第18話 Bパート

 仮面バトラーシステムバージョン4と違い、秘密結社『apostropheアポストロフィー』が作り出したトランスフォームシステムには瞬間移動の機能はついていない。オクタンは目くらましをばらまいてから『Quoteクオート』の階段へと逃げ込んだ。


(てか、強くね?)


 反省しながら階段を降りる。クオートに乗り込んでから出てきた二体のリベロ、そのあとに女性が変身したリベロ、ここまではそこまで強さを感じなかった。しかし、フォワードとともに現れたリベロは、ほかのリベロとは違う。


(あぽ側、このままだとやう゛ぁくね?)


 アポストロフィーの幹部クラスにだけ配られる腕時計をしげしげと眺めた。この腕時計は、アポストロフィーの首領から受け取ったものである。


(とりま、朱未あけみっちにほうれんそうしよ)


 オクタンがポケットから携帯電話を取り出し、知川ともかわ朱未へとメールを送ろうとする。報告、連絡、相談でほうれんそうだ。


「こんなところにかわいいお嬢さんが」

「んにゃ?」


 携帯電話の小さな画面に集中していて気付けなかったが、下から上がってくる人影があった。オクタンを倒すべく川鵜かわうに加勢しにいった望月兄弟とは別行動で、鶴見つるみこまちとふたりでリベロ部隊チームの待機所フロアに向かった鷲崎わしざきタクトである。


「クオートの社員さんやないな?」


 こまちは倒れている鳶田とびた夜長よながを発見し、現在、手当てをしている。タクトは「医務室に行って、使えそうなもんを探してくるで。救急車も呼ばなあかんし」と言ってその場を離れた。


「おっさんは何?」

「ウチ、まだおっさんって年齢やないで」

「じゃあ、はクオートの人系?」

「ウチもクオートの人ちゃうな。ウチは『COMMAコンマ』ってところの副社長やってん」


 コンマ、という単語にオクタンは目を光らせた。朱未から聞いたばかりだ。


「仮面バトラー事業部の?」

「よう知っとるね?」

「友だちがバイトの面接を受けて、受かるかわかんないって言ってたとこ」

「ふーん?」


 タクトは上着のポケットから指揮棒を取り出す。いつかくるのために、しのばせていたものだ。もしオクタンが攻撃行動を取ろうものなら、タクトも対処しなければならない。そのために、指揮棒が必要になる。


「その友だちって、知川朱未のことやないの?」

「そそ!」

「友だちとして、朱未くんについて詳しく聞かせてもらえんかな?」

「それはちょっと待っち。朱未っちにどこまでを話していいか聞いてからで」


 オクタンは朱未に電話をかけようとしている。その行動を、タクトは逐一観察していた。勝風しょうぶの話が正しければ、この少女は秘密結社『apostropheアポストロフィー』の怪人のはずだ。見た目にはそうは見えない。


「話したらあかんことがあるんか」

「誰にでもヒミツにしたいことってあるじゃん? 朱未っちとのヒミツを、副シャッチョさんに話していいのかは、朱未っちに聞いてみないと」

「たとえば、怪人になったっていうの話やな?」


 タクトがカマをかけると、オクタンの背中から触手が伸びた。タクトの背後の壁に穴を作る。


「朱未っちが話してた?」

「他に誰から聞くん?」

「――あっ、もしもし、朱未っち?」


 電話がつながったらしい。タクトは、宙を漂っている触手を見た。小さめの吸盤が二列に並んでいる。


「今さ、偶然、コンマの副シャッチョさんに会ってね。友だち目線で朱未っちのことどう? って聞かれててさぁ」


 怪人になった身内だけでなく、怪人の友人がいる青年。知川朱未。趣味は怪人を撮影することだったが、最近は仮面バトラーの存在にも注目していて、そのキッカケで仮面バトラー事業部の面接に来た男。


『今どこ?』

「えっと、クオートの、階段? 階段っぽいところ!」


 揚羽あげは大学の薬学部を休学中だが、薬学部に入学する前から研究棟を無断で出入りしていた。これがその、怪人となってしまったおじさんを治すためなのか、だとすると怪人となってしまった時期はいつになるのか。


『リベロとフォワードは?』

「ヤツらガチでやばくて、いったん逃げたんよね。作戦練り直してもう一度ゴー」

『……近くに鷲崎氏がいるんだよな?』

「いるいる。代わろっか?」

『鷲崎氏は、オマエが怪人だって知らないはず』

「さっきうっかり触手出しちゃった。てへ」


 ため息が聞こえてきた。クオート襲撃の時点で想像できる展開ではあったが、それにしても最悪の出目である。


『代わってもらっていい?』

「おっけー」


 オクタンはラインストーンでデコレーションされた携帯電話を、タクトに手渡そうとする。まだ通話中の画面を見て、タクトが戸惑った。


「ウチが話してええの?」

「もち!」

「……もしもし?」

『どうもです。先ほどは面接ありがとうございました、朱未です』


 面接があったのは今日の午前中の話だ。そこから、クオートまで来ている。


「あんたの周りは、怪人だらけやんな」

『そうですね。俺は怪人を人間に戻したいので、自然とそうなるといいますか』

「アポストロフィーのことは、どこまで知っとるん?」


 気になる点を直球で訊ねる。いまだに所在地のわからない敵。拠点さえつぶせれば、アポストロフィーも壊滅まで追い込めるはずだ。


『詳しいお話は、俺の家でしませんか? 家に来てもらえれば、おじさんにも会わせてあげられますし』

「行ってええんか?」

『いいですよ。俺も仮面バトラーコンダクターの話を聞きたいですしね。謎に包まれたムジカ杯の概要も気になります』

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