第84話 精霊石の罠

イェリアナとシルリラは悩んでいた。紋章や神装具の訓練は続けているし、僅かだが持続時間も伸びてきた。紋章だけなら問題なくなってきたが、神装具の負担は大きく、神装具を使い始めると5分程度で力尽きてしまう。とても実践で使えるレベルではない。マリリアは1人でザンバという異形の者を撃墜したという。彼女は既に自分達の1歩も2歩も先を進んでいる。それも悔しかった。


マリリアはマリリアで悩んでいた。北の大陸へ行くジュードに連れて行けないと言われた。何故、は分かっている。自分では足手纏いになってしまうからだ。ジュードが行ってしまった後の防衛も、現状ではとても自分が担えるとは思えなかった。


ある日の訓練、その日はミケ達を休ませて弓矢の訓練をしていると、イェリアナとシルリラが合流してきた。それで3人で訓練をしていたが、イェルリナとシルリラの上達にマリリアは驚かされた。イェルリナの大剣は、これまでは衝撃波を飛ばす程度だったが、今はその衝撃波が鋭さを増し、離れた木の枝を切ってしまった。連撃の速さも増している。シルリアは、これまでは1度に1つの魔術を放つだけだったが、今では火と風、火と土を組み合わせて更に強力な魔術を放っていた。こちらも連射が早い。


「どっ、どうしたの。短期間ですごく上達して。凄いじゃない。」


「まあね、秘密があるんだけどね。」


「マリリアさんは知りたいですか。」


マリリアが頷くとイェルリナとシルリラは胸元からペンダントを出して見せてくれた。よく見るとペンダントヘッドには精霊石と名付けたあの赤い石が嵌め込まれている。おそらく先日攻めてきたゾルダンとクルルの体から取り出したものだろう。どこも欠けていない。ハグバという羽持ちの赤い石は砕けていた筈だ。


「これって、危険だから使うなって言われてたでしょ。」


「マリリアは心配性だな。何度か使ってみたけど何もなかったよ。ケララケの勧めで使ってみたんだけど、なかなか良いよこれ。」


「これがあれば神装具の扱いも簡単ですし、トラの協力も必要ないんですよ。マリリアさんも使ってみたらどうですか。」


「でも、欠けてない精霊石って2つしかないよね。」


「そのうち3つ目が手に入りますよ。」


数日後にザンバという異形の者が脱走を試みて、イェルリナとシルリラに討たれた。数日前にシルリラがそのうち手に入ると言った事との関連も気になったが、それよりもイェルリナとシルリラが異形の者を討ったという事に驚いた。


「さあマリリアさん、あなたの分のペンダントを作りましたよ。これを胸に当てて、精霊の力を使ってみて下さい。」


「それとさ、ケララケが言うには、このペンダントは常に付けていろってさ。」


イェルリナとシルリラに言われてマリリアはペンダントを付けて紋章の力を使ってみた。すると不思議な事にペンダントから力が溢れてくる。試しに神装具で矢を放ってみたが、殆ど疲れを感じなかった。高揚感とでも言うのだろうか、大きな力を与えられて気持ちが昂るのをマリリアは感じた。これなら戦える。


それから3人は更に紋章の訓練に没頭した。精霊石は使えば使うほど神装具との親和性が高くなっていると感じた。しかも疲れない。もう精霊石を手放せなくなっていた。ある時、ジュード達は精霊石が紛失したと騒いでいたが、秘密の場所に隠してますよと伝えると、騒ぎは落ち着いた。嘘をついた罪悪感は僅かにあったが、服に内側に隠している胸の精霊石に触れると落ち着いた。


「よぉ、3人とも随分と上達したんじゃねぇか。」


「あら、ミケじゃない。凄いでしょ。まだジュードには秘密にしておいてね。驚かせたいから。」


秘密にしていた訓練場所に急にミケ達が現れて焦ったが、イェルリナが上手くあしらった。フワフワと飛びながら去っていくミケを矢で狙ったが、それで騒ぎになると面倒なので、射掛けるのを止めた。ジュードが相手でも対等以上に戦える、そう確信が持てるまで秘密にしておきたかった。

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