第4話 闇組織(自称)のRIの総長は部下のお守りがとても大変です。
「おもちゃ!おもちゃ!るんるるんるる〜!」
ライリーは早歩きほどのスピードでスキップをしながら移動する。
「これ…Vとかに使ってあげる予定だったのに…バイトして稼ぐしかねぇか…」
俺は肩を落とした。
なんせ財布の中身。
そこには予備の一万円と四千円。
予備の一万円はここぞ!という時まで使わないようにしているため、今使うことはできない。
そして、四千円。
これは多分、今日の食事代や晩御飯代で全て溶け切るだろう。
小銭が残っていれば良い方…ではあるが…どうせ予備の一万の500円くらいは削るだろうな…
まあ…別に良いんだけどさぁ…
「Vってのは…彼女さんの事?」
俺の顔を少し伺いながら、優男のイケメン面であり、銀髪の髪を備えている、カントウが訪ねてきた。
カントウは仲間のことを気にかける良い奴なんだけど…
ちょっとした気の弱さが唯一穴の、RIのメンバーだ。
それ以外に関しては完璧なんだけどな。
「ああ。そ。俺が愛して止まない彼女。それがVだ。」
「へー。確か、奏音…?って子と一緒の学校に通ってるんだよね…?確か名前は…」
「起眞市立高等学校」
「あ、それだ。」
偏差値71。
公立高なのに化け物級に偏差値がバカ高いこの学校は、一学年、7クラス。
全学年合わせたら21クラスもある、高校で、偏差値が高い上に倍率も今もずっと上昇傾向にあるらしい。
「そこってユミーも通ってるんだよね?奏音って子の事は知ってるの?」
「ああ。よく知ってるよ。Vの部活の後輩でさ。たまーに話したりするんだ。」
「その時ってどんな感じだった?」
どんな感じだった?
最近は話してないからよく覚えては居ないが…
「最近は普通の女の子って感じがあった気がする…別にそんな何かを抱えているオーラもなく…かといって、ビジョンがあったわけでもないし…」
「というと?」
「戦うって意思を感じられない…例えば、俺があった時に戦闘モードに入ったとしても、奏音にある選択肢は逃げるか、降参するとか?」
「降参するなんて選択肢の中に入ってるの?」
「まあ…もしかしたら…無いかもしれないか…でも実際降参されたらどうする?」
この場合…こいつの場合だと…
「そりゃあもちろん…仲間にとか…」
ま、そうだよな…優し過ぎるな…
でも、俺も仲間にするとか捕虜にするとか、そういう風になってしまうかもだが…
「RIとして、せめて一回くらいは信じてやらねぇとだもんね…」
「まあ…そうだな…」
でもタチが悪い奴は必ずどっかのタイミングで殺しに掛かるだろうな…
本当に信じていいのかどうしても疑ってしまう…
「それよりも、今日はどこに行くの?ショッピングセンターって言ってもさ、色々あるじゃん?」
そういえば、言ってなかったような気がする。
「えっとな…今日行くのは…あれだ!!」
そう言いつつ、俺は天空へと聳え立つ、ある一つの建物を指さした。
ちょうど、ビルの影から出てきたそれは、高さ132mの超巨大な建物。
ただでさえ高い建物が並ぶ中で一際目立っていたそれは、すぐにカントウも目を広げて、「あれ!?」と驚く。
「あれって…」
「起眞タワー。全長132mの高さのタワーで、大体の区は一番上の展望台から見えることができるっていうすごい奴だ!電波塔の役目も担っていて、ここ周辺のちょっとしたラジオとかはあそこから発信されている!そして、起眞タワーの真下にはショッピングセンターも備えてあって、ライリーの欲しいものがあるかもな。」
問題は、少し周りのイオンとかに比べると、フードコートが無いので、めちゃくちゃ昼ご飯の食費が馬鹿でかくなることだけだ。
でもまあ俺は仕方ないとに既に腹を決めているので、今日はしっかり食べて、今度バイトして稼げば良いだけだ!
「Vとのラブラブデートはまた今度かー…ああ…しゃーねーなー…」
Vと過ごす休日が遠のいて行くという絶望感でひしゃげそうだが…まあ…ライリーを怒りすぎたのも俺の所為だし…
仕方ないか…
くそ…
「あはは…どうせならお金…貸してあげようか…?」
「いや…大丈夫だ…これくらい…すぐに稼げる…」
「でも…ユミーって高校生でしょ?それなりに痛いんじゃ…」
「まあ…そうだけど…大丈夫だ…楽しみが遠くに伸びるだけだし…」
「ああ…そう…」
カントウは苦笑いをしてそう答えた…
デート…行きたかったぁ…あああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………………
「やっぱり貸そうか…?」
「いや…良いよ…大丈夫だ…」
「あ…そう…」
◇
「はわわ…!!!い、いっぱいある!!!!!」
目の前に広がる、着せ替え人形の入った箱が陳列された棚の数々。
異世界にきたかと思うほどに真っピンクなここは、えげつない数のおもちゃが並んでいた…
舐めていたかもしれない…
いいや…確実に舐めていた!!!
商店街にある玩具屋とは違うんだ!!!!
ここは専門の玩具屋…まずい…こんなに色々なものがあったら…
「はわわ…!!!!ねぇ!!見てきて良い!?見てきて良い!?」
「あー…わかったよ…良いよ…ちょっとベリアル…付いて行ってくれないか?」
「言われなくても俺は行くぞ?地球人はいちいちそういうのを気にする種族なのか?」
俺は絶望した顔で、フッと笑うと、「まさかぁ…?」と冗談気に言った。
「異星人ジョークだ。」
ベリアルも冗談だったようだ。
「そんじゃ、行こうかライリー!」
「うん!!えへへ〜どれにしよっかな〜」
あの異星人ロリコンが…
あ…でも俺もVコンではあるのか…
「どうする?僕たちもどこか回ってみる?」
そういえば…出口の方まで行けばエアガンがあったような…
行ってみようかな…
「ちょっと出口の方にエアガンとかあったような気がするから見てこようかな…」
「あ、僕ももしかしたら出口とかの方にポケカあるかもだし…見に行こうかな…」
カントウから久しぶりに聴いたな…ポケカとか…
俺たちは出口の方へ向かい、まず最初にカードゲーム売り場のラインナップを見ていた。
ちょっと歩けば出口のところまで来ると、俺たちは新しく並べられて全く見覚えのないカードパックを見る。
「最近、値上がりやら転売ヤーやらでまともに買えてなかったからな〜こうやってカードが売られてること自体がめちゃくちゃ久しぶりな感じするわ。」
最近の転売ヤーらは何故か転売するためだけに人気のカードゲームを買って、そして、転売が禁止されると一気にカードを買わなくなるのか…
まじで許せんな…
「そういえば…今日さ、学校行ったんだよね?」
「え?ああ…一応。」
「ユミーとVって子?どんな感じなの?その…学校での関係性というか…」
「え?学校での関係性…?」
学校の場合、Vがそこそこにモテてしまうからあまり目立たないようにはしているつもりだが…
「そういえば最近…異様にVが俺にベトベトしてる気がするな…」
「ゑ」
何故か眉を引き攣って驚いているカントウ。
お前なんちゅう顔してんねん…
「ユミーが一方的に溺愛してるとかじゃないんだね…」
「なんだそれ!?俺がめちゃくちゃキモい奴みたいじゃねぇか!!!」
「え?じゃあ…どうやっていっつもユミーはVさんに対してベトベトしてるの?」
「え?いやその…例えば…Vが、今日空が綺麗ですねって言ってきたら、Vの方が綺麗ですよ…って言う位…」
「あ…察し」
察しってなんだよ!?!?
前言撤回!!!
カントウが優しいとか言ったけど全然そんなことねぇぞ!?こいつ!?容赦ねえな!?
「あー…ちなみに聞くけど他には何かあるの…?」
「え?別に…Vが可愛かったら可愛いって言って、なんかちょっとえ…あの…その…えつちだったらえつちだね…って言葉にする位…」
「え…キモォ…」
「なんだてめぇ!?!?!?」
「いや…だって…彼氏にそのさ…自分のことを性的に見られてるって…それもう狙ってるとしか言いようがないじゃん…てかそれでVさんの方がベトベトしてるって何!?これ以上にやばいことあるの!?まさか…やること全部したとか…ないよね?」
しゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけないしゃべってはいけない
「え!?したん!?それっていつ!?」
「しゃべってはいけない…」
「怖!!!」
誰にも話さないってVと約束したから……
「ちなみに…良かった?」
ブフッ!!!
「あ…拙者もう卒業したでござるwww」
「え…キショ…それ今言うん?なんか、ユミーの気持ち悪いところが今見事に垣間見えた気がするんだけど…」
「それはもう、心地よかったでござるよwwwブフォwww」
「あ、ユミーが壊れた!!!!!やばいやばい!!!!とりあえず、殴るか!!!!!」
次の瞬間、頬に重たい痛みが伝わった。
「アアアアアアアアアアア…………………言わないって約束したのにィィィィィィィィィ………………俺は最低だァァァァァァァァァァ」
罪悪感で捻り潰されそう。
今度Vにあったらなんて言葉をかければ良いんだ!?
「ま、まぁ…誰にでも調子に乗ることはあるし…」
「でもあれが本心って言ったらお前手も足も出ねぇだろ!?」
「ウッ…まあ、そう言うこともあるよ…それで…卒業…したんだ?」
くそぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!
「ああ…はい…それはもう…濃密な夜を…」
「一旦黙ろう?過去のことを振り返って興奮するのはやめようね?気持ち悪い。」
「すいませんした…」
はあ…どうして言っちまったんだ…?
Vィィィィィィィィィ…………
「やっぱりなんか、Vとデートしたいな…」
「ユミー…もしかして…?」
「え?いやいやいやいやいや!!!!!!そんないやらしいことは考えてねぇよ!?でもさ…こう…流れて行くカップルとかを見てると、俺もVと一緒の時を過ごしたいな…って思ってさ…」
「そう…なんだね…」
流れいく人々の中には手と手を繋いで幸せそうな笑顔をお互いにし合って歩く人たちも居た。
「そういえば…奏音…大丈夫かな…」
ん!?奏音…?それって…
「聞こえたか…?」
「うん…今、はっきりと言っていたね。多分、方向的にあの白い髪の奴。」
どこかで見たことのあるような白い髪の男と、そして、男と腕を組みながら歩く緑色の髪をした少女。
「付いてみるか?」
「そうだね。そうしよう…」
少し離れた所で、二人の会話が続く。
「確か…右足切断だったよねぇ…」
「ああ…手術してそうしたらしいけど…今は起眞総合病院でしばらくリハビリするんだよな?奏音も置いていっちゃったけど…大丈夫…かな?」
「うーん…でもああ見えて奏音ちゃんて霧矢くんのこと案外大好きだからね〜大丈夫じゃない?それに、二人の空間にした方が、奏音ちゃんも泣きやすいでしょ」
「霧矢…奏音もそうだけど…大丈夫なんかな…」
「隆一くんはやっぱり心配なんだね…霧矢くんのこと…」
「そりゃあ…親友だしな…ま!でもあいつ、あの表情だし、特に気にしてなかっただろうけど。」
「え?りゅ、隆一くん…そんなので良いの…?」
「まあ、あいつのあの表情だ。多分大丈夫。長年の付き合いのおかげでなんとなくあいつの感情が手に取る様に分かる気がするんだよな。」
「そ、そうなんだね…」
「だから、心配しなくて大丈夫だ。それよりも俺らはデートを楽しもうぜ?」
「そ、そうだね〜!とりあえず、今日は一日楽しまなきゃ♡」
最近の若者は早いな〜…じゃなくて!!!!
「えっと…奏音って子には好きな人が居て…好きな人が病院に居ると…」
「これは…どうするべきなんだ…????」
多分…普通の悪役ならさぁ…よし!!病院へ攻め込もう!!!となるでしょうね…
ああああああああ…………こちとらそういう設定の悪役じゃねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
俺は猛烈に頭を爪で引っ掻きながら、考える…
「え…どうする?」
「え…どうしよう?」
こう言う時に即断即決できるやつすげぇーな…
「と、とりあえず、一旦戻ろうか…」
「そ…そうだな…」
「というわけでぇ〜!これ買って!」
ライリーがピンク色の一つの箱を必死に、自分の背丈よりも高い位置に上げる。
「これか…5000円…うーん…」
何が痛いって、5000円だと予備の一万円を消費して、そして更に食事代を含めると直ぐに無くなってしまう。
案外高い物を選びやがって…
「おいユミー。約束ってのは守らなければいけない。異星人の俺でもわかる世界…いや、宇宙共通ルールだ。それを破ろうというのなら、俺はお前の首を跳ね飛ばさなければいけない。」
何処の殺し屋だよ!!!!
誰もそんな事を言わねぇよ!!!!
「はぁ…こりゃあ今週は厳しぃなぁ…」
「また、もやし生活?」
「可能性は十二分にある…」
「うぉ…ほんとに?」
「でもだからと言って変に今暴れてもらわれるのも困るし…」
俺は、大きなため息を付くと、財布の中から一万円を出した。
「くっそ…この手は使いたくなかったが…」
「んふふ…!!!」
「良かったな、ライリー!」
「うん!前からこれ欲しかったの!!」
大事そうにピンク色の箱を抱えてぴょんぴょんと高くスキップしながら鼻歌を歌う。
本当にご機嫌そうだ。
「僕達も仕事できれば良いんとけど…」
「ま、まぁ…能力の関係上とか…生きづらいからな…」
「ああ。でも、これからそれを変えていくのが、俺等RIだろ?」
「そうそう!!私たちが楽しく暮らせる世界を作らなきゃね!!!」
俺達RIは悪役だ。
でも、自分で名乗っておいてなんだが、決して絶対的な悪役ではないと思う。
能力とか、環境とか、それで生きづらかっただけで、それを変えていくのが、多様性を作るのが、俺達RIだ。
「そんじゃあ、行くとしますか!!!」
俺たちは足を踏み出した。
ラーメン屋へ!!!!!!!
「そうだな〜。俺は醤油ラーメンにしようかなぁ〜」
「じゃあ、わたしわたし!!塩ラーメンにする」
「まあ、ライリーはそれしか食えないだろうからな。ちなみに地球では、醤油と塩はすでに食した。今後は何する?」
「僕的には味噌がおすすめかな〜」
「私は塩!!いつになっても塩が一番だよ〜!!!」
ライリーは本当にラーメンとなると塩しか頼まない。
まあ、それが彼女の本能的なものだとはわかっているのだが…
「それじゃあ、今回も俺は塩にしてみようと思う。地球人のラーメンはとても美味いからな。」
「やった〜!!!!」
「本当にそれで良いのかぁ〜?」
「ああ。ライリーが美味しいと言うものはきっと美味しいと俺は信じているからな。」
「そうなんだね…ははは…」
ライリーはただ、単にそれしか食わないだけだけどな…
「お持ちしましたー!塩ラーメン2つですー!」
笑顔の店員さんからお盆に乗せられた二つのラーメンが運ばれてくると、座敷の4人席に座っていた俺たちの席にラーメンの匂いが充満する。
「ありがとうございまーす…ってめっちゃうまそうだな…」
「この匂いはいつになっても腹の減る匂いだな。地球人はいつもこんなのを食べているのか。」
「良いでしょー!!!地球って!!」
「まあ、そうだな。こう言うのは羨ましい。俺の惑星にも欲しい技術だな。」
「じゃ、帰る手段と帰るためにまずは秩序保安委員会を潰さないとだな!!!UFOは必ず撃ち落とされちまうし。」
「この星の防衛技術はよく発展している。なかなか脱出は難しい。まずは友好条約を結んでいきたかった…」
少し物寂しそうな顔をしたベリアルを「大丈夫!!わかってくれればみんな優しくなるよ!!!」と太陽の様な笑顔で慰めたライリー。
「んん!!おいし〜!!」
「ははは…呑気だなぁ…」
異星人にそれ言われるのどうなんだ?と、思いながら俺はそんな何ごともなかったかのように美味しくラーメンを啜るライリー。
そしてまだ、何かを引きずったままのベリアル
まあ…仕方ないか…
そして、俺の席に運ばれたラーメンを俺は受け取ると、俺もベリアルや、ライリーの様に麺を一口、口にした。
「あ、うま!」
つい言葉が溢れてしまった俺は、「今度Vと行こっ」と思ったのであった。
「そういえばさ!!小林奏音の親友らしき奴が起眞総合病院に今入院していて、ちょうど人質にとっちまえばだいぶ戦況は揺るがえせるかもだけど…どうする?」
するとすぐにベリアルが、「一般人までを巻き込むつもりはない。よって、それは却下しよう。」
「えー!?な、なんで!?別に良いじゃん!!そんなこと!!!!」
「じゃあ逆にお前は死んだら嫌だろ?秩序保安委員会は多少の犠牲はもろともしない。今、人質を取ったとしてあいつらは人質ごと俺らを殺すぞ?それじゃあ、特に何にも変わらない。それにこっちだって作戦ってのがあるんだ。今はまだ準備期間ってところさ。でも、そう言うのがあるのは知っておいた方がいいと思うな。」
「自分で言ったくせによく喋る奴だな。ま、それの作戦上、やはり余計なことはしないほうが良いよな。」
ベリアルが、麺を口に含んだ状態で言った。
「まあ、これを言いたかっただけだし。」
「と言うわけで、今日は帰りにあのポイント3に設置しよう。前回のポイント2よりは人の通りが少ないはずだし。」
俺は地図を広げ、十時に交差する交差点を指した。
「ここに一つ。そんでここにも一つ。」
俺は商店街の一角を指さす。
「ここは?」
「ここは起眞中央商店街。そんで、あれを置くのはここ。」
俺は机いっぱいに広げた地図の一部を爪で叩く。
本当に商店街の端の端。
「ここだったら誰も商店街の中にいないから、被害は最小限にでき、そして、怪獣を出現させられる。まあ、統括していえば、良い感じの場所という訳だ。」
「そうだね。ここなら死者も出さずに秩序保安委員会への警告ができるね。」
俺は箸をラーメンの器の上に置くと、両手を合わせて、目を瞑りながら「ごちそうさまでした」と呟いた。
「そんじゃ、帰るか。」
「帰りにあそこよるの?その…」
あそこ?ああ…交差点のことか。
「もちろん。あそこに設置してタイマーをセットして、プランは実行される。ぱぱっとやってぱぱっと帰ろうぜ?ちょっともう疲れちまってな。」
「やったー!!!やっと開けられる〜!!!!」
「ライリー?家に帰ってから開けるんだぞ…?」
するとライリーは少し気分を落として「はーい…」と返事した。
________________________________________
「え?ちょっと待ってくれ…つまり…奏音はここに住み込みするってこと?」
「えっと…その…うん…」
私は頬が赤くなっていくのが感じながら言った。
本当の気持ちをちょっとだけ言うために、勇気を振り絞った。
「その…魔法少女の仕事…とかは?大丈夫なのか?」
「だ!大丈夫!!それに私…家に行っても一人だけだから…私は…ここにいた方が楽しいな…」
あああああああ………言ってしまった!!言ってしまった!!!!!
恥ずかしすぎるぅぅぅぅぅ
同居するなんて…普通にただのカップルじゃん!!!!
「そ、そうだな…ぎゃ、逆に良いの?」
「え?」
「いやさ…俺も…その…一人で寂しいからさ…お母さんとかも、多分…最近仕事が忙しくて見に来れないって言ってたからさ…多分、
霧矢くんは頭を掻いて、照れ隠しのつもりなのか窓の外を見ながら、
「その…俺も…一人だったから…奏音が居てくれると嬉しい…」
耳が赤くなっていることに私は気づかないまま、「ほんと!?やったー!!!!」とその場で一回だけ飛び跳ねて喜びを体に表そうしたけど、私はすぐに側に霧矢くんがいることに気づき、頬を熱くしながら、霧矢くんのベットの隣にある椅子に座った…
恥ずかしすぎて頭から煙が出そう…
「可愛よ…」
ん!!!!!!!!!!
今度は、確実にプシュー!!!と音を立てながら顔が赤くなった。
まるで汽車かのように蒸気が頭から出た私は、しばらく、霧矢君に可愛いって言われた!!!!!!!!という単語と、恥ずかしすぎる!!!!!と言う二つの言葉で頭の中が埋め尽くされた。
「奏音…大丈夫か…?」
「ふぇ…!?うん!!!だい…じょう…ぶ!!!!!」
だと思う…
恥ずかしすぎて死にそうだけど…
「と、と、とりあえずバイト行ってくるね!!!!!」
「もうそんな時間か…行ってらっしゃい!!」
霧矢くんは少し、寂しそうに手を振ると、私も病院の廊下から手を振る。
そして、廊下の扉を閉じて、バイト場、森崎喫茶へと向かった。
◇
「最近…怪獣多いよね〜」
「え?」
アズりんが言ったのはそんな一言。
アズりんが世間話をするなんて…なんか意外だな…
「そ、そうだねー…急にどうしたの?」
「いやさ〜、こんな不埒の世の中は何時になったら終わるのかな〜って。」
「そうだね…最近は特に怪獣の出現率が上がってるよね…」
「特に起眞市はえぐいよな…別に特に東京みたいにめちゃくちゃ人口があるわけでもないのに…」
「そうだよね…何かあるのかなぁ…」
とは言ったものの…
多分何かあると思う…
なんせトップヒーローのシャイニーが言っていたから…
人類に裏切り者がいる…かぁ…
私は森崎喫茶のカウンター席で、うつ伏せになってみる。
人類が人類を殺そうと企む人たち…いや、個人の可能性もあるのかなぁ…
「グアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「え?」
喫茶店に張り付けられていた窓ガラスが震え、地面から振動が伝わった。
「か、怪獣の声!?」
すぐに喫茶店の窓を開けて、私は外へと向かった。
そして、私に釣られて喫茶店の店主、森崎さんが、何今の!?とカウンターの中から問いかけてきた。
「か、怪獣ですね…」
「怪獣!?」
商店街の廃った店々の向こう側。
巨大なタコのような顔をした人型の巨大怪獣。
今までに出会ったことのないタイプの怪獣は、あたりの店をその頭についた長い触手で一掃する。
ドオオオオオオオオン!!!!!!!!!!
大きな衝撃音と共に響く怒号。
「グアアアアアアアア!!!!!!!!!」
まずい!!!!これって私がやらないと!!!!
森崎喫茶まで…来ちゃう!!!!!!
「行かないと…!!!!!」
私は森崎喫茶の中に、「皆さん!!!避難してください!!!!!怪獣が来るかもです!!!!」と声を響かせると、怪獣のいる方向に向かって走り始めた。
「か、奏音!?」
「奏音ちゃん!?」
その言葉を振り払って私は、森崎喫茶の出口から私のことが見えないように、角を曲がると、すぐに魔法のステッキを頭の上に掲げる。
そして魔法のステッキの先端が光り始めると、その光りが私の体を舐め回すように纏わり付く。
そして次の瞬間、私は一瞬でピンク色のひらひらとしたドレスを身に纏った。
このドレスは耐久性や、足の速度、そして、俊敏性などが向上すると言う副機能が備わっており私でも、元々は50m走が8.6秒だったけど、このドレスを纏うと、6.3と2秒も減らすことができた。
それにこのドレスを着ていると、何時まで経っても疲れることがなくなるので、とっても、便利。
本当は登校する時も使って見たいけど、身バレするからやめておいている。
「奏音!奏音!!」
バックの中から飛び出たレンレンは、私の名前を言いつつ
「あの怪獣のレベルは…20レベルだよ!!!!奏音なら余裕だね!!!」と喜びながら言った。
「そ…そうなのかな…」
若干の不安に纏われつつも、私は怪獣に向かって突き進む。
ドオオオオオオン!!!!!!!!
怪獣の触手が街を破壊していく音が商店街に響いた。
「まずいなぁ…」
私がそんなことを呟くと、今度は怪獣の鳴き声と、もう一つの何かの音が空を駆け巡った。
「グアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
ブオオオオオオオオオ!!!!!!!!
それは戦闘機が風を切るような音。
音のした方向。
私は空を見上げると、そこには一人の魔法少女のような人が、箒のような長い棒に跨りながら飛行機のように、空を滑空していく。
時速100キロ以上は出てそうな勢いで、飛んでいくその少女は、果敢にも大きな怪獣に向かって飛んで行った。
「あの人!魔法少女連合の人かな!?」
「ねえ!!まずいよ奏音!!!!」
「え!?なんで!?」
「さっきの人…」
と、レンレンが言いかけた所で黒い影が、私たちの方向へと向かって飛んできた。
「え!?」
黒い影は、商店街の店の一角に堕ちると、激しい衝突音を鳴らして廃れた店の一つを破壊した。
「あの人…レベル7だった…」
レンレンが言うと同時に私は破壊された店の一角の中を覗く。
そこには血だらけの一人の女性の姿。
「うぐ…」
私はお腹の中から出てきそうなものを無理矢理飲み込む。
これから行く所は遊び場ではなく戦場。
そのことを強制的にわからせる光景。
「奏音!!!!生きてるか確認しなきゃ…!!!!」
「あ!!!!!」
私はすぐに破壊された店の中に入ると、そこには全ての力が抜け落ち、そして目の瞳がピクリとも動かない女性。
胸に手を当ててみるが、鼓動はとっくに止まっていたようで、肌もすでに冷たくなっていた。
「死んでるみたい…だね…」
「この人…幸せだったのかな…」
「え?」
私の言葉にレンレンが言葉を漏らす。
「この人は…十分に生きていられたのかな…」
「………どうだろ…わからないけど…仕事中に死ねた…名誉あることって…捉えた方がこの人のためになるんじゃないかな…」
「そうなのかな…」
わからない…
この人が本当に満足の行く人生を歩めたのか…
それすらわからないけど…
「あの怪獣…絶対に倒さないと!!!!!」
私は再び、魔法のステッキを握り直した。
すると、私が初めて魔法を使えるようになった時のように、ステータスウィンドウが出現した。
「え…これって…」
そして、そのステータスウィンドウに刻まれた言葉を私は読む。
「レベル2…ホーミング機能追加…?」
「もしかしてそれって…!!!…あ!!!」
レンレンが何かに気づいたらしく、私はレンレンの向く方向へ、目を向けた途端。
バコォォォォォォォォン!!!!!
目の前には大きな触手。
そして、瓦礫の数々。
瓦礫のその向こうには、タコの怪物が私を見下ろしながら、立つ。
「死んだかも…」
唐突にそう思った。
何故なら、今、私は下半身が瓦礫によって挟まれているから。
圧迫される感覚と緊張感と、そして目の前に佇むタコの巨大怪物の絶望感。
怖さによって発生した震えが身体中を駆け巡った。
多分、頑張れば脱出はできるかもしれない。
でも、そんな時間はないだろうな…
なんて言ったって、目の前には怪獣がいるんだから…
ああ…こんなことだったら霧矢くんに想い伝えればよかった…
霧矢くんともっと一緒に過ごしたかった…
霧矢くんとキスしたかった…
どんどんと心残りが溢れてくる。
私…こんなにまだいっぱいやりたいことあるのに、ここで死んじゃうなんて…嫌な人生だったな…
何もできないような自分に飽き飽きしながら流す涙は最低に気持ちが悪い。
こんな気分で死なないとなんて…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!!
言い出せればキリがない。
だから、私は言葉を心の奥に押し込む。
感情のタンスに押し込む。
もう開けることはないだろうけど…
頬が濡れる感触の後、その涙を焼き焦がすように、タコの怪物は、私の顔を見るために、少しだけ、低い体制になって、壊れた店の外から、私のことを見る。
「グアアア………………」
目の前からタコの怪人の吐息が強風となって、私の肌を熱する。
まるでサウナに来ているように、熱い風を放ったタコ怪人は瓦礫の下敷きになった私のことをジロリと覗いた。
今になってはもう、魔法のステッキを怪獣に向けることすらできなさそうだ。
多分、もう、希望はない。
「奏音!!!まだ諦めないで!!!!ホーミング機能が付いたってステータスに書いてあったでしょ!!!!今ならどこに撃っても絶対当たるよ!!!!」
でも…もしかしたら…私はまだ生きていけるのかもしれない…
自分を信じたっていいじゃないか。
「そうだ…他の人ばかりじゃなくて…自分も守れない奴がヒーローとか…笑っちゃうよ!!!!!」
私は魔法のステッキを、精一杯、真上に向ける。
多分、この角度は絶対に当たらないと思う。
でも…
捨てるような可能性なんてないんだから!!!!!!
もしかしたら可能性があるのかもしれないから!!!!
信じてみれば、何かあるかもしれないから!!!!!!!!
「メルトシンギュラリティ!!!!!!!!!」
魔法のステッキから放たれた一つの魔法は打ち上げ花火のように、真上へと飛び、そして、一定の時間、空中を飛んだ後、真下に落ちるかのようにして、急に弧を描き、タコの怪獣の脳天を貫く。
貫かれたタコの怪獣は、右と左で真っ二つになり、そして、火葬をするかのように追撃で、真っ二つになった断面からクラスター爆発が起こった。
ドオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!
と轟音を響かせて怪獣はあたりに大量の血液を散らすと、見るまでもなく、怪獣は即死。
私はどうやら生き残れたらしい。
「や、やった…倒せた…やったぁ…」
今回は倒せた喜びよりも、疲れたという方がとても心に残っていた。
でも、この怪獣は、あることに気がつかせてくれた気がする。
毎日は平然と消える可能性があるということを。
__________________________________________________
「奏音ちゃんどこ言ったんだろ…って…ん?」
瓦礫の中に隠れていた物を取り出す。
「何これ…おもちゃの魔法のステッキ…かなぁ?」
なんでこんなところに?と、思いながらとりあえず持ち帰る。
森崎喫茶に被害が出なくてよかった…
と心から安心する。
魔法のステッキを握りながら。
タコ怪人MK2
死者:1名
怪我人:0名
戦死者:1名
似たような怪人が少し前に登場し、DNAなどの並びも似ていたため、このようなMK2と言ったようになった。
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