第八話「友達として」

 初日の授業を無事に終え、あたしは寮へ帰った。

 生徒の数が多いからか校舎や関連施設が広く、寮は歩いて一時間近くかかる場所にある。

 さすがに歩いて通学するには骨が折れるけど、学園内には乗合馬車が走っているからそのあたりは問題ない。

 

 寮の部屋はキッチン風呂トイレ付きワンルーム。

 ふかふかのベッド、新築のように綺麗な内装。


「よし! 明日はアリシアも来るし、もう今日は早く寝よう」


 学園初日で精神的に疲れたのか、びっくりするぐらいよく寝れた。

 とはいえ長年染みついた使用人の習性が抜けていないのか、まだ日が登ったばかりの時間に目が覚めた。

 

 顔洗ったり登校の準備をしたりとなんだかんだしてもアリシアが来るまで時間が余った。


「アリシアをもてなす準備をしたいところだけど何も出来ることないし…………昨日の復習でもしようかな」


 アリシアを試験に合格させるにはあたしも重要になってくる。

 アリシアが行うトリプルペタル取得試験は、同じ受験者との対人戦が試験内容らしい。

 国内の治安維持も軍人が行うユリリアでは、対ユリリア人の訓練も行われる。

 むしろそっちの方が多いみたい。


 魔力を持つ“シース”は最初に魔力を提供するだけじゃなく、その後戦況を見極めながら“魔力を練る”のが主な役割。

 “シース”の魔力は持続性がないって授業で言ってた。

 先に“ブレイド”に魔力を渡して、“ブレイド”の中で魔法を使わなくても自然消滅する。

 だから直前に魔力を渡して、魔力を練る必要がある。

 けど魔力を練るってのがイマイチよく分からない部分でもある。


「…………」


 へその下あたりにあるらしい魔力を形成して蓄える“魔力葯アンサー”には、通常は魔力が半分程度ある状態らしい。

 その魔力の器を埋めるように、地面から湧き出る水のようなイメージで魔力を形成する。


 と、習ったけどやっぱり分からない。

 こればかりは感覚的なことで、多分一回出来れば今後も出来るんだろうけど、その最初の一回が重要。

 明日はアリシアの試験日、それまでにコツを掴まないと。


「でもどうすれば……。水を注ぐとかじゃなくて湧き出るって言ってたし、多分下から汲み上げられるような感覚なのかな」


 取り敢えず逆立ちしてみる。

 血が頭に集まるような感覚を“魔力葯アンサー”で再現出来ればもしかしたら……。


 と思ったけどダメだこれ。

 先に腕とかが死ぬ。


「やめよ……あわぁっ!?」


 逆立ちを止めようとしたその時、若干腕がしびれたのか見事に転倒。

 ドタンと大きい音を立てたと同時、誰かがドアを勢いよく開けて入ってきた。


「どうしたサラ!? ……大丈夫かい?」


 心配そうな表情で入って来て、困惑顔で間抜けな状態のあたしを見るアリシア。


「あー……おはよう、アリシア」


「おはよう。何があったか気になるのだけど、聞いても構わないかな?」




 □◆□◆□◆□◆□◆□




「なるほど。魔力を練るためか。私はてっきり寝ぼけたまま制服に着替えた末路かと」


「あたしはアリシアほど寝相悪くない」


「私の寝相はそれほど悪くないと思うが?」


 あんだけ寝ぼけながら襲ってきてよく言うよ!?

 こっちは毎日ドキドキしながら起きてたのに!


「しかしまぁそう言うことなら力になれないかな。私はシースではないからそのあたりのことは分からないし」


「やっぱり同じシースに聞くのが一番なのかな」


「そういうことだね。まぁ焦ることはないさ。明日の試験では魔力を練る必要はない」


「え、そうなの? でも試験内容って対人戦なんだよね?」


「そうだ。だが最初の授吻さえ出来れば問題ない。あとは魔力を使い切るませに勝てばいいだけのこと」


「相手って弱いの?」


「いいや。今回の相手は“暴風姫ストームリリー”と呼ばれるアウラだ。実力はほぼ同じと言ってもいい」


「じゃあダメじゃん!」


「サラはさっきから何を気負いしてるんだ? 確かに君も評価されるとはいえ、試験自体は私の問題。君は気楽にしてて構わない」


「それは……そうかもしれないけど……。でも! 命の恩人だからとか置いといても、アリシアは大切な友達。友達のために意気込むのは当然でしょ。アリシアには試験に受かってほしいし、そのために出来ることは頑張りたい。アリシアは恩着せがましく思われたくないとか言ってたけど、アリシアこそ遠慮なんかしないで一人の友人としてあたしを頼って」


 言い切ってあたしは恥ずかしくなった。

 もちろん今言ったことは本心だけど、思い返すと熱くなりすぎだよあたし。


 あたしの熱量にアリシアは驚きながらもすぐに笑みをこぼした。


「確かに、遠慮していたのは私の方だったようだね。じゃあ友達として、サラには手伝ってもらおうかな」


「どんとこい!」


「まぁ少し安心したよ。ここまで啖呵を切ったわけだから、当然喫緊の問題である魔力を練ることについて何かしらの算段はついているのだろうし」



「…………」



 当然何の考えもないあたしはアリシアの意地悪な言葉に目を逸らすしかできなかった――――。


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