第14話
伊吹さんとご飯を食べに行ってから5日後、和真の野球の試合があり、見に行くことになっていた。
10時試合開始なので、早めに家を出ようと朝9時前に家を出る。
そろそろ行くか。
家を出るとゴミ袋を持った伊吹さんが居た。
「あ、おはよう」
「おはよう」
「朝早いね。バイト?」
「いや違う。和真の野球の大会の試合があるから見に行くんだけど来る?」
朝早く、寝起きで脳みそが働いて無い事もあり、何も考えずに伊吹さんを誘う。
「え?いいの?」
「うん。別にいいけど」
「じゃあ行こうかな。野球全く知らないけど、ちょっと気になるし」
「おっけー。じゃあここで待ってるわ」
いきなり誘ったので準備かかるだろうし、試合前の練習は見れないかな、と考えながら家の前でスマホをいじる。
何分経っただろうか?
そろそろかなと思った時「ごめん待たせて」と言ってドアが開いた。
タイミングすご。
部屋から出てきた伊吹さんは、白のパーカーにオーバーサイズ気味のジーンズといったコーデだ。
前回とは違うカジュアル全開のファッション。
それはそれで可愛い。
「準備早いね。忘れ物無い?」
「うん。大丈夫」
「なら行くか」
そう言うと俺たちは野球場に向かった。
野球場に着くと選手の声が聞こえてくる。
伊吹さんはその普段では感じない雰囲気に驚いている。
席は俺たちの学校のいる方に座りに行く。
すると同じ学校の人が多くて伊吹さんと一緒に居ることに視線を感じる。
ミスった。そこまで考えて無かった。
しかし逆側のスタンドは応援がしずらい。
「彩斗、お前伊吹さんと来たのか?」
席に向かって歩いてる途中、同じクラスの奴が近くに居て声をかけられる。
やっぱり聞いてくるよね。
周りに居る奴はその質問の答えに聞き耳を立ててる。
「違ぇよ。菜々美と伊吹さんが一緒に来てて、あいつ吹奏楽部だから俺が道案内してたんだよ」
「なんだよ。ビビらせやがって」
俺がそう言うと周りの視線も柔らかくなる。
その代わり1人だけ俺への視線が痛くなるが。
俺はそれに気づかない振りをして席に座る。
「適当言っちゃって」
伊吹さんは小言を言って席に座る。
15分程経つと選手がグランドに出で来て試合が始まる。
試合が始まると、スタンドから吹奏楽部の応援が始まり、球場の雰囲気が大きく変わる。
「すごい。野球場ってこんな地面が揺れる感じになるんだ」
「テンション上がってきた」
もう季節は春なこともあり、気温も23度と温かく、体の温度も上がるのを感じる。
俺たち学校は守備からで和真もグランドに居る。
「あれが上内さん?」
伊吹さんが指をさして伝えてくる。
「そうだよ。あそこはショートって言って、野球で1番かっこいいポジションだな」
「へぇー。上内さんって凄いんだ」と伊吹さんが関心している。
「池田くんって野球詳しいの?」
「いや。やった事はほぼ無くて、テレビでたまに見てるくらいかな」
「じゃあ私より詳しい。解説よろしく」
伊吹さんは無意識下にテンションが上がっていて、元気よくお願いしてくる。
やめてくれ。周りの視線が怖い。
「て言ってもそんな詳しい訳じゃないからな。期待するなよ」
試合開始から45分。
試合展開は両者譲らない2対2で5回の裏で俺たちの学校の攻撃だ。
「え?違う人が真ん中の所行ったよ。なんで?」
「あれはピッチャー交代で…背番号は1番だから、1番いい選手が投げるってことだな」
「じゃあそれは結構ピンチって事よね」
「点を取るのはさっきより難しくなるかもな」
相手のエースが出てきたことによって俺たちの学校は無得点で終わってしまう。
「140kmか」
俺がボソッと呟くと「140?ってなに?」と伊吹さんが聞いてる。
「えっとね。相手エースが投げる球のスピードが速いから驚いて」
「そんなに速いの?」
「普通130kmも出てたら、普通の学校じゃあエースなんだけど、140は全国でエースレベルの速さだな」
そう言うと伊吹さんは「そう。でもだ、大丈夫よ」とグランドに目を戻した。
だが結果的大丈夫では無くお互いの攻撃残り1回になった。
点数は変わらず2対2だけど、最初から投げてる俺たちの方のピッチャーは明らかに疲れを見せていた。
その結果ピンチなってしまった。
ツーアウト2.3塁。
「これって結構まずいよね」
「まずい。相当まずい。でも後1つアウト取ればいいから何とかなる」
相手バッターは、今日1本もヒットを打てていないので、こっちに分があると言ってもいい。
一進一退の攻防が続く中、バッターが5球目を打つ。
金属音と共に和真の守るショートにボールが飛んだ。
その瞬間アウトと確信したスタンドから「よし!」と言う声が上がる。
和真はその打球をしっかりと捕球してファーストに投げる。
ファーストにしっかりとボールを投げれればアウトになる。
だが和真の投げたボールはファーストの頭を超えてしまった。
その瞬間スタンドから「あ!」と言う声が響く。
電光掲示板に「E」エラーの1文字とともに相手チームに2点が入ってしまった。
何とか次のバッターをアウトにして、俺たちの学校の最後の攻撃。
ベンチ前で円陣を組み、気合いを入れている。
「これってこの回で最低2点取らないと負けるってことよね?」
「その通りだ。だからまだ諦めるには早い」
俺がそう言うと、伊吹さんは両手を合わせて願うように試合を見始める
しかしチャンスは作ったものの、和真が三振をしてゲームセットとなった。
その瞬間和真は膝から崩れ落ち、目には涙を浮かべていた。
和真たちは野球部で学校に戻ったので、何とも重苦しい雰囲気の中球場を後にする俺たち。特に会話はなく駅まで着く。
だが流石に何も会話しないのもアレなので伊吹さんに話しかける。
「どうだった球場に来て」
「うん。すごく良かった。少し野球に興味出たかも。でも…」
「なら良かった今度機会があれば誘うわ」
「うん。…楽しみにしてる」
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