第3話

父と母は常に僕の相手をしてくれなかった。自分たちの子供、いやそれどころか一人の人間として認識してくれなかった。特に父は僕のことは一切相手にせず、母に対してもほとんど相手にしていなかった。そんな父は神社の祭りとかで地域の人々と接するときだけ母や僕を相手にして周囲にいい人アピールをするが、実際は家庭内での会話はまるでない。父は母にもほとんど興味がないような振る舞いをしていた。普段の父は鍵のついた自分の部屋に閉じこもり、祖父とも祖母ともほとんど会話をしない生活を送っていた。母は母で祖父の言うこと、つまり神社の雑用と家事全般、そして祖父の仕事の雑務をすべて押し付けられ、僕にかまう暇はなかった。祖父は「女は男に黙って従え」という典型的な男尊女卑主義者だったからだ。雑用や家事は女の仕事だと言い、対外的な仕事だけをして後のことは何もしなかった。例えば、お風呂も祖父が絶対に一番風呂で、母が最後と決まっていた。そんな忙しく虐げられた日々のうち、若い母は僕のことに関心を持たなくなったみたいだと思う。母は二十歳で父と結婚した。父の高校の教え子だった。年も十五歳離れている。その事実を知ったのは僕が小学生の頃だった。母は高校卒業後一年くらいしてたまたま父に再会して、恋に落ちて結婚したと言っていたが、それは絶対に嘘だと思った。だから僕は何故か罪悪感に苛まれた。教師が自分の教え子と結婚してよいのかと思ったからだ。小学生ながらにそれは許されることではないのではと僕は感じていた。小学生も高学年になると性の知識を持ち始める。そして僕は確信した。父は母に許されないことをしたのだと。教師という生徒にとっては絶対の権力を使って、未成年の母と結ばれ結婚をした。その結果が僕の存在だ。だから僕は生まれ持っての犯罪者の子供なのだ。そう、僕は罪の子だ。そんな罪悪感が僕の中で次第に大きくなり、僕の空っぽの自我はたやすく罪の意識にその中心にとって変わっていった。その頃から僕の中心が罪の意識になった。それは今の僕を取り巻く環境からの僕なりの必死の現実逃避であったと思う。僕はこの罪を一生背負って生きていかねばならない。むしろ罪があるからこの環境下でも僕は僕として保っていられると思うようになっていた。この生まれ持っての罪があるからこそ、このような家に僕は生まれたのだ。そのように考えると罪の意識に苛まれることが僕のこの家の悲惨な現状からの唯一の現実逃避の方法となっていた。そして当たり前のように僕は性的なものをひどく嫌悪するようになった。


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