「ザザラ砂漠」

 灼熱の太陽が照らす中、アーケオとマシュロは砂漠の中にいた。ザザラ砂漠。ローゼンから遠く離れた広大な砂漠地帯だ。最初はどこまでも続く広大な砂漠に心を奪われていたが徐々に興奮よりも疲れが増し始めていた。


「暑い。なんて暑さ。本ではここに国があるって聞いたんだけど」


「おそらくジルギスタン王国のことですね。しかし凄まじい暑さ

ですね。アーケオ様。少し休憩致しましょう」


「そうだね」

 アーケオはマシュロの言葉に従い、腰を下ろした。水を受け取り、体の芯まで染み渡る感覚に浸る。軽くため息をついていると、遠くから人の声が聞こえた。


 声のする方に目を向けると二人の人影が見えた。一人は鎧姿の長身の男。背中には大剣を背負っている。もう一人は同じ鎧姿の金髪を後ろに束ねた女性だった。二人とも剣を構えて、何かを警戒している。彼らの視線を先には魔物がいた。サソリのような姿をした魔物だ。大きく鋭い顎が二人を捕らえようと何度も交差していた。


「まずい! 魔物だ!」


「アーケオ様!」

 アーケオはマシュロの心配をよそに走り出した。早くしないと二人の命が危ない。アーケオは勢い良く地面を踏んで、二人の前に飛び出した。


「ふん!」

 アーケオが魔物めがけて、力強く木刀を振った。


「ギュオオオオオオ!」

 木刀は頭頂部に食い込んで、魔物が悲鳴をあげながら、白目をむいた。


「大丈夫ですか!?」

 アーケオは討伐したのち、二人 の身を案じた。


「ああ、問題ない!」


「ええ。足を取られただけだから」

 しばらくするとマシュロがやって来た。


「心配いたしましたよ! アーケオ様! あとでお説教ですからね!」


「ごめん。ごめん」

 マシュロが頰を膨らませて、アーケオを窘めた。


「さっきはありがとう! 少年! 俺はジルギスタン王国の騎士クリス。こいつは同僚のリーシアだ」


「よろしく。命を助けてくれた事、感謝する」


「僕はアーケオと言います」


「アーケオ様の従者、マシュロです。お二人は何をやっていたんですか?」

 マシュロが二人に尋ねるとクリスが懐から地図を取り出した。


「俺達はこの先にあるところを目指していたんだけど迷っていてな」


「その道中。君に助けられたというわけだよ」


「あるところ?」


「三皇魔って知っているか?」


「まさか、ここにいるんですか?」


「ええ」

 リーシアの言葉にマシュロが息を呑んだ。


「三皇魔って?」


「魔王ユーカリオタが生み出したとされる強大な力を持つ三体の魔物です。まさかその一体が」


「ええ、その魔物の影響で他の魔物が生まれて、近隣の村や町に被害が出ているんです」

 魔王の存在は知っていたが、まさか魔王以外にも厄介そうな魔物がいるなんて考えていなかった。


「我々は陛下からの勅命を受けて、三皇魔の一角。アルドュヴラの巣を探しにきたのです」


「マシュロさん。この人達に力を貸そう」


「それがアーケオ様のご意向なら」

 敬虔な従者は主君に頭を下げた。


「目星はついているんですか?」


「一応」

 リーシアが懐から一枚の地図を取り出した。


「ここから二百メートル離れたところに地下へ繋がる大きな洞穴があります。そこらでアルドュヴラの目撃情報が多数寄せられています。我々は巣の特定次第、王国軍を要請するつもりです」

 まずは視察。そのためにはその洞穴に潜入する必要があるのだ。アーケオ達は早速、アルドュヴラの巣の候補である洞穴に向かった。


 最初は歩きにくかった砂漠も少しずつ慣れていった。しばらくすると大きな洞穴が見えた。洞穴はかなりの大きさで大型の魔物でも出入り可能なくらいの大きさだった。


 アーケオは緊張感を抱きながらも、洞窟の中を進み始めた。松明の光を頼りに奥へ奥へと進んでいく。砂漠とは違って周囲の空気は冷たく、それが余計に洞窟の不気味さを増長させていた。


 しばらくすると奥から物音が聞こえた。アーケオ達はすぐに武器を構えた。すると先ほどのサソリのような魔物がぞろぞろと暗闇の中から出てきたのだ。


「キュエエエエ!」

 魔物達がアーケオ達を見るなり、奇声をあげて向かってきた。アーケオは木刀で向かってきた一体の脳天を潰した。近くを見るとマシュロが軽やかな動きで次々と魔物を切り裂いていた。クリスとリーシアも剣士というだけあって、素早い動きで討伐していた。


「ふう。なんとか片付いたな」

 散らばる魔物の遺体を見てクリスがため息をついた。


「警戒を怠るな」


「分かっているよ。リーシア」

 腕を組んで忠告するリーシアにクリスが項垂れながら、応えた。


 しばらく進んでいると開けた場所に出た。辺りは岩壁に覆われているが、上から差す僅かな陽光のおかげで少し明るい。


 陽光の指した光の下に一際盛り上がった砂山があった。アーケオは直感で理解した。何かある。


 すると砂山がゆっくりと盛り上がり始めて、中から何かが出てきた。それを見た時、アーケオは全身の鳥肌がたった。目の前に現れたのは巨大なサソリの姿をした魔物だった。黄金の体に巨大な二本のハサミ。そして、先端が鋭いナイフのような尾。


「あれが三皇魔の一角。アルドュヴラ」

 ザザラ砂漠の主を目の前にアーケオの心臓が今まで以上に激しく脈打った。

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