第7話 怪獣✕少女⑴

「なぁ!これ見て!」


 俺と瑠璃、来ヶ谷が、大地のスマホを覗き込む。どうやら、なにかの動画が再生されるようだ。


「え、なにこれ!アンモナイト?」

「分からない……、でもなんかこれ……」

「そう、縮尺がおかしいんだよ!まるで特撮とかジオラマの撮影みたいに、周りの建物が小さいの!それでほら!この後も!」


 画面の中で瓦礫を巻き上げ、ロボットが着地する。そして、アンモナイトの触手を切り伏せ、最後は本体を叩き切った。


「な、これかっこいいだろ!こんなにリアルな特撮見た事ないよ!それに、これを撮った人が言うには、これは本当に起きたことだって言うんだぜ!?想像力豊かだよね!最近地震が多いのは、それ全部怪獣の足音だって言うんだ」

「なにそれ、陰謀論も大概にしなきゃねー……、どしたの、二人とも」

「い、いや、何でも……」

「あはは、面白いジョーク。ね、城川くん」

「そーそー」


 まずいな、これは報告しなければならないのでは……。今回はコメントを見る限り冗談半分と言った感じだが、そのうちその正体を突き止めようとしたりする奴が現れないとも限らない。


「よーし、今度僕も地震の時カメラ回してみよ」

「それはやめておいた方がいいかな!」

「危険だし!危ないし!」

「好奇心は止められないよ!大金はたいて買ったビデオカメラもあんだから!ほーら、シャッターチャンスカモン!」


 俺たちの静止を振り切り、大地は外にカメラを向ける。しかし、当然そこには何も現れず、ただただ夏空が広がっているだけだった。


「こんなポンポン怪獣が来るわけないでしょ」


 ぺしっと華がツッコミを入れる。しかし、弱ったな。怪獣が出れば、俺たち最低どちらかが向かわなければならない。そうなれば、大地に疑われるのは当然の流れだ。


 さて、どうやって誤魔化そうか。そうやって悶々と考えていると、何やらスマホにメッセージが届いた。要約すると……。


『夕方、作戦会議兼実習をするから真っ直ぐ帰ってくるように!』


 とのこと。車は雫さんが出してくれるという認識で間違ってないだろうか。俺は、そもそもまだあの本拠地をよく知らない。行きは目隠し、帰りは徒歩だがただ着いて行っただけだ。


「なになに?女の子からメール?」

「そんなとこ」

「……、何、嘘つかなくても」

「嘘じゃないって。最近知り合った人。家が近所でね」


 なんだコイツ。俺の事を、女性と関わりのない可哀想な奴だと思っているのか。残念だったな。お前よりも年上で、大人の魅力に溢れた女性と、今は関わりを持っているんだ。


「近所も何も、お前寮だろ」

「え?今日寮とは逆方向から来てたけど?え?なんで?」

「そ、それは……そう!引越し……」

「泊まってた!」

『……へ?』


 思わず俺も口に出してしまう。何口走ってるの、こいつ!?


「私の家に、泊まってた……」

「は!?」

「恭弥くん、ちょっといいかなー?」

「ちょ、俺じゃない!瑠璃に!瑠璃に聞いてくれ!」

「女の子の口から卑猥なこと言わせる訳には行かないでしょー!」

「お前の頭はピンクか!俺は何もやましいことなんてやってないっての!」

「ならなんで一日で結構好感度取り戻してるのさ!絶対何かあったでしょ!」

「それは……」


 ここでアダムやアイギスの話を持ち出す訳には行かないし……。適当に濁すか。


「俺の事を再評価してくれたからだよ!それと、俺はこいつとはただ近所の知り合いで、泊まったってのもご飯一緒に食べて、その後寝かしつけただけ!余程地震が怖かったんだな!その後は普通に家に帰ったよ!」

「ふーん……、そっか。まぁ確かに、最近は地震多いよねー。毎日のように避難訓練はあるし、この国は一体どうなることやら……」

「来ヶ谷さん、その事について小一時間語り合おうか!」

「わ!陰謀論者に火がついた!」

「火の不始末は各々で片付けてくれ」

「そ、そんなぁ!」


 俺は大地と席を交代し、瑠璃の隣に座った。そこから、大地のマシンガントークが始まる。お前が巻いた火種だ、後始末頑張れ。


「でもいいのか?お前も入らなくて」

「いや……」


 すると、ツンツンと瑠璃が肘でつついてきた。そして、すっとスマホを見せる。


『昨日の女の子について、今からLINEで話そう』


 そこには、そう書いてあった。俺としても、二人には情報を共有しておきたかったところだ。というのもこのグループ、雫さんも居るからな。


『俺が移動教室から帰る時、屋上に人影が見えて、確認しようと思ったんだ』

『ふむふむ……』


 なんだ、瑠璃って案外スタンプとか使うんだな。可愛らしいうさぎのスタンプを使ってる。


『で、向こうから話しかけてきたんだ。宇宙人って信じる?ってさ』

『宇宙人……。エネミーのこと?』

『多分。俺のことも、赤い巨人くんって呼んでた』

『君の存在には気が付かれてる。もしかしたら、私も……』


 少し、瑠璃の表情が強ばる。そりゃ、怖いだろうな。俺だって怖い。すると、今度は雫さんからメッセージが来た。


『エネミーは、今のところは地上から現れてるよー』

『そうですか。あぁ、彼女は地底人とか、怪獣とかも言ってましたね』

『まぁ、どれかと言われれば怪獣かなー。でもエネミーはまだよく分からないことも多いんだよ。まぁ、それでも情報の交換は大事だよね』

『そうですね』

『ん、協力していく』

『感心感心。だけど……』


 だけど……?それ以降返信がなくなり、ガラリと教室のドアが開く。ザワりと、教室の男子陣が湧いた。


「え、何あの人。可愛い」

「綺麗だな。新任の先生?」

「なんつーか、えろいな」


 新任の人が来たのか。一体どんな人……だ!?


「え!?」

「はーい、みんなー、席に着いてね。育休の藤間先生に変わって、私、波島雫先生が授業を始めるよ!だからスマホはしまって!ね?」


 まじかよ……、雫さん、教員免許なんて持ってたのか!教師姿はかなり似合ってるよな。いつもは使っていない伊達メガネがいい味を出している。


「ところでさ……」


 雫さんが、俺の方……、いや、俺の前の席に座っている大地と来ヶ谷を見て一言、「君たちどうしたの?」と言った。キラリと、大地と来ヶ谷の頭が光る。


「電波妨害です!」

「地球は侵略される……、せめて私たちだけでも生き残らなくては……」


 うわ言のようにブツブツと呟く来ヶ谷。余程精神に来ているらしい……。

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