第5話 少女✕衝動⑵

 昼休み。

 移動教室からの帰り道で渡り廊下を通った。のっぺりとした入道雲に、黒い髪が揺れる。


 ……ん?なにかおかしくなかったか?俺はもう一度、屋上を見上げた。


 その光景は、酷く異様だった。屋上は立ち入り禁止なのである。普段は鍵がかかっており、入ることも出来ない。なのに何故……。


「大地、これ机に置いといてくれ!俺トイレ行ってくるわ!」

「ん、いいけど……、って、おーい、トイレはこっちのが近い……」


 俺は荷物を大地に預け、階段に向かった。屋上に続く階段は2つ。近い方の階段に向かうと、何やら屋上の扉を閉鎖している南京錠が床に置かれていた。やはり、鍵が開けられている。


 ドアを開け、一度も入ったことの無い屋上に立ち入る。


 最近の屋上と言うと、どちらかと言うと鳩の糞なんかで汚いイメージがあるが、大して目立たなかった。その代わり、どこから侵入したのか分からないがふたつの缶コーヒーの空き缶が転がっている。密会の名残だろうか。


 っと。そんなことより。少女は……、居た!貯水タンクの上でアイス食べてる!


「ねぇ君!」


 声をかけようとした時、少女は俺に話しかけてきた。先手を打たれたわけだ。


「君さ、宇宙人って信じる?」

「……はぁ?」

「答えてよ。まぁいいけどさー」


 そう言うと、少女は足をバタバタとさせながら手を上に向けて、何かを掴むような動作をした。これはもしかして、大地以上か……?


「ちなみにだけど、宇宙人はいるよ。怪獣も、地底人だって。だって私今、交信してるもん。宇宙人と」

「……」


 撤回。こいつ、大地以上に頭トんでる。流石のあいつも、陰謀論を吹聴するだけで、ミステリーサークルだの、パワーストーンだの、その類のことに手を出すことは無かった。

 あくまで、「あぁ、この子はオカルトが好きなんだな」程度の認識がされていた。


 だからこそ、女子からもそこそこ好印象だった。なんなら、告られたことだってあったと聞いている。

 まぁ、「趣味の時間消えるからヤダ」との事で、断り続けていたんだが。


 あ、表向きには「好きな人がいる」ことになってるんだっけ。女子達よ気が付け、あいつの恋人は宇宙人だのUMAだのだ。


 おっと脱線。あ、ひとつ気がついたことが。彼女、よく見ればここの制服じゃない。


 よく似ているが、違う制服だ。他校の生徒だろうか。


 まぁ、どちらかと言うと不思議ちゃんという印象がそれを覆い隠すほど強いので、その点で話を進めていこう。彼女も、その話がしたいのだろうしな。


「で、交信した結果どう?」

「そうね。夕方には来るって」


 ……まじかよ。でも、昨日のことを経験した以上、俺もどこかでその事を信じてしまう。しかし、この子は昨日のことは知らないだろう……。


「じゃあ、私も帰るか。じゃあね、赤い巨人くん」


 そう言うと、彼女は貯水タンクの上に立ち、そこから防護フェンスを飛び越え、地面に落ちた!

 俺は仰天し、急いでフェンス越しに地面を確認する。しかし、そこに彼女の姿はなかった。


 おいおい待てよ、この校舎は4階建てだぞ?その屋上から飛び降りて、無事なはずが……。それに……。


「赤い巨人……は!?」


 あの子、俺の事……、いや、アダムのこと知ってるのか!?不味いよな……。国家機密っぽいし……。


 あれか、俺の頭はもうお釈迦で、あれは昨日の異常事態に耐えかねた脳が生み出した幻影……。


 まぁ、波崎さんには連絡すべきだな。今は昼時だろうけど、会議中にかけるよりかはマシだろう。


 俺は、昨日登録したLINEから、波崎さんに連絡する。


『もひもひ?ひろははふん?』

「あ、お食事中でした?」

『いいのいいの、今事務仕事中だから。おばちゃん、コロッケ定食おかわり!』


 いや、吐くなら少しマシな嘘を……。それに、コロッケ定食、おかわりって……。まぁいいや。とりあえず伝えるべきことを伝えよう。


「あの。実はさっき、俺がアダムに乗ってることが一人の女の子にバレまして……」

『……ぶーっ!げほっげほっ』

「だ、大丈夫ですか!?」

『お客様、大丈夫ですか!?布巾お持ちしますね!』

「お、お気になさらずー。で、ほんと?それけっこーまずいんだけど……。いっその事、この後の会議で、アダムとエネミーの存在を公表すればいいって話そうかな……」

「あ、それと……、もしかしたら、夕方にまたエネミーが現れるかもしれなくて……」

「まじ?それもそーとーまずいね……。これも会議の議題に……、あー、アダムは昨日改修作業に入って使い物にならないし……、あ!夕方ならあれが届くかも!」

「あれ……?」

「うん!あ、そこ置いといてください!じゃ、立て込んでるから切るねー」

「あ、はい」


 どうやらコロッケ定食が到着したらしい。俺も、昼食にするか……。


...


 さて、あれから連絡があり、俺たちはまた避難所となった体育館で待機することとなった。2日連続ともなると、流石に大地も退屈そうだ。ぼーっと天井を見上げていた。


「なー、抜け出さない?」

「やだよ。怒られたくないもん」


 それに、さっきから古森の視線が痛い。それを見兼ねた来ヶ谷が、ヒラヒラと手を振ると、フン、とでも言うようにして本に目を落とした。


「これで私に全責任が降りかかったわけなので、君たち分かってるよね?」

「わかってるって。分かってないのはこいつだけ」

「酷いこと言うなぁ……、あれ、瑠璃ちゃんは?」

「……あ、瑠璃はその……、トイレだよ!きっと、すぐに帰ってくるし!」

「そうか……、なら待ってるかなー」


 そう言うと、大地は壁にもたれかかって退屈そうに天井を見上げる。きっと、あいつは今戦ってるんだ。俺だって参加したいが、「先生たちが怪しむでしょ、そんなポンポン居なくなられたら」と言われた。


 まぁ、今回は表向きは避難訓練だからな。これも学校行事の一環なんだ。まぁ、今は彼女の無事を願うばかりだな。


「でもさ、昨日一回すごい揺れたじゃん?」

「あー、確かに。私その時ちょっと他の子と話してたけど、恭弥くんがトイレに行ってた時なんだっけ?」

「そうそう。なんか見た?」

「地震だろ。ほらこれ」

「あ、確かに……。でも、緊急地震速報なんてあったっけな?」

「しょうがないよ、あの時はみんなが一斉にスマホ使い出したからか、地震で電波塔が壊れたからか分からないけど、一時的に電波が繋がりにくかったから」


 あー、多分後者だろう……。緊急地震速報の件も、真上さんが気象庁に掛け合って緊急地震速報を流してもらうよう頼んでいたのだ。そして、電波塔は恐らく瑠璃かエネミーが破壊した。


「とにかく、君たちはここに待機!わかった?」

「おう」

「はーい」


 どうやら大地も懲りたらしい。さて、あとは瑠璃たちに一任するか……。頑張ってください、皆さん……。


...


 なんだろう、この機体。アダムよりも、少し動かしやすい。なんというか、動体神経がこちらの方が追いつく。


「うん。今度こそ、行けます!」

『これはアダムとは違う。MarkⅡ アルテミスだ。洞調律も瑠璃くんに合わせた、60%だ』


 アルテミス……、私の機体。

 不謹慎かもしれないが、今の私は興奮していた。これで、エネミーに今度こそ対抗出来る。


「アルテミス……行くよ」


 アダムの頃はまるで身体が追いつかなかったけど……、アルテミスなら。すると、もう一機戦闘機が現れ、その戦闘機からスナイパーライフルのようなものが落とされた。


『兵装だ。受け取ってくれ』


「はい……!」


 スナイパーライフルを受け取り、エネミーを狙う。砂埃にまみれて、まだ見えないが……。


 ふと、瓦礫に目が移る。今はきっと、避難誘導も何も行われていない。それなら、きっと……、あそこにいた人は……。


「ごめんね……、守れなくて」

『来るぞ!』


 金色の触手が伸び、瓦礫を投げ飛ばす。そして、砂埃の中から巨大なアンモナイトのようなものが現れた!あれがエネミー!瓦礫は避けられる……、けど、避けたら瓦礫が市街地に…。それなら!


 引き金に手をかけ、瓦礫を全て破壊する。なにこれ、レーザー?


『お察しの通り、これはレーザーだ。プラズマ粒子を打ち出し、触れたものを分解させる。射程は100メートルだ』


「なるほど……」


 試しに、エネミーにライフルを当ててみる。しかし、あのエネミーに当たる寸前で止められる。あれは……、バリア?


『まずい、エネルギーが収束されてる!ビームが来るぞ!』

『司令!シールド調整終了しました!すぐにでも展開できます!』

『了解した!瑠璃くん!受け取ってくれ!ビームシールドだ!』

「はい!ビームシールド、展開!わっ!」


 戦闘機からシールドを受けとり、展開し、そのままビームを弾く。が、その衝撃でビームシールドから弾き飛ばされた。


『大丈夫か!』

「はい!少し弾かれただけです!」

『先程のデータによると、ビームが放出される一瞬、バリアが無くなるみたい!その一瞬、叩ける!?』

「試してみます!」


 とは言ったものの……、あ!ビームシールドが変形している!地面に落ちた衝撃で変形したのか!あれがあれば……!


「ビームシールド!コンバート!ビームソード!」


 一瞬を狙うのなら、こちらの方が……!ビームシールドは大剣のように変化し、襲い来る触手を切り払う。


 全ての触手が無くなった頃、またエネミーがエネルギーを一点に集中させ始めた!チャンスは今!昨日と同じなら、ここが弱点!


「ここだぁ!」


 ビームソードを突き立てると、先程とは違い確かに手応えがあった!そのまま勢いのままに突き抜けた!


「アルテミス・スラァアアッシュ!」


 勢い付いて叫んでしまい、少し恥ずかしいが、それ以上に高揚感が体を包んだ。エネミーは、力なく項垂れ、そのままピクリとも動かなくなった。やった……、勝ったんだ……。


『瑠璃くん、大丈夫か?』

「はい。アルテミス、共に無事です。司令、指示を」

『あぁ。あとはこちらで回収をしておく。それと、今回の件、雫くんが避難指示を出すようにと私に話してきてな。幸い、人的被害はゼロだ。君も無事に済んだことだし、本当に良かった。それに、今回は破損、欠損もなく初の完全勝利だからな。私も鼻が高い』


「そう……、ですか」


 ……おかしい。なぜ事前にこの事態が予測できた?後で、雫さんに問いつめなくては…。


 それより今は……、いち早く……、ご飯が食べたい……。


「お腹、空いたな」


 くぅ、とお腹が鳴った。うん。今日くらいは、ちゃんと夕飯食べよう。それと……、やっぱり、エネミーと戦うのは怖いな。あんなにダメージを受けながらも、頑張って倒したなんて、恐れ知らず……。


 いや、違うな。きっと、彼も怖かったんだろう。だけど、それを押し殺して、エネミーを倒した。本当強いな、彼は。


 あんな態度をとるのも、もうやめにしようか……。苗字を聞くくらい、なんだ。家族のことは話す気にはなれないけど。

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