第24話

 紋黄町もんきちょうのてしがわら遊園地は、秘密結社『apostropheアポストロフィー』の怪人アイコンによって破壊されてしまい、いまは復旧工事の真っ最中だ。鶴見つるみこまちは『COMMAコンマ』の第二営業部でつちかった人脈を活用し、仮面バトラー事業部として“ヒーローショー”を開催する。


「オレが怪人役?」


 仮設ステージの舞台裏。勝風しょうぶはこまちから着ぐるみを押しつけられた。


「そうよ。仮面バトラーリベロは、川鵜かわうさんにも演じてもらえるしね」

「自分にお任せあれ」


 仮面バトラー事業部を世に知らしめるための営業活動である。本来は仮面バトラーフォワードが出演する予定だった。しかし、フォワードの変身者である勝利が欠席となると、役どころをスライドするしかない。仮面バトラーフォワードに変身できるのは勝利だけだ。フォワードベルトも勝利の手元にある。


「フォワードとリベロのダブルヒーローでいこうと思っていたんだけど、フォワードが来られないとなるとね」


 急遽台本が書き換えられた。川鵜の変身するリベロと鷲崎わしざきタクトの変身するマエストロが並び立つことになる。本来はタクトが怪人役を演じる予定だった。


「変身して中に入ればケガはせんやろ」


 仮面バトラーへの変身後の耐久値は、アポストロフィーの幹部怪人であるオクタンの襲撃を軽傷で済ませる程度。勝風の変身する仮面バトラーシステムバージョン4に換装した仮面バトラーリベロであれば、必殺技を受け止める程度ならできる。


「本気で殴らないよな?」

「さて、どうやろか。こういうのは手加減すると演技やってバレそうやし」

「やめてくれよ!」

「と、ショーブは言っとるけど、しおりんはどう?」

「しおりんとは自分のことか?」


 普段からポーカーフェイスなしおりんこと川鵜しおりが、驚いた顔になった。同僚からあだ名で呼ばれた経験はない。


「せやで。一時的な措置とはいえ、しおりんも仮面バトラー事業部の一員やから。仲良くしような」

「う、うむ」

「どした? しおりんがイヤなら、別のを考える」

「いいや。なんだかな。イヤなわけではない」

「そかそか。アポストロフィーとの戦いが激化していくとしたら、リベロ部隊チームと共闘するシーンも増えるやろ。戦いの中で連携が取れるように練習しとくんは、お互いにとってメリットがある」

「うむ。よろしく頼む」


 これまではコンマの仮面バトラー事業部が隣町の小灰町しじみちょうの『Quoteクオート』に出向いて、建物内にある訓練場を借りていた。オクタンの襲撃によってクオートのビルが半壊してしまったため、同じ場所はしばらく使えない。これからのアポストロフィーとの戦いは、コンマの仮面バトラー事業部が作戦司令部となる。


 ただし、コンマでは仮面バトラーの存在を機密事項としていたため、コンマの敷地内に訓練場がない。今回のヒーローショーを開催した理由としては、仮面バトラーたちの訓練地の確保のためでもある。アポストロフィーの生み出す怪人から市民の平和を守る者としての“仮面バトラー”を、印象づけなければならない。


「あーあ、わたしも変身したいなあー」


 ヒーローショーでは司会進行役を担当するこまちが、台本を片手にぼやいた。仮面バトラー事業部に関わってはいるが、変身アイテムを預けられてはいない。


「こまっちゃんは戦わなくてええんよ」

「えー、そう? わたし、自分で言うのもなのだけど、と思うの」

「せやなあ……」


 こまちの自信は、幼い頃から実家の道場で鍛えられたところから来ていた。タクトはこまちとは長い付き合いであり、その道場に通っていた時期もあるため、こまちがだとは知っている。


「わたしにもし何かあったら、タクトが何か言われるんじゃないか、って?」


 顔見知りであり、文句を言いやすい間柄でもある。こまちの予想は当たっていた。


「言わんといたほうがええのかもしれんけど、言うわ。こまっちゃんが仮面バトラー事業部に所属している、ってだけでもウチにクレームが来とるんよ。娘を巻き込むなと」

「もう。過保護なんだから……」


 こまちの視線の先にはしおりがいる。しおりは、リベロヴァルカンを丁寧に磨いていて、こちらの会話には気付いていない様子だ。


「今回のヒーローショーは、こまっちゃんの発案やんか。仮面バトラー事業部のために動いてくれるのは、ウチらの助けになっとるで」

「本当? 朱未あけみくんを招き入れちゃったのは、わたしのミスにはならない?」

「ミスとは言わんやろ。朱未くんがこまっちゃんの作ってくれたサイトだったり、求人広告だったりに食いついてくれたから、幹部クラスと戦えたのもあるし、あのトンボ型怪人は初めて見たし。打倒アポストロフィーにぐっと前進や。相手も焦っとるっていうのがわかった」

「ありがと、タクト」


 なお、仮面バトラーリベロに変身した勝風は更衣室での着替えに手間取っている。怪人のコスチュームだが、背中のファスナーが上がらない。


「おーい! おい! 誰か手伝ってくれー!」


 何度も挑戦したのちに、助けを呼んだ。ヒーローショーの開演まで、あと一時間。

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