わたしが・書いた・詩

静谷 清

哀れみやう我らの下へ

哀れみやう我らの下へ、降り注いで来たのです。


事実は空白よりも奇なり。


降り注いだ朱鷺トキに似た雨粒が


我らを襲いかかり


締めつけ


踏みつけ


ようやく腐乱した屍のうえに


築いた苦しみが、何処までもいるのです。




哀れみやう我らの下へ、降り注いで来たのです。


初めては恐ろしく、楽しいものです。


隣の家に住む


若い親子は


降り注いだ夏を


怖がっていたのですが


いつの間にやら慣れたようです。


信じがたい目で見ていた子どもも


今日はキラキラしています。




哀れみやう我らの下へ、降り注いで来たのです。


トイレの壁は湿っていて


端によった罪悪が


虚構の中へ逃げ込む音で


我らはようやく気づいたのです。


今日も、雨が降って


止んで


降って


止んで


その繰り返しだと。


苦しみが襲ってきたら


我らは上を見上げるのです。


降り注いだ栄華えいか


こうして我らを包むので。




哀れみやう我らの下へ、降り注いで来たのです。


今日も


苦しむ人びとの足元を


日光と


雨と


死と


生が


降り注いできたのです。


我らも


彼も


私も


助からないのです。


怖いと空を見上げても


誰も助けてはくれないのです。


我らは今日も


誰かの虚構と苦しみを


空気中にたゆたう惨劇を


睨んでいるだけです。


そして


降り注がれるのみです。

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