後半戦

第26話

 紋黄町もんきちょうの『COMMAコンマ』仮面バトラー事業部。

「おっはようございまーす!」

「おはようございます」

 望月勝利と勝風しょうぶがふたり揃って出社してきた。先輩にあたる鶴見つるみこまちはすでにデスクについている。

「おはよう望月兄弟!」

 小灰町しじみちょうの『Quoteクオート』の再建にはまだ時間がかかるようで、リベロ部隊チームは仮面バトラー事業部にて預かることとなった。すなわち、隊長の下鴨しもがもに、勝風、川鵜かわう鳩山はとやまの四人が仮面バトラー事業部には(一時的ではあるが)加入している。鷲崎わしざきタクトが立案し、お嬢様のイーグレットと仮面バトラーフォワードの変身者の勝利、さらには第二営業部のこまちという四人のスターティングメンバーで始まった仮面バトラー事業部だが、リベロ部隊のメンバーが集まって総勢八人とずいぶん賑やかになった。怪人アイコンの出現にいち早く対応できるようになり、評価も鰻登りだ。

 ということなので、求人サイトでの新メンバーの募集は取りやめている。また知川ともかわ朱未あけみのような秘密結社『apostropheアポストロフィー』寄りの人間に応募されて、クオートに続いてコンマまで襲撃されるわけにはいかない。紋黄町の平和はコンマが守る。

「今日はA班とB班に分かれて、紋黄町内でティッシュ配りをするわよ!」

 ヒーローショーは好評につき、隔週日曜日に十一時と十四時の二回の公演がおこなわれていた。初回公演はこまちが脚本を書き上げたが、二回目からは学生時代は演劇部だったという下鴨の知り合いが参加するようになって演出面は大幅にパワーアップし、観客を沸かせている。

「フォワードとリベロ?」

 ティッシュにはそのサイズに合わせた小さなポスターが挟まっていた。サムライブルーの執事バトラー、仮面バトラーフォワードと黒い執事の仮面バトラーリベロのイラストである。

「鳩山くんが描いてくれました!」

「へー! すごい! めっちゃ上手!」

「鳩山は絵の勉強をしていたのか?」

「いやいやいや。趣味で、マンガやアニメのキャラを描いていただけで、専門で勉強してきたわけでは、ないです」

「これだけ描けるんなら大したもんやで。趣味やのうて、業務としてきちんとせなあかんよ。なあ。こまっちゃん、はとぽっぽにちゃあんと使用料は支払ったん?」

「そういうのはタクトの仕事よね?」

「え、……はとぽっぽ? 鳩山だから?」

 A班はこまち、勝利、タクトの三名。

 B班は勝風、川鵜、鳩山の三名。

 で分かれるようだ。ホワイトボードに書かれている。配布エリアはA班が紋黄町の駅のロータリーが中心。B班が紋黄高校の周辺となっていた。

「どちらが先に配り終えるか、競争するわよ!」

「おー!」

「もちろん、アポストロフィーの怪人が出てきたらそちらを優先で。すぐに連絡すること!」

「りょうかい!」

「下鴨さんは?」

 名前が上がらなかった下鴨は「鳶田社長から頼まれごとがあってな」とアタッシュケースを叩いて見せた。

 リベロ部隊の責任者である夜長は、クオートの社長が本職である。クオートの小灰町のビルがなくなってから、退院したのちに関係先を飛び回っていて、以前に増して忙しい日々を送っていた。

「では、さっそくゴーゴー!」

「の、前に。ショーブ、ちょっとええか?」

「ん?」

 タクトが手招きして、勝風を呼び寄せ、ふたりで仮面バトラー事業部の扉の外へ出る。扉を閉めてから、タクトは勝風に問いかけた。

「なんかと思わん?」

「オレが?」

「ちゃうちゃう。や。あの子、前まではあんまり戦いには乗り気やなかったのに、ここんところは妙に張り切っとるっていうか。兄から見て、どうや」

「いいことじゃないか。何もおかしくはない」

「ウチらとしては戦ってくれるに越したことはないんやけども、なんか気になるんよね。心境の変化?」

「仮面バトラーとして、アポストロフィーの怪人を全て倒す。その使命に目覚めたというのなら、オレたちは歓迎すべきだろう」

「うーん……まあ、ウチの考えすぎかな……」

「それほど気になるのなら、勝利に直接聞けばいい。何故オレに聞く?」

「せやな。あとで聞いてみるわ。同じ班やしな」


 *


 A班の三人と下鴨は、タクトの運転する車で駅前にやってきた。下鴨はここから電車に乗り、夜長のもとへと向かう。

「いってらっしゃーい!」

「お見送り、ありがとう。行ってくる」

 敬礼する下鴨に、三人は敬礼で返した。その姿が改札を通って、駅のホームへと進んでいくのを見送ってから、街路樹の根元に段ボールを置く。

「さて、やったりますか!」

「やったろう!」

 段ボールからティッシュを三個ずつ掴み取り、気合いを入れるこまちと勝利。タクトもふたりとおなじく、いざティッシュ配りを始めようとティッシュを拾い上げた。

「地道な草の根活動、ってところ?」

 聞き覚えのある声だ。久しぶりではあるが、忘れてはいない。

「あっ」

「ああ!」

 知川朱未だ。この間の面接時とは違い、オーバーサイズのダウンジャケットにカーゴパンツという出で立ちである。

「おお、朱未くんやないか。会いに行ったんやけど、留守やったなあ?」

 タクトは胸ポケットから指揮棒を取り出した。いつでもムジカドライバーを呼び出せる。

「今日の俺は鶴見センパイに用事があるんです」

「わたし?」

「鶴見センパイ、?」

「……はい?」

 お嬢様。それは、アポストロフィーが探し回っている存在。それは、こまちでも知っている。

「俺と鶴見センパイで、仮面バトラーとお嬢様。いいでしょう?」

「何を言うとんの」

「運命のあかい糸でつながっているんです。そうは思いませんか?」

 朱未の手には二つのブレスレットがあった。これは、フォワードベルト、リベロヴァルカン、ムジカドライバーに続く、第四の変身アイテム。

「現在のアポストロフィーに足りないのは仮面バトラーに対抗できる戦力。仮面バトラーと互角に渡り合うために、。そして、仮面バトラーを、仮面バトラーとして成立させるには、お嬢様が必要なんです」

 そのブレスレットのうちの一つをこまちの右腕に装着し、もう一つを朱未自身の左腕に装着した。それから、ブレスレットに右手をかざす。

変身エボリューション

 磁場の歪み。朱未を中心として天から円柱状に降り注ぐクモの糸。縦糸と横糸が組み合わさり、ネットを紡ぎ上げて、一人の仮面バトラーが現れる。


「仮面バトラー、

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