第13話 Aパート
ハリネズミ型
「あぶなっ!」
直撃していたら大けがを負うところだった。フォワードは突き刺さった針をつまんで、盾から引き抜く。鋭利な先端は、注射針を想起させた。
「不意打ちはよくないよ!」
『どの口が言うか……』
怪人に指さすフォワードと、冷ややかにぼそりとつっこむゴート。勝利の兄、
「君もハリネズミになろうよー。おともだちになろー?」
フォワードは、ハリネズミ型怪人を無害なものと考えていた。しかし、相手から攻撃されてしまっては話が変わってくる。
『ふむ。交渉決裂』
右肩から背中側にぶら下がっていたゴートが、右肩によじ登る。針の攻撃を恐れて、フォワードを“盾”にした形である。
「いけそうな気がしたんだけどな……」
『わしは最初から難しいと思っとったよ』
「はいはい」
ハリネズミ型怪人に向かって、盾をスイングして投げつける。フォワードはハリネズミにはならない。仮面バトラーとして、お嬢様をお守りしていかなくてはならない義務がある。
「のわっ」
盾によるダメージを受けてのけぞる怪人。フォワードは怪人のゴールネットを探し、右肩の部分に見つけた。
「よし」
ボールを銃に切り替えて、その小さなゴールネットを狙う。サッカー部での経験から、ボールをゴールに蹴り入れるのは得意でも、射撃はまだ素人レベルだ。
仮面バトラー事業部の設立により『
『今じゃ!』
「とりゃっ!」
引き金を引いて、ハリネズミ型怪人のゴールにシンボリックエナジーのボールをシュートさせる。許容量を超過したシンボリックエナジーは怪人のトランスフォームシステムを暴走させてしまうので、程なくしてハリネズミ型怪人は爆散した。
「ありゃあ……」
砂場の向こう側、遊具のほうから男の声がする。その声は、変身前であれば聞き取れなかっただろう。仮面バトラーに変身すると、聴覚が上がる。
「だれかいるの?」
変身は解かずに、そろりそろりと遊具に近付いていった。ゴートもその首をのばして様子をうかがう。
「こっ、こんにちは!」
遊具の後ろから現れたのは、黒いデジタル一眼レフカメラを首から提げた青年。勝利よりも背丈は低い。
「あの、俺、別に怪しい者ではなくて」
上着のポケットをがさごそと漁ってから、身分を証明するものが見つからなかったようで、今度はショルダーバッグのポケットに手をつっこむ青年。目当てのものを引っ張り出して、水戸黄門の印籠さながら、フォワードから見えやすい位置に掲げる。
「
「学生さん! しかも、頭のいいところ! 薬学部ってことは、薬剤師さんを目指しているの?」
「家の事情で休学中なんですけど……」
勝利は三月まで
「俺、怪人が好きで、目撃情報があるといてもたってもいられなくて、こうやってカメラ持って、撮りに行っちゃうんですよねっ」
一方、朱未はフォワードの中身を知らない。学生証をショルダーバッグにしまいながら、敬語で語り出す。
「最近、あなたみたいな執事服の人が怪人とよく戦っているのを見かけていて、気になっていたんです」
「ボクみたいな……?」
「あっ、えっと、写真があるので、見せますね」
ショルダーバッグからB5サイズのミニアルバムを取り出した。カメラで撮影し、現像したものだ。
「これですこれこれ」
「リベロだ」
黒い
「へえ、リベロって言うんですね?」
「そうそう。仮面バトラーリベロ」
「仮面、バトラー」
初めて聞いた言葉ではないが、朱未は復唱した。これから戦っていかなければならない敵の名称だ。
「青いあなたは?」
「ボク? ボクは、仮面バトラーフォワード。写真、見せてくれてありがとう」
フォワードと名乗りつつ、写真のお礼を添える。フォワードの写真がないのは、お嬢様が怪人の目撃情報を消去するようにして【復元】しているからだろうか、と考えながら。
「いえいえ。どういたしまして」
心の底からの感謝だった。これまでは『赤いの』だとか『青いの』だとか『黒いの』だとか、それぞれの色で識別していたが、今度からは正式名称で呼べる。
「怪人が好きで撮影を始めたんですが、かめんばとらーが怪人と戦っているのを撮影してから、すっかりかめんばとらーのファンなんですよね。フォワードさん、もしよかったら、もっと話を聞かせてほしいです!」
朱未は、前半でウソをついた。後半の、話を聞かせてほしいのは本心からである。
『かまうな』
フォワードの右肩で静観していたゴートが、フォワードにだけ聞こえるように言った。ゴートのシンボリックエナジーが、危険信号を明滅させている。
「えっ?」
『こやつ、怪しい』
「そんな。仮面バトラーのファンって言ってくれているのに?」
「お仕事の邪魔でしたら、またの機会で! あっ、連絡先渡しておきますねっ!」
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