」
「そなたらは戦えるのか?」
「旅の途中で何度も魔物と戦闘をしているので問題無いです」
「左様か。では頼んだ」
照栄からの頼みを聞き入れて、アーケオ、マシュロ、鋭心は城下町に向かった。
城から出てしばらく進むと城下町が見えた。すでに火の手が上がっており、住民達の叫び声が聞こえた。
現場に着くと多くに人が逃げ惑う姿が見えた。
「あれは」
アーケオはとあるものに目を奪われた。目線の先には昼間に見た黒い布で顔を覆った人がいたのだ。
それも一人ではない。周囲に十人以上確認できた。するとアーケオを見るや否や、覆面全員がアーケオ達に向かって、走って来たのだ。
アーケオは勇者の剣を抜いた。覆面は手に持った短刀で襲いかかってきた。刃を重ねる中、アーケオはとあることに気がついた。
「この人たち。動きが変だ」
関節の動きに逆らったような動きをしているのだ。腕や足の関節が人体ではありえないほど、ねじ曲がったりしているのだ。
「マシュロさんより遅い」
しかし、今のアーケオにとっては恐れるに足らなかった。彼は瞬く間に短剣を壊して、覆面を剥ぎ取った。彼は目を疑った。
顔がなかったのだ。正確には目や口、鼻などのパーツがなかったのだ。動揺した彼の隙を狙って、短剣を取り出して攻撃して来た。それを鋭心が庇った。
「動揺するな! 奴はからくりだ。首を撥ねろ!」
「はい!」
気を取り戻したアーケオはからくり人形の首を撥ねた。よく見ると後頭部に鍵のような突起が見えた。
「これはゼンマイと言って、これを巻くことで一定時間からくりが動くという仕組みだ」
「なるほど」
敵の兵器とはいえ、ローゼンにはなかった技術にアーケオは少し面白く感じた。周囲のからくり人形達はすでに討伐されていた。
「何かおかしい」
鋭心が顎に手を添えて、眉間に皺を寄せる。
「何がですか?」
「十年前の大江戸厳世の襲撃の際はもっと大規模だった。これだけで奴が終わるとは」
「敵勢力の様子とか?」
「この国は大陸から独立した島で将軍の力は絶大。わざわざ生きてきたやつがこんな小細工で身を晒すはずがない。姿をあらわにするなら」
鋭心が言いかけた瞬間、城の方から凄まじい破壊音が聞こえた。よく見ると城の最上階部分から煙が上がっていた。
「殿!」
叫び声をあげる鋭心とともに城へ向かった。
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