終章 06 ガラスの破片

 定時になった。駐輪場エリアに入ると、舞は、リュックからキーを取り出した。


 マウンテン・バイクに掛けたチェーンに、キーを差し込み、ロックを解く。いつものように、力を入れ、マウンテン・バイクを手前に引いた。


 だが、タイヤの回転が異常なのか、スムーズに動かない。一旦、元の位置に戻すと、舞は、マウンテン・バイクのタイヤを確認した。


 前輪にガラスの破片が刺さっていた。今朝の通勤途中で、ガラスの破片を轢いたと思われる。喜多川との約束の時間まで、三十分以上あった。


 駐輪場エリアを離れる際、舞は、屋根を見上げた。最近、取り付けられた防犯カメラが視野に入った。患者用の駐輪場エリアは、夜間は門が締まり、施錠される。だが、職員用の駐輪場は、夜勤の職員も利用するため、二十四時間、門が開いていた。


 大学構内であり、職員用スペースなので、これまでに、この駐輪場での盗難被害は、出ていない。用心のため、防犯カメラが導入されたが、普段、自転車を利用しない職員は、把握していないだろう。


――ガラスの破片は、悪戯?


 一瞬、舞の脳裏を過ったが、すぐに打ち消した。マウンテン・バイクを駐輪場に残し、舞は、徒歩で、西宮警察署に向かった。

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