第116話 ジュードの別れ

扉の前に立つ三柱の異界の神々、体の大きさと形は異界の怪物であるアゼルヴェードと同じ、しかし内側から光り輝いているせいか、輪郭がボヤけて見える。自分が神だと名乗った訳ではない。だがその神々しさからジュードは異界の神だと理解出来た。


(この世界の勇者よ。もう戦う必要はありません。)


ジュードはアゼルヴェードから離れて片膝をつき、神々に一礼した。


「異界の神々よ、我が名はジュード、お初にお目にかかります。差し支えなければお教え下さい。この怪物との戦いを収めて如何なさるおつもりでしょうか?」


(この者を元の世界へ戻し、その魂を永遠に封じましょう。)


「無礼を承知で申し上げます。この怪物はこちらの世界で多くの者をしいし、人々を混乱におとしいれた張本人です。私の手で始末する事をお許し下さい。」


(その願いを叶える事は出来ません。元々はそちらの神の一柱がこの者を呼び出した事が発端で、我等は奪われた者を取り返しに来ただけ。勇者といえどさえぎる事は許しません。それにその者をこの場で殺せば、その魂はこちらに留まってしまいます。魂を封じるには元の世界へ連れ戻す必要があります。)


ここまで黙って聞いていたアゼルヴェードが慌てて喋り始めた。


(おっ、お待ち下さい。なぜ私が封じられねばならないのでしょうか? 私は神々のしもべとしてこの世界をけんじようとしていただけです。どうかそのお力でこの世界を支配し、私を神々の末席にお加え下さい。)


烏滸おこがましい。お前如きが神々の列に加われる筈はありません。神々の列に加われるのは善を成した者だけです。身の程を知りなさい。)


そう言ってから異界の神々の一柱がその触手をアゼルヴェードに向けて突き出すと、爆音と共に雷がアゼルヴェードに落ちた。雷に打たれたアゼルヴェードはもがき苦しみ、姿形を維持できずにその場で崩れ始める。異界の神々は2度3度と雷を落とし続けて苦しみを与え、魂と僅かな肉体だけとなったアゼルヴェードを拾い上げ、扉へと向かって行った。取り込まれていた森人族エルフの神の魂は既にアゼルヴェードを離れ、どこかに消えていた。


(ジュードよ、我等が去った後にこの門を破壊しなさい。それで2つの世界の繋がりは失われます。)


そう言い終えると異界の神々は扉の奥へと消え、扉は内側から閉じられた。ジュードは命じられた通り光の剣で門を破壊した。すると門を開くためについやされた多くの魂が現れ、天へと昇っていく。その中には紋章の精霊達も含まれていたが、ジュードの周りを暫く飛び回った後に、何も言わずに飛び去って行った。


(よくやりました、ジュードよ、ジークが転生せし者よ。貴方のお陰でこの世界は救われました。ですが肉体を失った貴方はこのままでは下界に戻る事が出来ません。貴方が新しい肉体を得るまで、私と共に神界で過ごしましょう。)


ジュード達の世界の主神が語りかけた。


「主神の思し召しのままに。」


ジュードがそう応えると、ジュードの半透明の体は徐々に消えて行った。


ーーーーーーーーーー


王宮を包む白く大きな光、その近くにいにしえの神々と、本陣から駆けつけたガイとクリスが立っていた。多くの連邦軍の兵達も周囲にいる。


「これは神界への入口だな。普通の者は光に触れるなよ。触れれば肉体を失う。」


「ではジュード様はもう亡くなられたのでしょうか?」


「いや、この光の中でアゼルヴェードと戦っているのであろう。もはや我等にはどうすることも出来ん。ジュードが勝つ事を祈るだけだ。」


「光の中に入った勇者が敵と戦う、これはまるで伝承にある英雄王と魔神の戦いだわ。」


大勢が光の玉を見守るが、その中で何が起こっているのか誰も窺い知る事は出来なかった。しかし半刻ほど経つと光が薄れ始め、少しすると完全に消えた。ガイが兵達を連れてすぐさま王宮へ突入する。だが彼らが見つけたのは中庭の中央にある壊れた門だけだった。

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