第12話 Aパート
ピーター・パーカー、否、
「ただいま!」
黒いデジタル一眼レフカメラを首から提げて、ハミングしながら廊下を渡った。カギを回して、勢いよく住処の扉を開ける。
2LDKの一部屋からクモ型
「大収穫だぜ、叔父さん!」
一度『apostrophe』のトランスフォームシステムによって怪人となってしまった者は、二度と人間の姿には戻れない。朱未とかつての叔父、そして、叔父の元妻と三人で写っている写真が飾られている。
「黒い仮面バトラーは『
幼い頃に両親を亡くした朱未は、この叔父の家に引き取られた。我が子のように育てられ、大学へ進学する。
「クオートか。青い仮面バトラーも、クオートが作り出したものだろうか」
叔父は八本の腕のうちの二本を組んで、人間が思案するときのようなポーズをとる。叔父がクモ型怪人となったのは、去年の話だ。アポストロフィーの名が世に知らしめられたのは
「わからない。青い仮面バトラーは、いつも青い仮面バトラーの姿で、突然現れるんだぜ」
朱未はカメラをパソコンに接続し、先ほど撮ってきた写真をモニターに表示する。ゲーミングチェアーにどっかりと座った。
「ほら、これ」
「クオートのロゴだぜ?」
ブラウザを起動し、クオートのサイトを開いた。トップページにあるクオートのエンブレムの画像と照合する。
「あの大企業が、仮面バトラーを作るとは」
叔父が目をぱちくりとさせた。ショッピングモールにて、赤い仮面バトラーとは戦っている。
「赤い仮面バトラーは、さしずめ“
「いいや、赤い仮面バトラーからはシンボリックエナジーを感じなかった。仮面バトラーシステムバージョン3で作り出された仮面バトラーだ」
朱未は、参考までに赤い仮面バトラーの写真を並べた。同じ仮面バトラーではあるが、よくよく見るとデザインが異なっている。
「あっ」
赤い仮面バトラーの腰回りを拡大した。赤い仮面バトラーには、ベルトがある。そのベルトから指揮棒を取り出して、振りかざしていた。
「黒い仮面バトラーには、ベルトがない」
黒い仮面バトラーの腰回りも拡大する。赤い仮面バトラーにはスピーカーのような意匠の留め具のベルトが巻かれているが、黒い仮面バトラーにはない。
「青い仮面バトラーには、……ある」
サッカーボールのくっついた、ゴテゴテのデザインのベルト。朱未は首を傾げる。
「仮面バトラーシステムについて、復習しておこう」
いったんデスクトップに戻り、 別のファイルを開いた。かつて存在していた仮面バトラーの、ベルトの画像を並べる。
「この“ベルト”は、装着者の体内にある任意のエネルギーを“仮面バトラー”の鎧に変換している。仮面バトラーシステムバージョン3は、生命体に流れる
仮面バトラーと呼ばれているヒーローたちは、例外なくベルトを装着している。デザインこそ違えど、腰に巻かれているアクセサリーだ。
「なら、この黒い仮面バトラーは仮面バトラーではない?」
叔父が右腕のひとつを伸ばして、その先端でモニターをちょんちょんとつつく。仮面バトラーにベルトが必須のアイテムだとすれば、ベルトを装着していない黒い仮面バトラーは仮面バトラーとは言えなくなる。
「仮面バトラーシステムバージョン4とはまた違うシステムを、クオートが開発したのかも。黒い仮面バトラーは、あのでかい銃がないと変身できないっぽいし、あのでかい銃でベルトと同じような対怪人性能を発揮するのだとすれば、厄介だぜ」
歴代の仮面バトラーのベルトの画像を閉じて、川鵜が勝風にリベロヴァルカンを手渡したシーンを表示させた。さらに、求人サイトを開く。
「どうにかして、クオートの内部に潜入できないか。バイトとか、インターンとか。俺、気になる」
朱未は検索欄に『Quote』と入力する。それから、検索ボタンをぽちっと押したタイミングで、知川家の電話が鳴った。
「誰だよ」
悪態をつきながら、ゲーミングチェアーから立ち上がった。受話器を取る。
「もしもし、知川ですけど?」
『スパイダー』
朱未をそう呼ぶのは、アポストロフィーのメンバーだけ。電話口の低くくぐもった声の主の顔を思い浮かべつつ、朱未は「はい。ご用件をどうぞ」と機械的に応じる。
『ヘッジホッグが仮面バトラーに接敵した。座標を端末に送る』
朱未の腕時計からぴぴっ、という電子音が発せられた。この腕時計はアポストロフィーの技術者が製作し、アポストロフィーの幹部クラスのメンバーが所持している。文字盤をタップし、紋黄町の地図に切り替えた。
「青いの? 黒いの? それとも、赤いの?」
『ヘッジホッグからの報告が途切れている』
「自分で確認しに行け、ってことね。いいぜ」
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