第3話 深紅✕巨人⑶
「こちらとしても不本意なのだが、政府による決定事項だ。致し方あるまい」
「そ、そんな……」
「真上さん」
俺が絶望する中、少女が俺と向かい合った男性に諌めるように声をかける。すると、真上と呼ばれた男性は「ふぅ」と溜息をつき、指を組みなおした。
「が、先程言った通り、これは政府のご意向だ。そんなものはこの場においてはただのマニュアルの一部に過ぎん。この場での最高決定権は私にある。そして、君の存在はまだ政府にバレていない」
「それじゃ……、俺は……!」
「あぁ。君の命は私たちが保証しよう。死刑などにはさせない、約束する……が」
少し口角が上がっていた俺に、真上さんはまだ話は終わっていないとでも言うように言葉を付け足した。
「こちらとしても情報を漏洩される訳には行かんのでな。君を監視、並びに利用させてもらう」
「利用……?」
「そうだ。私たち、『人類防衛戦線アイギス』が君の身柄を預かり、またあのロボット、アダムに搭乗し、未知なる敵、エネミーと戦ってもらう。君の道は二つに一つだ。私たちと共に戦うか、短い生涯を閉じるか」
な、なんだよその条件。戦うか、死ぬか……?二つに一つって……。
「そ、そりゃ……、生きたいですよ。でも……、あれ乗ってると、傷がつかないとはいえ痛いし、何より危険だし……」
「最終決定権は君にある。しかしこれだけは言わせてくれ。このままでは、世界はエネミーに蹂躙され、滅んでしまう。君も見ただろう。あの怪獣を」
「見ましたよ……、でもあの時は興奮してたからなんともなかったけど、やっぱ怖いです……、あんなのと戦うのは」
「無理もない……。しかし、君はよくやってくれた。君のおかげで、世界の滅びがひとつ引き伸ばされたのだ。初めての搭乗であそこまでとなると、君にはやはり才があったのだろう。君は特別なのだ。是非とも我々に力を貸して欲しい」
ふわりと、身体中の毛が逆立つ感覚が迸る。
嬉しかったんだ。俺の事を、この人が必要としてくれてる。それが、たまらなく嬉しかった。あぁ、俺って案外ちょろいんだな。
「……やらせてください。俺が、あのロボットに乗ってエネミーと戦います!」
「ありがとう。何分私たちは政府直属とはいえ新設の組織だからな。猫の手も借りたいんだ。では、瑠璃くん。波崎くんには私から話をつけている。あとは頼んだ。私は偽装工作で忙しくなるからな」
「政府の目を欺くってやつですね。……あの、今回は半分は私の不手際です。その処分は」
「なに、瑠璃くん。君への処分などはない。強いて言うならば、次回、それを挽回できるほどの活躍をすればいいんだ。期待しているぞ」
そう言うと、真上さんは立ち上がり、この場を後にした。
ドアが閉まった瞬間、全身の力が抜けていくのを感じ、机に「ぬへぇ……」と情けない声を上げながら突っ伏した。
「まるで緊張感がない……」
「君だって、処罰されなくって喜んでんじゃない?」
「……、どっちもどっちってことで」
『ふぅ……』
全く同じタイミングで、ため息を着く俺たち。処罰がなかったってのもあるんだろうが、彼女はきっとエネミーを倒せた余韻に今更浸っているんだろう。
「あのー、二人ともー、ぼーっとしてるとこ悪いけど……」
「えっ!?」
「雫さん……、恥ずかしい」
いきなり背後から話しかけられ、振り返ると、笑顔を称えるおそらくこの組織の制服であろう格好の女性が立っていた。髪型はショートボブ。結構綺麗。
「まぁ、君たち大活躍だったからねぇ、気が抜けちゃうのも無理ないよ。あ、君は初めましてだね。お名前は?」
「城川恭弥です」
「恭弥くんね、私は波崎雫。この組織のオペレーター兼君たちのメンターだよ。よろしくねー」
「よろしくお願いします」
俺は深々と頭を下げると、波崎さんはクスリと笑った。
「そんなに畏まらなくてもいいよー、私まだ23だし、君らとちょっとしか変わらないから」
「いや、結構変わる気が……」
「たはー、手厳しいねぇ、そっか、私ももうおばさんかー」
けたけたと笑う波崎さんに対し、俺の脇腹を肘で小突いてくる少女。女性になんて失礼なと軽蔑する目だ。
「とにかく!恭也くん、君の部屋に案内するねー」
「部屋?そんな事しなくても……」
「身柄を預かるって言われたでしょ?」
確かに言われたな。でも、ここまでトントン拍子で事態が進んでくとは……。
やはりこれも政府の権力というか、国と繋がっているから人を動かせるんだろうか。いや、でも人手は少ないって言ってたな。
「ではでは!二人ともー?私たちのお家にレッツゴー!」
「私たち……って!同棲ってことですか!?」
「改めて言わないで……。私だって、出来れば認めたくない事実なんだから」
「まぁまぁ。寮みたいなもんだと思ってくれれば。ちなみに君たちは私に引き続き二、三人目の住居人なのです!」
確かに俺らは全寮制だけど、異性二人とってなるとなぁ……。まぁ、今更か。ここでもし逃げ出しても、確保、説得それでも無理なら死刑だもんな。
「しょうが無いですね……。そういや、君名前は?」
「私……?」
「そ。これから関わりも増えるだろうし、名前くらいは知っときたいから。あ、俺はもう知ってると思うけど、城川恭也。よろしくな」
「……私は瑠璃。よろしく」
「苗字は……?」
その質問に、彼女は答えなかった。だが、これ以上は詮索しない方がいいと思うほど、彼女の雰囲気は一変して冷たくなっていた。
「ご、ごめん」
「ん……」
「あ、あはは……、じゃ、出発しよっか!こっから徒歩五分ほど!結構近いよ!」
仕切り直すように波崎さんは手を叩き、俺たちの間に入って先導した。
瑠璃はムスッとしたままだ。やはり何かあったのか……。でも、自分の名前が嫌いなんて、変わってるよな。しかも苗字。
「着いたよ!これ、部屋の鍵ねー。最低限の家具はあるから、ゆるりと寛ぎたまえ!」
「ここが……」
寮と言うより大きめのアパートっぽいな……。白塗りの外装に、二階建ての駐車場、駐輪場完備、駅近で立地も悪くない。俺はさっき渡された、部屋番号を書かれた鍵を確認する。
「俺102号室。君は?」
「103」
「そっか、ご近所さんだね」
「おどけるのも結構だけど、実戦の時はちゃんとして。あなたは少し、緊張感に欠ける。この世界の命運は、私たちに掛かってるんだから」
「あはは……、あ、夕ご飯は6時からだかんねー!部屋には一応ガスも通ってるけど、みんなで食べるよー!食べないなら連絡……行っちゃった」
波崎さんの言葉に振り向きもせず、瑠璃は部屋の鍵を開け、中に入った。
「あの子の家庭、少し複雑でね。本人からは何も聞いてないんだけど、少し身の上を調べさせてもらったんだよ。まぁ、プライバシーの侵害ってことで詳しくは言えないけど……、多分あの子も当分は言いたくないだろうね。私にも、君にも」
「なるほど……、あ、俺料理手伝いましょうか?」
「お、いいのー?じゃあ、お願いしちゃおっかな!」
「任せてください、自炊くらいはしたことあるんで!」
かくして、俺は料理を作る手伝いをすることになったのだった。
...
「ところで、君は順応するのが早いね。一日二日は部屋に引き篭るもんだと思ってたけど」
野菜を切っていると、波崎さんが話しかけてきた。少し考え、遅れて返答する。
「……今日起きたことが多くてもうなんか現実味が無さすぎて……、怪獣と戦ったり、死刑になりかけたり、年上と歳の近い異性と暮らすことになったり……こうやって料理してる方が、なんか落ち着くんです」
「それもそっか……、あ、そこの皿使っていいよ」
「わかりました」
結局、2人で食卓を囲んでいたのに、瑠花が現れることは無かった。
...
「碗部の大破、メインカメラ、及びコンピュータの破損等、被害はバカになりませんねぇ」
「これじゃ、次の襲撃までに修復できるかどうか」
「別にいいだろう、勝てただけ御の字だ」
「真上司令!だからって、これは……、エネミーがいつ襲ってくるかも分からないのに……」
「近日イギリスからMark.2が送られてくる手筈になっている。問題は無いだろう……」
「それならいいんすけどねぇ、さて、間に合うのか……」
...
「赤い巨人……、凄い。あんな凶暴なエネミーを倒しちゃうなんて……。あれ、人が乗ってるのよね……、それも男の子……。ちょっと引っ掛けちゃお」
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