陰キャがバスケやって何が悪い!

夏矢野 玲音

陰キャにバスケ部はつらい

 キュッキュッと、バッシュの音たてるが床に響く。

 みんなの掛け声と、ボールがネットを揺らす音。

 私はこの環境が嫌いだ。


「キラリー?アンタどんなシュートうってんの?」

「……ごめん。」


 キャプテンのミサキが私のプレーに口をだしてきた。

 いつもこうだ。

 今のだって私だけのせいじゃない。私のドライブにミサキが合わせないから仕方なくタフショット(ディフェンスがついた状態で打つシュートのこと)になったんじゃないか。


 だけど、そんなことは私にはいえない。

 だって……

 

「あんたどーせシュート入んないんだからパス出しときゃいいのよ」

「そーそー、キラリはシュート打たんでいいよ」

「ご、ごめん」


 私はコミュニケーションも満足にとれない陰キャ。


「ミサキ!ナイッシュー!!」

「ナイスパス!チセ!」


 彼女たちと私は違う。


 私みたいな陰キャにはこの部活は似合わない。

 ……やっぱりやめるか。



「……ただいまー」

「ちょっと、キラリ?アンタ部活辞めちゃったって?どうしちゃったの?」


 帰ってそうそう自室に向かおうとするユイに声をかけるのは母親であるマユだ。


「…………」


 心配する母の声には答えず部屋に籠もる。

 部活のバックをベットに投げ捨て、テレビをつける。

 見始めたのは今日のNBAの試合だ。


 (今日もカイリーえぐ)


 カイリー・アービング、彼は世界最高峰のドリブル技術と他を圧倒するフィニッシュ力を持つ、ユイの憧れの選手だ。


 ユイが彼のプレーを最初に見たのは小学生のときだった。

 ユイは今も昔も小柄でみんなと並ぶと頭1個分以上離れて小さいことは当たり前だった。

 どんなに上手くゴール下までいってレイアップを打っても横からブロックされて、何度もバスケが嫌いになりそうだった。

 そんなとき、彼のプレーを見たんだ。


 NBAの平均身長は約2m。に対し、カイリーは188cm。

 ユイと同じように頭一つ分周りと差があるにも関わらず、史上最強クラスのドリブルテクニック、

巧みなフィンガーロール(指を使いボールに回転をかけシュートを打つこと)で相手を翻弄するさまに私は驚愕した。

 周りより背が小さくても輝くことができるって教えてくれたんだ。 



 でも……


 

 (あれ?)

 気付いたときには彼女の頬に涙が流れていた。


 

 何も身に入らない。

 SNSをしても。母に話しかけられても。

 何も楽しくない。

 テレビを観ても。漫画を読んでも。


 (退屈だ)


 私の胸に空いたバスケという穴は相当大きかったらしい。部活動をやめた1週間、生きているのか死んでいるのか。それさえも分からない。バスケはしたいけど、近くにバスケができる環境はない。


 何度も衝動的に部活動をやめたことを後悔した。

 だけど、一度逃げたした以上もう戻れない。


「キラリ?アンタほんと最近大丈夫?」


 母は生気のなくなったかのような娘をここ最近ずっと気にかけている。


「……うん大丈夫」

 

 抑揚のない返事しか返せない。

 私にはバスケしかないんだ。

 それ以外は何も。何も。


「ねぇ、キラリ。近くにバスケの屋外コートができたんよ。知ってる?」


 夕食のとき、不意に母が話しかけてきた。


「屋外コート……」


「そう、かなり綺麗だったよー?いってみたら?」


「……うん、行ってみる」


  


 屋外コー卜……ちっちゃい時に何回かいったくらいだったな。部活があるから屋外でやる必要なかったし。

 など考えながら母に教えられた場所に向かう。夜の冷えた風が肌に突き刺さる。


 どうやらもともとあった公園の空きスペースを利用して作られたようだ。

 ここを曲がればコートがある。

 (ん?なんかラップの音?)


 夜の闇の中を浮かぶように強く照らされた青いコート。

 中ではフィリピン人?みたいな外人の人たちが音楽ガンガンかけながら試合をしていた。


 中にはゴールが3つあり、試合ができるようになっている2つのゴールをフィリピン人たちが使っており、もう一つは空いているようだった。


 大人数でワイワイやっている彼らをよそにユイはさっさと準備をしてシューティングを始めた。

 ネットを通る音が心地よい。1週間もバスケができなかったのだ。ここで思う存分に楽しもう。


 ユイが黙々とシューティングを楽しんでいたときだった。


「ねぇ、君。上手だね!」


 声をかけられ振り返って見るとそこには私と同年代に見える女の子が2人。

 声をかけてきた人はお団子ヘアーの可愛らしい子。服装は白のタンクトップとストリートスタイルだ。

 後ろにいる子は背が高く170はありそうだ。髪はボブヘアーで、スポーツ生地の紫Tシャツを着ている。

 そして、2人ともバスケットボールをもっていた。


「あ、ありがとうございます」


「ポジションはガード?」


「は、はい。一応シューティングガードをやってました」


 お団子の子がめちゃめちゃグイグイくる。

 ……悪気はないんだろうけど……ちょっと、


「おい、この子嫌がってそーだよ。やめたげな」


 ボブの人がお団子の人を止めてくれた。


「あ、ホントに?ゴメンねー、ウチ、人との距離感バグってて」


 お団子の子は指摘されるとすぐに目の前で手を合わせて謝ってくれた。

 ……悪い人たちじゃなさそう。


「あ、いえ、全然そんな……」


 ……こうやって人と話すと自分がホントに嫌になる。上手く返せない。周りの空気を悪くする。

 

「……申し訳ないんだけど、私たちもバスケしたくて……このコート一緒に使わせてもらってもいい?」


 お団子の子が申し訳無さそうに頼んできた。

 別にここは私だけのコートじゃないんだから断る必要はない。


「あ、全然……大丈夫です」


「ホントにー!ありがとう!!」


 とゆうことで半面コートを3人で使うことになった。

 と、いっても何かするわけではなく、2人がコートの半分を使って1対1 をしてもう半分を使って私がシューティングをする。ただそれだけだ。



 ある程度シューティングして疲れたので水分補給をしながら2人の1対1を見ることに。 


 ボブの人はどうやら初めて日が浅いっぽい。ドリブルやシュートモーションがぎこちない。だが、その高身長をいかして150台のお団子の子をゴール下に押し込んでシュートを決めている。

 対して、お団子の子は……結構うまい。珍しく左利きだし、3ポイントシュー卜は難なく決める。その上3ポイントを警戒して近寄ってくると、ドライブで抜いて体をコンタクトさせてブロックされることを防ぎながらレイアップを決めている。


 いい感じに拮抗している2人の対決を見守っていると、なにやら2人で話始めた。

 そして、


「ねぇ、よかったら1対1やらない?」


 お団子の子が声をかけてきてくれた。

 ちょうどよかった、シューティングだけだと、飽きていたところだ。


「よ、よろしくお願いします!」


 

「私の名前は堀北 柚香ほりきた ゆずかっていいまーす!あ、ちなみにあっちのデカいのは高木 舞たかぎ まいね。君はなんて言うの?」


「わ、私は川上 綺羅里かわかみ きらりっていいます。」


「キラリちゃんかー。よろしくね!じゃ、ルール決めよっか!」


 話やすいなユズカさん……私もこんぐらいコミュ力あったらなぁ……


 と、いうことで話し合い(私は頷いてるだけ)のすえルールが決まった。

 7点マッチで、時間は無制限。3ポイントラインより外は2点加算でそれより中は1点加算。得点したら連続でオフェンスをする。ファウルしたら、もう一回相手のオフェンスでフリースローはなし。そして、審判はマイさんがしてくれるということだ。


「オッケー?」


「は、はい大丈夫です」 


 ジャンケンの結果先攻はユズカさんに。

「じゃ、よろしくね~」


 ボールを一度私に渡して、ユズカさんに返したらオフェンスの開始だ。

 ユズカさんがスリーが得意なのは分かってるから出来るだけディフェンスは寄っとかないと。

 右手を上げてシュートをチェックしながらディレクション(オフェンスの方向を制限すること。この場合ユズカの左ドライブをさせないようにしている)をする。

 それに対しユズカさんはジャブステップ(ピボットをして相手にドライブのフェイクをかけること)をしてこちらの反応を伺っている。


 私の前足を狙うようにユズカさんは右足を体を入れながらだす。それに合わせ私も右足を引き対応する。すると、右足を引き今度は左側を狙ってきたため、またそれに合わせて今度は左足を引いた。

 すると今度はもう一度左側にステップを踏んできた。

 (来る!)

 予想通り右ドライブを仕掛けてきた。だが、思ったよりも速い。クロスステップを踏んで追いつこうとする。

 が、ユズカさんは左足で地面をけり後ろにステップを踏む。

 (バックステップ!?こんな位置から!)

 私は完全に虚をつかれシュートスペースは十分すぎるほどに確保された。

 彼女から放たれたボールはキレイに弧を描く。


 スパッ


 ネットを切る音が響く。


「よっしゃー!これで2-0ね!」


 嬉しそうなユズカさん。

 だか、


「ピピー、線を踏んでたため1点です」


 マイ審判のジャッジによるとユズカさんはスリーポイントのラインを踏んでいたようだ。


「えー!いいじゃんケチー!!スーパープレーじゃん!!」

 

 ユズカさんは文句をいうが、マイさんは首をふり判定は覆らない


「ちぇー!まっ、いいや」


 シュートは入ったので連続して私はディフェンスだ。

 彼女にステップバックシュートがあるとわかった以上さっきよりハードにディフェンスしないと。

 今度はジャブステップは踏まずにもらった瞬間左ドライブを仕掛けてきた。

(止める!)

 今度はサイドステップでしっかりと前に入る。すると、止められたユズカさんはボールを前から後ろに引き、またもバックステップを踏む。

 (まずい!)

 スリーポイントラインから少し離れた位置だったが、先程のシュートがある以上これぐらいのディープスリーなら彼女なら打てるだろう。そう踏んだ私はシュートチェックをするべくジャンプをするが、

 (っ!フェイク!)

 そう、ユズカさんはまだドリブルを終えていなかったのだ。

 飛んできた私をかわしながら左ドライブにいくとフリーでレイアップを決められてしまった。

 やられた。まんまとシュートヘジテーション(ドリブルを継続しながらシュート動作をすると見せかけるスキル)に引っかかった。

 全然うまくいかないな。これだからバスケは……



「ん?」


 なんか今すっごくキラリちゃん笑ってなかった??

 ……ま、いいや。それよりこの試合なんとか2点リードできたけど、キラリちゃんシューティング見てた感じだいぶ上手そうだからここで勝負つけないと。

 なんせあのハンドリングスキル……私守れる気しないもん……

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