第16話

ウルドの訓練中、突然現れたモンスターの大群との戦闘になったウルドたち。

大群を狩り尽くしたと思ったら、あの女モンスターが姿を現した。

どうやら、あの女モンスターがあの大群を率いていたようだ。

そして、ジン先生と女モンスターとの戦いが始まった。


「どうしたんだい、異能使わないでアタシに勝てると思ってんのー。ほらほらどうスんの?」


「くっそ、お前なんかこの腕だけで十分だよ。」

(強すぎだろこいつ‥。笑えるな。10分で応援が来ると言ってみたものの実際は何時になるか分からない。なんと言ってもここは山の奥。この女モンスターがそれで引いてくれれば良かったんだが‥。何とか応援が来るまで粘るしかないか。)


先程ウルドたちが戦ったD級モンスターを優に越えるスピードで拳がぶつかり合う。

純粋な暴力の戦い。

(何で異能を使わないんだ‥)

ウルドは疑問に思っていた。

異能を使えば劣勢になることないのにと。

しかし、ウルドは気付いていなかった。

ジン先生はもし、自分が異能を使い気配を消したら生徒2人に女モンスターの狙いが変わる可能性を考慮していることを。

その場合怪我しているウルド、アレックスの2人は抵抗することなく、殺される可能性があることを。


「てか、前々から思ってたんだけどアタシ、お前とか女モンスターとかって言う名前じゃないんだけど。プンプン。アタシにはちゃんと『ラビ』って名前があるんだけど。あ、呼び方はラビちゃんとかでいいよ。」


「そんな無駄口、叩けるなんて随分と余裕そうだな。そんなんだと俺にすぐに狩られるぞ。」


「いやー、だっておじさん弱いんだもん。ちょっと期待はずれだったわー。まあ、後ろの2人のせいで異能使えてないからしょうがないのかもしれないけどさ。あと、腕庇ってる?右腕かな。さっきモンスターと戦った時の傷って訳じゃ無さそうだね。」


「弱いか。久しぶりに言われたな。そんなこと。異能が使えないとか右手がちょっと痛いとかそんなの関係ない。俺はお前に勝つ。そして、守るこの2人を。」


(もしかして、あの腕の傷ってボクが暴走した時の‥。先生は大丈夫と言っていたけどやっぱり)

ウルドは俯く。


「大丈夫。俺が勝つ。」


その言葉は誰に向けられたものなのか分からないかったが、ウルドはなんとなく大丈夫な気がした。




  ○

時は遡り

ジン先生がまだ先生と呼ばれていなかった頃


ジンは、狩人の用語で群れと呼ばれる仲間と居酒屋にいた。

群れは任務の時は常に行動を共にし、協会から出される任務を遂行する。

そんな群れの中でも注目の的となっていたのがジンが所属している群れだった。


「ジンさん今日はどんなモンスターが出ますかね。」


そう人懐っこく聞いてくるのは、ジンと同じ群れに最近入った新人狩人のリンだ。

リンは新人で15歳ということもありこの群れの中では先輩かつ兄のようにな存在であったジンになついていた。

そこには、別の感情もありそうだが‥‥


「俺は何処へ狩りに行くのかも知らないからそういうことは、リーダーに聞いてくれ。」


「嫌ですよ。リーダー話かけにくいですし、って、げ!?いや別にリーダーの話をしてたわけじゃないですよ。うん、本当です。」


(ジンさん気づいてたなら教えてくださいよ。)というリンの目線が痛いが俺は黙っておく。


「…ワシはまだ何も言っとらんのだが、まあいい。何か聞きたいことがあるって言っておったろ。」


「そうだ、今日の狩りは何処でやるんですか。」


リンは冷や汗をだらだらと垂らしながらひきつった笑顔でそう言う。


「すまんが、今日はワシは別の仕事が入っていてな。

ワシ抜きの3人で狩って欲しいのじゃ。とは言っても今日は北の森の簡単な警戒だけじゃからモンスターとの戦闘は少ないと思うがの。」


「えー、アイツ要らなく無いですか。」

(そうすればジンさんと2人っきりなのに)


「ボクのことを呼んだかい?お嬢さん、ってお前リンじゃん。なんでこんなことにいるんだ。」


「こっちの台詞よ。あんたにはここに集まること教えなかったのに。誰が教えたのよ。」


リンはプンプンといった顔で怒りを表現する。


「いや、ボクはジンさんから聞いて来たんだけど‥」


と微笑を浮かべながら、アキトは言う。


この男はアキト。

リンより2歳年上で狩人としての経験も多い。

しかし、ジンからすればまだまだな存在で、ジンは2人のことを兄弟のように思っている。


「あ、ならいいの。先輩がやることは全て許されるの。」


「なんだよそれ。」

女心が分からないアキトは当然リンの恋心も分からない。


「それよりリーダー、あの森は最近めっきりモンスターが現れなくなったよな。俺はそこが逆に気がかりなんだが‥」


「モンスターの生態系は謎じゃからな。いつ産まれ、何処で暮らしているのか。分からないことばかりじゃ。そういうこともあるんじゃないか。」


「そうですが‥。」


こうして、ジンは釈然としない気持ちを持ちながら、リン、アキトと北の森への警戒任務に向かう事となった。

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